令和6年6月17 日

俺の本棚~面白いッ書 第681回

 

文庫本2冊購入。 大門剛明「完全無罪」(2019年文庫書き下ろし)、山口恵似子「ゆうれい居酒屋⑤ 枝豆とたずねびと」(書き下ろし)である。 ・・・速読した。

 

U内科から、新刊の池井戸潤「俺たちの箱根駅伝」上・下巻と文庫本2冊を借用。 新刊単行本とはグッドタイミングだった。 (上・下巻を三日間で読了。 箱根駅伝の予選落ちした大学から16人の選手を選出した学生連合チームに焦点を当てた異色のストーリーだった。 いつも最下位が当然の、寄せ集めの集団がどうやって一丸になれるのか、監督に選出された異色の男、そのチームのキャプテン、このチームに負けたら恥の、予選通過した大学の心情、予選敗退した大学で一人だけ選抜された選手に対する箱根を走れる嫉妬感、放送するテレビ局の心意気や、約1,000名の現場の実況放送に備える用意周到さが絡まってくる。 流石の池井戸潤、感涙シーンも多く、結構な読み応えだった)  

 

PGAと欧州ツアーは、メジャー戦の全米オープン、日本人は松山英樹、石川遼、星野陸也、金谷拓実、河本力、清水大成の6人。 ・・・予選通過は松山だけ。 ・・・惜しくも6位(748千$)、世界のトッププレーヤーが、ラフのワイヤーグラスや、零れ落ちる傾斜と恐ろしく速いグリーンに、四日間の優勝スコアが-6という難攻不落なコースである。 深夜4時から朝9時まで心ゆくまで堪能した。 合計20時間のテレビ桟敷は最高だった。 

LPGAは渋野日向子、古江彩佳、勝みなみ、西村優菜、西郷真央、吉田優利の6人。 ・・・勝と吉田が予選落ち。 ・・・古江が8位(64千$)、西村25位、西郷34位、渋野41位だった。

 

男子日韓共催大会は韓国で、総勢144人の内、日本人は53人、道産子は片岡尚之と植竹勇太の2人。 ・・・共に予選落ち。 ・・・小木曽喬・27才が優勝! 天晴れ!

女子第16戦は、千葉市で。 道産子は、小祝さくら、菊池絵里香、阿部未悠、宮澤美咲、内田ことこ、吉本ひかるの6人。 ・・・阿部、吉本が予選落ち。 ・・・岩井明愛・21才が今期2勝目、小祝が2位タイ(790万円)、宮澤35位、菊池42位、内田46位だった。 これで15勝1敗、絶好調である。 

 

 

 

白蔵盈太(しろくらえいた)「実は、拙者は。」(書き下ろし)

棒手振り(ぼてふり)の八五郎は青菜売りの影の薄い22才である。 大声で売り歩いても通りの客が気付いてくれない程、存在感が無いのだった。 実入りの少ない稼業だが、妻子を持たないから自分が食っていくだけなら多少の酒手も手元に残る。 長屋の連中と楽しく吞む・食うのが一番の楽しみである。 隣の部屋には30才位の雲井源次郎、三年ほど前に越してきた貧乏浪人で、かっては位の高い幕臣に仕えていたが、わけ合ってその家を去り、浪人に身を落とした、と聞いたがそれ以上、己の過去を詳しく語ろうとしない。 月代をだらしなく伸び放題、無精ひげもほったらかしの自堕落な暮らし振りである。 辰三親方は大工の棟梁で25才の一人者である。 この三人はいつも誰かの部屋に上がり込んで吞み合う仲間であった。 裏長屋には一年前に越して来た19才の浜乃ちゃんと、飾り職人の父親の50才近い藤兵衛親子が住んでいる。 波乃ちゃんは八五郎の秘かな想い人でもあった。

 

