令和6年7月4日
俺の本棚~面白いッ書 第685回
全米シニアオープンで、藤田寛之がプレーオフで破れて優勝を逃したが、約7,000万円をゲットした。 日本のシニア優勝は1,000万円強であるから、約7回分の金額である。 世界中から集まる強豪ばかりだろうが、やはり、価値ある勝負である。
Oさんから新刊3冊借用。 東野圭吾「クスノキの女神」、中山七里「ドクター・デス再臨」、大沢在昌「魔女の後悔」である。 図書館からの3冊の文庫本は借用期限があるから、これらは10日後かなァ。 BS・263チャンネルのPGA放送を録画して見る方法を教えてあげた。 これで元会社のSさんと二人目である。
池井戸潤「俺たちの箱根駅伝 上」(U内科からの新刊) ・・・第683回の続き
寄せ集まった16人の練習は紆余曲折の連続だった。 しかし、全大学の監督から個人個人の特徴や走り癖や家族の事までを聞き取っていた甲斐監督は、しっかり練習のその走りを見極めて、都度、個別な言葉を掛けていた。 また、マネージャーの矢野計図(けいと)の提案で、全員、下の名前で呼び合っていてチーム内の親近感がグッと増していた。 甲斐監督は16人に箱根駅伝の何区を走りたいか、それぞれ二つずつ希望を出させていた。 いよいよ、明日、12月29日は区間を走る10人の発表である。 ・・・午後6時過ぎ、消灯された体育館に監督が全員を誘っていく。 真っ暗じゃん、電気くらい・・・と誰かが言った途端、突如、皓皓たる明かりが点灯したかと思いきや、割れんばかりの大歓声が上がった。 16人が所属する大学の陸上競技部の部員達だった。 甲斐監督が仕組んだサプライズだ、と悟った時は全員が感動と驚きで言葉を失っていた。 隼人!隼人!と明誠学院大学の仲間達が声を張り上げている。 ひな壇に選手が整列すると、マイクに立った甲斐監督が、→ここにいる全員がひとつのチームだ、学生連合チームは決して寄せ集めの集団ではない、ここに居るみんなの思いを背負い、大切な人の為に走る、一緒に練習し、努力し、信じて来た事のために戦う、一つのチームなんだ、確かに伝統の重みは無いが、箱根に対するこれだけ大勢の思いがある、本選を走るチームの中のウチは最大のチームなのだ、みんなの思いを一つにして箱根駅伝の本選に臨みたい、と大声で叫ぶと、老練の大沼コーチ(70才・東邦経済大学の監督)が白地に赤の学連チームのタスキを捧げ持ってきた。 16人がそれぞれタスキを手渡して繫がって行く。 甲斐監督から振られたキャプテンの隼人は、→このチームにはず~ッとアゲンストの風が吹いていて、それと必死に戦ってきました、しかし、こんなにも多くの仲間がいる、絶対に、恥ずかしい戦いはしたくありません、全力を尽して・・・と声を絞り出すと、不意に涙が零れた。 →隼人、頑張れ!と声が掛かる。 →僕たちの事を応援して下さい、宜しくお願い致します。 大きな拍手が巻き起こる、・・・隼人は思った、何かが起きる、俺たちは戦える、と。
甲斐監督が区間エントリーを発表し始めた、一区・諌山天馬! 品川工業大学の仲間が、歓声を上げている。 二区・村井大地! 東邦経済大学。 三区・富岡周人! 目黒教育大学。 四区・内藤星也! 関東文化大学。 大学それぞれの部員が都度、大歓声を上げている。 五区・倉科弾! 物凄い歓声が上がった、山王大学は未だ本選に出場した事がなく、弾が初めてなのだ、彼の底なしのスタミナはチームの誰もが認めている。 六区・猪又丈! 長崎育ちの急峻な坂道を熟してきた猛者である。 七区・桃山遙! 東洋商科大学が、やったぞ!と歓声を上げる。 八区・乃木圭介! 京成大学が万歳を連呼している。 九区・松木浩太! 清和国際大学のチームメイトが抱き合って喜んでいる。 甲斐監督が最後に声を張り上げる。 →十区、アンカーを務めるのはやっぱりこの男だ、キャプテン、青葉隼人! 管内から大歓声が上がり、俺は名前を呼ばれないのか、と半ば覚悟していた隼人は天井を仰ぎ、静かに瞑目した。 腹の底から武者震いする程の興奮が込み上げてくる。 箱根駅伝本選、夢の舞台への門が今、開かれた。
