俺の本棚~面白いッ書 第688回

令和6年7月22日

今日も猛暑である。 我がマンションの9階の部屋の南・北・西の6枚の窓を全て開けたのに、風が少ない。 とうとう、室内温度は30度を超えた。 今夏、最高である。 エアコンの無い戸建て住宅の難儀は如何程か、と気の毒に思う。 ・・・翌日も30度を超えた、外気温は34度、やはり、異常気象がこの札幌にも忍び寄って来ている、と実感する。

同じ日、テレビでは網走のオホーツクカントリーで行われている「オホーツクシニアオープン」(優勝200万円)が放送されていた。 61人のシニアプレーヤーが、涼しくて、美しい景色の快適な環境の中でのプレーに満足げな言動が映し出されていた。 釧路が夏の涼しさをPRしているのと同じ効果が期待される。

 

大相撲、年一回の名古屋場所である。 懐かしき面々が健全である。 我が一山本は中日で何とかの4勝4敗である。 西桟敷席の花道脇の髪結った和服姿の老舗鶏肉屋の大女将、孫息子はかって青山学院大学の箱根駅伝の選手だった。 向こう正面桟敷席の東花道脇の高級クラブのママさん、その前席の坊主頭に近い短髪の親分風?(親方風?) ふたりの会話があったからクラブのお客かな? そして、東側桟敷席に、元・NHK相撲放送の杉山アナウンサーが観戦している、(新聞社の相撲観戦記らしい、1・5・9月の地元・両国国技館では正面桟敷のイイ席なのか、テレビに映らない) そして今日、向こう正面桟敷席のテレビ画面右側に、大村昆がいた。 彼はいつも名古屋場所のどこかで顔を出す。 

 

PGAと欧州ツアー共同で、イギリスでメジャー戦、日本人は8人。 ・・・松山英樹だけ予選通過。

・・・80人中、66位(40千$)に終わった。

LPGAは6人。 ・・・西郷真央、渋野日向子、吉田優利の3人が予選通過。 ・・・吉田、西郷が16位タイ、渋野は80人中53位だった。

それにしても世界レベルでは女子が圧倒している感がある。 予選通過は男が8分の1、女が5割の差がまざまざとそれを示している。

日本女子第20戦は福岡県で。 道産子は8人だったが、小祝さくら、菊池絵里香、阿部未悠、政田夢乃、成沢佑美が予選通過。 ・・・菊池・阿部が35位、小祝・成沢が49位、政田64位に沈んだ。 川崎春花が先週の札幌に続いて4打差を付けての二週連続優勝、天晴れ! 北海道から九州へ大移動の連覇である。 若い子は勢いが止まらない。

 

 

東野圭吾「クスノキの女神」(Oさんから借用、新刊)

月郷(つきさと)神社の社務所に寝泊まりしていた管理責任者の直井玲斗は、神社の所有者である柳澤家の屋敷に住むことになった。 叔母であり、神社の主の千舟さんが軽度認知障害が確実に進行している事から、アクシデントに対応出来るようにする為だった。 おかげで食事には困らないし、風呂にも毎晩入れるし、イイ事ばかりだった。

 

5月、竹箒で鳥居の掃除をしていた時、三人の子供が石段を昇って来た。 高校生の女の子と小学生の男の子、更に年下の女の子である。 こんにちわ、と挨拶してきた高校生が、→お願いがあります、詩集を置かせてもらえませんか?と言って、コピーしたA4判のホッチキス止めした一冊を差し出して来た。 表紙には巨大な樹木イラストと、「お~い、クスノキ」の題名と、早川佑紀奈の名前があった。 プロフイールには、17才、高校三年生と記されている。 段ボール箱には「詩集代金 200円」とあり、「感想ノート」も用意されていた。 最初は断ったが何回も懇願されて、玲斗は渋々20冊を受取った。 子供達が去ったアト、200円を入れて詩集を開くと、→お~い、クスノキ、遠くから会いに来てやったぞ、(中略) ぼくの話を聞きたいか? 聞きたいなら話してやろう、と締めくくる詩があった。 帰宅して千舟にその詩集を差し出すと、→若い人が思いのままに綴ったものを読むのはなかなか楽しいものです、と言いながら、傍らの手帳に何事か書き込んでいる。 障害を自覚している千舟は、身の回りの出来事を黄色い手帳に、行動力記録として肌身離さず持っているのだ。 千舟は料理上手で、今夕は焼き魚と野菜のうま煮で、どれも美味しい。 社務所に寝泊まりしていた時は、コンビニ弁当か、定食屋のメニューだったので、手料理にあり付けるのは涙が出る程、嬉しい限りだった。

