ジメジメした季節はストレスに拍車をかけます。
それに、業界的に忙しいこの時期、少しでも夏を先取りして気分をリフレッシュしようと躍起になり、友人と夜ゴハンの場所を探して恵比寿を徘徊しておりました夜。

よく通る路地に、いつの間にか新しい店が出来ていました。
アジアンリゾートダイニング的な、まさに夏向けの外観。
オープンテラスになっていて、広すぎず狭すぎずの白い空間のところどころに、南国風の植木が置かれ、壁には海の写真が飾ってあるのを即座にチェックした私たちは、ここいいかもね~と、波に乗るように、中に入ってみることにしました。

ところが。

こんなにも早く一抹の不安を覚えたのも珍しいくらい、足を踏み入れた瞬間に、ちょっと今夜、違ってしまったかも?と思ったわけです。
それは、その店のスタッフが、おそらく50歳代であろう、どうみても脱サラ組の夫婦が二人で切り盛りしている姿が目に入ったからなのです。

漠然とした不具合感をおして、奥の席に。
私はなるべく鈍感になることにし、友人との会話を楽しむことにしましたが、もはや市原悦子的な目線で気になる様々な動き。


どうやらお母さんが厨房~カウンター内担当、お父さんがホール担当。
お二人とも夏をイメージしたであろうTシャツ、ジーパン姿。
おそらくこの店の南国スタイルにあわせて意識して着用しているのだと思われます。

お父さんが注文をとりに来てくれるのですが、その受け答えなど非常にご丁寧なのが、悲しいかなこのラフな異国ムードを演出したい空間にとって、少し違和感がある気がしてなりません。

料理に関しては、アジア、エスニックを意識したであろうメニュー。
ですが、意図と反して非常に日本的な和皿にきちんと盛りつけられたエビやチキン。味付けもダシがいきた繊細さで、ご夫婦の親切さが滲み出ている日本の家庭料理を思い起こしてしまうのです。


夜。サラリーマンやOLさんのグループが入れ替わり訪れ、適度ににぎやかになってきた店内。

OLさんグループのオーダーしたフローズンカクテルを作るため、ドキッとする程大きな音を出す機械で何度も何度も氷を砕くお父さん。
カラフルなカクテルを頼まれ、慣れない手つきでゆっくりとシェイカーをふるお父さん。
店内の音楽がきれて無音になり、焦ってCDをかえているお父さん。
そういうときに限って、すいませーんというオーダーが入って、一緒に焦るお母さん。
ものすごく静かにテーブルに皿やグラスを置き、何も言わずに定位置に戻るお父さん。

ご夫婦はおそらく、とてもいい方々なのだと思います。
無理している訳ではないんです。
ただ、アジアンリゾートスタイルという匂いが、微塵もないだけなのです。

命取り。
私は、自分の中に生まれた哀愁感を消し去るように、普段は頼まないであろう「チチ」という夏のリゾート風味満開のカクテルを頼みました。

チチ。
ウォッカに、ココナッツミルクとパイナップルジュースを入れ、シェイクした、南国ムードの定番カクテル。

暫くして、ココナッツ風の器にもられ、ハイビスカスとパイナップルが奇麗に飾ってあるチチが運ばれてきました。
このカクテルがお父さんの手によって目の前に静かに置かれた瞬間。

しまった。。。

このチチによって、その他全てのものとのギャップが現実化され、よりいっそう浮き彫りになってしまった気がして、私はこれをオーダーしたことを悔やみました。
ここが確実に恵比寿の路地裏であることを痛切に感じる、極めつけの一杯になってしまったのです。

お願い。なんとかこの夏、乗り切ってほしい。

リフレッシュのつもりが、逆に心配事を抱え込んだ夜。
ご夫婦を陰ながら応援しようと密かに誓ったのです。