午後八時頃、ちょいと一杯ひっかけた八五郎が帰る途中、辻の先から騒ぐ男どもの声が聞こえて来た。 野次馬根性の八五郎が塀の陰から目を凝らすと、六人の侍と、一人の黒漆塗りの面頬(めんほほ)を付けた浪人が対峙していた。 浪人はおどろおどろしい声で、→抜け、刀を抜け、と声を掛けるが共回りの五人が抜刀するも、主人風の侍はまだ刀を抜いていない。 →面妖な奴め! こちらのお方を知っての狼藉か! 無礼者め、切って捨てる! 同時に五人が切りかかるも、浪人は軽い身の熟しで、次々と腕や脛を軽く撫でるように剣を振るうと、鮮血を飛び散らして五人は崩れ落ちた。 警護の者達を死なぬ程度に傷付けたり、峰打ちで気絶させたりするのだった。 →抜け、刀を抜け、と主人格の侍に迫る。 八五郎は、→あれは今、江戸中の話題をさらっている「鳴かせの一柳斎」だ、と唾を飲み込んだ。 裕福そうな侍を見つけては刀を抜けと迫る。 切っ先が柳の枝のようである事から「一柳斎」の名前が付いたのだった。 主人格の侍が激高するも一柳斎の相手ではない、侍がすらりと鯉口を切ると、一柳斎はがっくりと肩を落としてぼそりと呟く、→鳴かなんだか・・・、さすれば去ぬか、死ぬか、と問い、黙って去れば決して危害を加えない。 しかし、この侍は、→おのれ曲者!許すまじ、と切りかかって来たが、一柳斎はすっと体を躱して、右腕に切り傷を負わせ、戦意を消滅させたのだった。 一部始終を目の辺りにした八五郎は、→嘘だろ! あの面頬の男は隣の部屋の雲井の旦那だよナ、間違いない、なんで鳴かせの一柳斎なんだ? 去って行く一柳斎も塀陰の八五郎に気付かない、存在感のまったく無い、持って生まれた癖の面目躍如だった。

 

時たま、源次郎の水浴びを垣間見た時、背中に袈裟懸けに切られた大きな古い刀傷があった。 八五郎はまだそれを訊けずにいた。 どうやら用心棒家業で得た小銭で生計を立てているようだ、ふらりと半月ほど留守にする事もあった。 ・・・あの三日後に読売が出た、「鳴かせの一柳斎、またもや、刀が鳴かず、旗本何某が斬られて逃げ去る」 普段は偉ぶっている裕福な侍たちが不様に斬られて恥を晒す様子は、江戸っ子には溜飲の下がる娯楽である。 陰では誰もが喝采を送っていた。 民を虐めて私利私欲を貪るという黒い噂が絶えない、成り上がった勘定奉行・蓼井氏宗(たでい うじむね)をやっつけてくれねえかな、と人々は秘かに期待していた。 そんな読売をながめていると、浜乃ちゃんから声がかかった。 あら、八五郎さんも読売を見るの? と訊かれた八五郎は、これを二人だけの秘密を持とうと策略りながら、雲井の旦那の事を打ち明けると、浜乃は、→じゃ、今度二人で追跡しまショ!と言われてすっかり舞い上がってしまった。

 

そして3日後、雲井源次郎が、→うむ、鉄砲洲まで・・・と、訊かれた八五郎に言い残して出かけた。 急いで浜乃ちゃんを呼びに行くと、奥から飛び出して来た。 藤兵衛さんは特に何も言わなかったから、八五郎ならイイか、と思ってくれてるのかナ?と甘い妄想を抱いた。 八五郎はもう少し近付いてアトを付けたかったが、浜乃ちゃんに窘められて少し距離を置いたところを見失ってしまった。 そして二日後、又もや鳴かせの一柳斎現る、と読売が出たが、鉄砲州とは目と鼻の先の築地であった事から、やっぱり雲井様は怪しいわね、と浜乃ちゃんと話し込んでいるところに、40才位の男が近付いてきて、→あら、新さん、いらっしゃい、どうぞ中へ、と親しく家に入れたではないか、どうやら父・藤兵衛のお客らしいが、その親しさに嫉妬を覚える八五郎だった。 その後も何回か、雲井の旦那の跡を付けるが、近付き過ぎると、慎重な浜乃ちゃんがいつも制してきて、その度に見失ってしまったのである。 八五郎は、こうしてず~っと二人で出かける口実が出来るから、俺に取っちゃ好都合だ、とニヤケた事を考えていた。

 

実は八五郎は南町奉行所定廻り同心・村上典膳の犬であった。 一年前に小さな盗みを見逃して貰った時に強制的に承諾させられたのだった。 その岡っ引きの甚助親分が犬を全員集めていた。 赴くと10人程のお互い見知らぬ男達がいた、村上同心は、→お奉行の大岡越前守様からのお達しだ、江戸市中を騒がしている盗人、八つ手小僧は既に九件の大きな盗みを働き、未だ、一つも手懸りを得られぬ、あやつの正体を示すのはこれだけだ、と八つ手の葉の焼き印が押されている小さな木札を掲げた。 盗みに入った商家にこの木札を残していくから付いた名前だった。 但し、強欲な悪徳商人に限られ、誰も傷付けないで見事に小判を盗み、数軒の貧しい家の軒先に小判をバラまいて行く、寧ろ義賊の評判が高い盗賊だった。 →八つ手小僧の正体と棲み処を突き止めた者には五十両の褒章を取らす、おぬしらが番所に密告したと知れたら、市井の民から袋叩きに遭うだろから、今回は岡っ引きを通じずとも、直に拙者に知らせよ、というお達しであった。