「俺たちの箱根駅伝 下」
大日テレビの陣容は、移動中継車3台、バイク2台、固定中継車12台、クレーン6基、ヘリコプター2機、以上、往・復路で49か所もの中継ポイントが設置され、系列局からのスタッフを併せ、1,000人の体勢で臨む。 29日はチーフ・プロヂューサー徳重亮、チーフ・デレイクター宮本菜月から最終説明があり、スタッフ全員が番組に対する取り組み方を共有していた。 予報は曇りのち雨、今、芦ノ湖のスタッフによれば粉雪が舞っているという。 もし積もったら番組としては最悪である。 明日は危ない・・・と、徳重も宮本も危惧していた。 雪の中を中継車もバイクも走れるだろうか? ヘリコプターは飛べるだろうか? 徳重も宮本も本社内の副調整室で難しい顔をしていた。 病気欠場したいつもの人気アナウンサー・前田久志から代わった、辛島文三がセンタースタジオを仕切っている。 最初は応じなかった辛島を、徳重と宮本が口説き落とした名アナウンサーである。 優勝候補でもある東西大学の1区ランナーが変更された。 「南、時として野獣と化す」という、評判の高い南広之である。 平川監督の1区から独走を狙った起用であろう。 ガンガン行く南を追って潰れる者が出る可能性が高い。 しかし、諸刃の剣でもある。 スタミナ的に20km余りを走り切れる程、万全ではあるまい。 途中の電池切れで敢え無く撃沈と言う事だって考えられるのだ。
案の定、南がぶっ飛ばしていた。 しかし、やっぱり最後は4位にまで後退した。 連合チームの諌山天馬は、甲斐監督から言われた、→残り3キロは気力だ、気力で負けるナ!と激を飛ばされて、最後の200mの記憶が弾け飛んでいる、次走者の村井大地にタスキを渡して突っ伏した時に、甲斐監督の、→天馬、最後、良く抜いた、頑張ったナ、ありがとう! カッコ良かったぞ! とマイクの声が聞こえてきて止めどなく溢れる涙に体を震わせた。 途中、体調がキツクなって、最後尾から16位まで上げたのだった。 ゴールで倒れ込んだ南に掛けた、東西大学・平川監督の冷たい声をマイクが拾った、→南、お前もやっぱり人間だな、ご苦労さん。 何という人を食った言葉なのか、誰もがそう感じただろう。 勝利への執念は凄まじく、良く言えば熱血漢、悪く言えば暴君と化す平川監督の地が出た言葉なのだろう。
村井大地は快調に飛ばした。 この権太坂さえ登り切れば少しは楽が出来る、と頑張っていたら、我が大学の監督であり、連合チームのコーチの大沼から、→ここで休むな!下りで休むな、全力で走れ!と激が飛んで来た。 大学の連中と一緒にここ迄、応援に来てくれているのか、と感激した。 →ここが勝負の分かれ目だ、途中でぶっ倒れたら俺が骨を拾ってやる、ライバルの青木に勝て、勝て! ・・・区間走で3位、勿論、東西の青木を上回った。
3区・富岡周人は7位でタスキを受けた。 ここは父も走った区間である。 父からはいつも冷めたい目で見られていて、自分の能力に自信を失っていた。 記録の残らないものに何の価値もない、父の人生哲学だった。 残り200m、次走者の内藤星也が大きく手を振った大声が聞こえて来た、→周人さん、周人さん! →待ってろ、星也、今タスキ渡すから・・・と思った途端、先のランナーがタスキを渡すのが見えた。 抜けなかった・・・スマン、星也。 →周人、ナイスラン!良く走った、ありがとう。 甲斐監督の声が心地良く耳に届いた。 待機エリアのスマホに、父からメールが届いていた、→いい走りだったよ、良く頑張った、ラスト3キロ、ちょっと顎が上がっていたぞ。 →わかってるんだよ、と笑みを浮かべて肩を揺すった。
