履歴書  という紙を前に、全く動かないボールペン。


住所  書いた。


学校  書いた。


志望動機?


「うーん」


随分前から姿勢が変わらない僕に、智くんがどこから入ってきたのか、声をかける。


「何を、やってんだ?」


「智くん!」


書きかけの履歴書を見て、智くんはキョトンとした表情。


家族を亡くして、智くんはそれ以前よりずっと側に居てくれるようになった。


僕にはとっても嬉しい時間。


相変わらず、僕の話を静かに聞いてくれるし、質問すれば必ず何かしらの答えをくれる。


でも、何より嬉しいのは、智くんが無表情でいる時間が短くなってる気がすること。


困ったり、なんと答えていいのかを考える仕草をしたり。


前よりずぅっと人間っぽい。


「あのね、友達がJ事務所に応募するって言うから、一緒にこれ出してみようと思って」


「履歴書ってことは、なにかに採用されるってことだろう?そこは何をするところなんだ?」


「んー、えっとぉ」


「その、伸ばす話し方は好きではないな」


「うん、気をつける。J事務所はね、ダンスとか歌とかを教えてくれるんだよ」


智くんの話をスルーしたことに気付かないふりをした僕に、肩を竦めてみせる。


「翔は、いろいろ勉強してるのにまだ何かを教わるのか?」


「勉強じゃないの。遊びだよ。部活みたいな感じ。受からないと始まらないんだけど」


「ふふふ、頑張ればいいさ」


頭をクシャって掴むように撫でてくれる。




本当はね、智くんみたいに踊れたら良いなぁ


って思ったんだ。


智くんのはダンスと言うより舞って感じだけど。


智くんが踊ってるのを見ると、嫌なことも何もかも忘れて、真っ白になれるんだ。


あんな風に、踊れたら


いつか、智くんと一緒に踊れると良いなぁ。



志望動機


綺麗に踊れるようになって、見てくれる人が  (本当は智くんだけでいいんだけどね)  喜んでくれるようになりたい。