 

大工の辰三が八五郎と源次郎に、→大変だ、浜乃ちゃんが借金のカタに売り飛ばされそうだ、尾黒屋から借りた借金が膨れ上がっているらしい。 尾黒屋欽右ヱ門は悪名高い両替商なのに、藤兵衛さんが、何でまた? 藤兵衛の所には近所の連中が心配そうに詰めかけていた、→これが五十両の証文だよ、飾りに使うべっ甲を仕入れる金が足りなくなって五両を借りた、ところが五両を返しに行くと、この五十両の証文を出された、借りた時に証文を確かめなかったおれが迂闊だった、尾黒屋は始めから波乃に目を付けておれを嵌めやがった、この証文がある限りこの晦日までに五十両を返さなきゃならねえ、遠くに逃げられちゃ困るって、波乃は、昨晩、尾黒屋に連れていかれた、と悲惨な話だった。 確かにお上に訴えても証文がある限り無駄だろう、と八五郎は思うが、さりとて、この長屋の連中には五十両を用立てる手立てはない。

 

八五郎は影が薄く目立たないという特技を生かして、尾黒屋を訪れた一団のアトに付いて中に入り込んだ。 尾黒屋の者も訪れた下男の一人と勘違いしてか、誰も不審に思わない。 とうとう座敷牢みたいな処を見付け、格子窓から波乃ちゃん達、五人程の娘を見付けた。 ガタガタと揺さぶると、気付いた波乃ちゃんが驚きの声を上げた。 八五郎が、逃げよう!と助け出そうとするが 

 波乃ちゃんは、→逃げきれるような相手じゃないの、私達を買うのは尾黒屋と繋がっている勘定奉行の蓼井様なの、たいそう色好みで意地汚いお方で、大身であれば吉原のような悪所に通う事が許されないから、ご自分の隠し屋敷の中に吉原を作ったの、夜な夜な蓼井様の慰み者にされているの、更に囲っている娘たちを出世の道具にしているの、「黒吉原」と名付けて大身の方々をそこで遊ばせて、覚えもめでたくなって更に出世を図っているの、こんな秘密を知ってしまった私達は地獄の果てまで追われて絶対口封じで殺されてしまうわ、だから辛抱さえすればお父っつあんにも迷惑がかからないわ、助けに来てくれてありがとう、だから、早く引き上げて!と驚く様な事実を明かされた。

 

惚れた娘も助けられねエ、と悄然として帰宅した八五郎は、留守だった辰三の家に入り込み、勝手知ったる貧乏徳利を取り出して、一人吞みを始めた。 すると脱ぎ捨てられた袢纏の下に、小判四枚があった。 更に八つ手の葉の焼き印が押された木札もあるではないか、焼きごてもある、辰三親方が八つ手小僧? 八五郎は震え上がった。 村上同心に知らせれば、波乃ちゃんの五十両が手に入る、いやいや、「鳴かせの一柳斎」も「八つ手小僧」も、同心に知らせる訳にはいかねェ。

(ここまで、全266ページの内、84ページまで。 実は・・・という登場人物がまだまだ出てくる。 清廉潔白と評判の高い老中の小清河為兼様の影同心でもある定廻り同心の村上典膳、実は、公儀隠密の浜乃ちゃん親子は、蓼井と尾黒屋の「黒吉原」の証拠を掴む為、更にそこに通う大身の連中をあからさまにする為、借金を偽ってワザと囚われの身になったのだった。 藤兵衛親子を訪ねてくる新さんは、八五郎に、余は・・・という言葉で話し掛けて来た。 どんでん返しの終章は凄まじい、抜け、刀を抜け・・・と詰め寄る鳴かせの一柳斎のその理由も、彼の背中の大きな刀傷の訳も判明する。 そしてとうとう抜けば鳴く刀を見付けたのだった。 登場人物が全て、実は・・・、という設定が愉快である。 帯のPRに、義賊、忍び、影御用、幽霊剣士・・・、花のお江戸は裏の顔ばかり!?  ・・・絶対買うべき、と断言していた)

 

 

高校同期の集まろう会、前回は15人だったが今回は21人。 前回は出席だったのに今回は欠席者が4人。 だから25人がこの会のマックスだと思う。 一年に一回、いつまで顔を見せ合う事が出来るのか、10人を割ったら考え時かも知れぬ。

(ここまで、5,000字超え)

 

令和6年6月17日(月)