 

そして一ヶ月、蒸し暑い日が続き、社務所のエアコンは連日大活躍である。 詩集は玲斗が買った一冊だけ、19冊がそのまま残っている。 佑紀奈と弟が、かわるがわる2~3日置きに来て料金箱を覗いていたが、流石に最近は姿を見せない。 ここはそもそも参拝客も少ないのだ、売れる訳ないよナ、と玲斗は内心思っていた。 ある日、草むしり中にアロハシャツの中年の男が詩集を読んでいたが、代金を入れずに持ち去ろうとしていたのを目撃した玲斗は、追いかけて、→アンタ! 金を払っていないだろう、と詩集を取り返して、石段に押し倒した。 →ちょっと持ち合わせが無くて・・・、としどろもどろに言い訳したが、玲斗は構わずに後ろポケットから財布を抜き取った。 札は無く小銭入れに600円少々が入っていただけだった。 →今日と明日、これだけで凌がなくちゃならない、勘弁してくれ、と情けない声である。 その時、階段を佑紀奈が上がって来た。 玲斗と男の話を利き終えた佑紀奈は、→詩集の代金は余裕が出来たらお支払い下さい、その代り感想を書いて下さい、と告げると、男は、→必ず払うよ、約束する、と答えていたが、玲斗は、→財布の中の免許証を出せ、と言って、素早くスマホで撮影した。 →これで身元を確認した、バックレたら承知しないからナ、と解放すると、男はしかめっ面しながら石段を降りて行った。

 

夕食時に千舟に報告しながらスマホの免許証を見せると、→久米田康作? えッ、この人、同級生だったマツコさんの息子だわ、お家は有名な材木商だったが、婿養子に取った旦那さんが亡くなってから、事業が頓挫して、10年ほど前に廃業されたんです、その時、副社長だった息子・康作さんは、役職にふんぞり返っていただけで実務はまるで役立たず、よそに勤めても何度も辞めてしまうものだから、松子さんも遂に頭にきて家から追い出してしまったンです、しかし、余りにも荒れた生活をしていたので、見るに見かねて半年ほど前に家に呼び戻した、と聞いています、こんなにも落ちぶれているんですね。

 

近所で強盗致傷事件が起こった。 森部俊彦という実業家が被害者である。 妻が帰宅すると、居間で夫が頭から血を流して倒れていたので、救急と警察に通報したらしい。 リビングボードに保管していた現金が消えており、警察は捜査を始めたのである。 こんな田舎町でも事件が起きるんだ、と玲斗は思いながら、今夜の新月は坂上さんと言う人がクスノキ祈念の予約が入っているので、その準備に精を出していた。 佑紀奈の弟・翔太が詩集を取りに来た。 300冊作った詩集が佑紀奈が駅で売ったりした結果、在庫が底をついたらしい。 祈念準備中の蝋燭の燭台を見た翔太は、→クスノキにお願いしたら本当に叶うの? もしそうなら、お母さんの脳脊髄炎減少症が治る様にお願いしたいナ、看護婦だったンだけど、6年前にお父さんが建設現場で事故死してから、頭痛・目眩が酷くなって仕事が続けられなくなった、それでこの詩集を売って少しでも家計を助けたい、と頑張っているのサ、と吃驚する打ち明け話であった。 玲斗は息苦しくなってきた、自分も苦労してきたがこの子たちに比べればず~っと豊かだった。 1,000円札を一枚出し、5冊置いていけ、と言うと、→毎度あり~、でも同情は要らないヨ、応援だけよろしく、とニヤッと笑って駆け出して行った。

 