4区の内藤星也は、甲斐監督が、→心と体がバラバラだ、と3キロ辺りから心配そうだった。 平塚中継所で急な腹痛を覚えてトイレに駆け込んだ。 ・・・6人に抜かれて極度の焦燥感から精神が壊れそうになった時、→星也、お前ひとりで戦ってるんじゃないぞ、みんなで戦っている、他のメンバーが必ず取り返してくれる、仲間を信じろ、タスキだけを繋ぐことを考えろ。 その声は星也の心にダイレクトに突き刺さった。 →シンプルに考えろ、今できるベストでイイ、それが箱根駅伝だ。 そうだ、小田原中継所には倉科弾がいる、彼ならきっと挽回してくれる。 残り1.5キロ、短剣を突き刺されたような脇腹の激痛を堪えて、タスキを弾に渡した瞬間、星也は力尽きた。 →星也、よく頑張った、ありがとう、来年リベンジだ、楽しみにしている。 甲斐監督からの何よりのご褒美の声だった。
13位でタスキを受けた倉科弾は快調に飛ばした。 小涌園前の定点カメラが4位グループの4人の選手を捉えていた。 何と、その向こうに倉科弾が迫っていた。 (小涌園は箱根駅伝が始まった頃、大日テレビの手抜かりでスタッフの宿泊所が無かった時に、100人もの大勢を無理に受け入れてくれた恩があって、ここだけは固有名詞で放送し続けている、という理由があった) 登り坂15キロ地点を過ぎると、芦ノ湖に向って下り坂が始まる。 →弾、いいペースで走れているぞ、ガンガン行こうか、沿道の皆さん、応援ありがとう、弾、気持イイなあ、イイとこ見せような、弾、と更に温かく心強い甲斐監督の声だった。 →弾、弾、凄い走りだぞ、ありがとう、ありがとうナ、と山王大学のキャプテン・久保山孝博が給水ポイントで走り寄って来た、涙でぐしゃぐしゃにして並走して来る、例え、給水ボトルでも彼の最後の箱根駅伝でもあるのだ。 →ゴー、弾、ゴー! 弾は、→行きます!と告げて前を向いた。 その一部始終が定点カメラが捉えていた。 隼人も浩太も晴も圭介も涙を流してその光景に見入っていた。 ・・・倉科弾が6位でゴールした瞬間、大歓声が上がった。 陸上競技の解説者もアナウンサーも、大日テレビの誰もが、そして箱根駅伝に関わる全ての人々が驚愕の思いでその快挙に圧倒されていた。
(6区・猪又丈は雪の中を猛然と駆け出して行った。 前日の倉科弾の快走に刺激を受けているのだ。 一人を抜いて二人目も抜けるか、と誰もが期待する中、くう、滑って転倒した。 激痛を堪えてタスキを繋ぐ執念の走りが凄い、鬼気迫るものがある。 甲斐監督の、→丈、丈、落ち着け、一緒に走ろう、頑張れ、みんなが待っているぞ、の掛け声。 そしていつ取材したのか、辛島アナウンサーから、長崎の急坂を熟した猪又の紹介があった。 →今、タスキが渡されました、連合チーム、猪又丈、転倒しながらやりました! 悪天候になって代わった、青森浅虫育ちの7区・佐和田晴は海風の強い砂浜で鍛えていた、→いい走りだ、攻めて攻めて攻めまくれ、今日のお前なら行ける! 転倒で下げた順位を5位まで上げて、8区の乃木圭介・一年生にタスキを繋いだ。 このアト、残り区間の2人の激走がある。 果たして、アンカーの青葉隼人は何位でタスキを受け、何位でゴール出来たのか、 ・・・勇退した諸矢監督は横須賀の病院で、結果全てを病床からテレビ堪能した。 ・・・三度読みした、毎度、感涙が溢れ出る。 高校同期の集まりで、Fから訊かれてこの本を推奨したが果たして?)
PGAは久常涼だけ。
LPGAは今週は試合が無い。
欧州ツアーはドイツで、星野陸也、中島啓太の二人。
日本女子第19戦は札幌で。 道産子は11人。
男子はメジャー戦を岐阜県で。
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令和6年(2024)7月4日(木)