午後10時過ぎ、予約の60代の坂上様がやってきた。 クスノキの祠で灯す蝋燭は二時間用を確認して燭台毎手渡す。 →坂上様の念がクスノキ様に伝わりますこと、お祈り申し上げます。 クスノキの祈念は二種類、新月の夜に預念、それを受取るのが満月の夜の受念、血の濃い繋がりがあるほどその念が伝わるが、柳澤家によって厳重に管理されており、この奇跡については無暗に広めてはならず、現在の管理者は玲斗なのである。 間もなく、舟木からのスマホが鳴った、→坂上さんから電話があった、直ぐ、クスノキの所へ行きなさい、との指示である。 駆け寄るとクスノキ祈念口の所で人が倒れていた。 スマホを持ったままの坂上さんである。 即、119番すると10分強で救急車がやって来た。 容態を診ていた隊員は、これは心筋梗塞だな、と呟いた。 同乗して下さい、と指示されて病院に同行する。 舟木に報告すると、ご自宅にも連絡して下さい、と電話番号を知らされた。 零時を過ぎていたが掛けたら留守番電話になっていた。 自分は神社の管理責任者で、坂上さんが倒れた事や病院名と玲斗の番号を吹き込んだ。 ベテラン看護師が、坂上さんの家族を連絡を取りたい、と言うので、今、留守番電話に吹き込んだと告げた時、警官が数名、傍を通り過ぎたので、→玄関にパトカーも止まっていましたし、何か、あったのですか? と訊くと、昨日の強盗致傷事件の被害者が入院している、と言う。 結構な怪我で今朝まで集中治療室にいたが、意識を回復したので事情聴取が始まったらしい。 坂上さんの救助に夢中で社務所の戸締りもしていないナ、と思いながらつい、居眠りしてしまった。 スマホが着信を知らせている。 →坂上の妻ですが、これから至急出掛けます、と息を切らすような声だった。 そして30分後、小柄な女性が強張った表情で駆けつけて来た。 先程の看護師に紹介すると安心した様子で連れて行った。 間もなく夫人が戻ってきて、→お陰様で大事に到らなかったようです、先生はもう心配ないだろうとの事です。 本当にありがとうございました、これは心ばかりのお礼です、と封筒を差し出してきたが、受取れません、と拒絶しても、主人に怒られます、と強引だった。 玲斗の収入は祈願料金と、年に数回の舟木からの労り賃だけであるが、寝る・食べるという経費がゼロなので、どうにかなっている。 奥さんは、今夜は会食があると、聞いていたのに、何故、神社に居たんでしょうか? と不思議がったが、それはご主人に直接お聞き下さい、と断わった。 午前4時過ぎ、始発まで仮眠すると決めて封筒を確認すると、一万円札が入っていた。 坂上さんの祈念料金と同じだった。 始発のバスで帰路につき、神社に戻ったのは7時過ぎだった。 祠を確認すると蝋燭が燃え尽きていた。 祈念が始まって30分ほどで坂口さんが舟木に電話した筈だから、アト1時間半、燃えていた事になる。 救急車を待っている間に点検出来たのに・・・ 危ねェ、強風が祠に吹き込んだらクスノキが燃えてしまう、こんな失敗談は舟木にはとても報告できない。

 

二日後、昨夜も祈念した人がいたので社務所にそのまま泊まったら、舟木から電話が入った。 →捜査の為にクスノキを見たいと警察が行きますので案内しなさい、との指示である。 まもなく、目付きの悪いスーツの男と、制服の鑑識班が続いている。 玲斗は、「月郷神社 社務所管理主任 直井玲斗」の名刺を出すと、相手は警察手帳を掲げた、→中里さん? 理由は何ですか? →ある事件にクスノキが関わっている可能性がある、鑑識作業を始めるから案内してください、と取り付くヒマもない。  →三日前、ちょっとした事件があってその容疑者を逮捕した、逃走中にこのクスノキに隠れていたらしい、と続けた。 坂上さんが倒れた時だ、確かにその時間はここには誰もいなかった、その経緯を手短に中里刑事に語った。 →被疑者はここを出た時は午前6時頃と言ってたから話が合うナ、と言うので、それは強盗致傷事件ですか?と訊くと、→軽々しく口外しないでくれよ、と指を唇に当てて不気味な笑みを浮かべた。

 

鑑識中は社務所でお茶を一服した。 中里刑事が写真を取り出して、→この男に見覚えが無いか? と訊かれたが、それは久米田康作だった。 200円の詩集を盗もうとした事を教えると、→そうか、前々から非常時の隠れ家として頭にあったンだナ、と納得していた。 →交番に出頭してきて、今のところ、住居侵入は認めているが、強盗致傷は否認しているンだ、だから、何としても物証が欲しい、と決意の籠った顔付だった。

(ここ迄、全312ページの内、46ページまで)

 

(ここ迄、5,100字越え)

 

令和6年(2024)7月22日(月)