令和6年5月27日

俺の本棚~面白いッ書 第678回

Oさんから新刊2冊借用。 月村了衛「対決」、大磁多門「雀荘・迎賓館最後の夜」である。 文庫本2冊購入、清武英利「アトムの心臓」(書き下ろし)、永瀬隼介「霧島から来た刑事②」(書き下ろし)である。 大磁と清武と永瀬は初めての作家、永瀬の①は在庫が無かった。 3人もの新作家、楽しみである。

 

PGAは久常涼だけだったが予選落ちした。 

欧州ツアーはベルギーで、川村昌弘だけ。 彼も予選落ちした。

 

女子第14戦の 道産子は、小祝さくら、菊池絵里香、藤田光里、阿部未悠、内田ことこ、宮澤美咲、吉本ここね、政田夢乃の7人。  ・・・昨年プロ合格した政田夢乃はプロデビュー戦だという。 宮澤、吉本、藤田が予選落ち。 決勝の二日間、政田は小祝と同組だった。 ・・・小祝5位(630万円)、政田は8位(290万円)と健闘した。 21才・岩井明愛が逆転優勝! これで13勝1敗、快調である。

男子道産子は、片岡尚之、植竹勇太。 二人とも予選落ち。

 

 

柚月裕子「チョウセンアサガオの咲く夏」(単行本は2022年)

・・・11話の短編集である。 第1話は前回にUP。

第11話・ヒーロー

米崎地方検察庁・刑事部の佐方検事は26才、検察事務官・増田は29才である。 増田にとって年下の上司であるが、佐方検事の深い仕事内容・人間性に心底から尊敬していた。 今日は午後から半休を取って、高校柔道部の恩師・阿部幸弘監督が心筋梗塞で倒れた享年81才の告別式である。 高校時代、増田は一回も選手に選ばれなかったが、阿部監督は優秀な選手とも分け隔てなく指導してくれた。 心から慕っていた先生だった。 セレモニーホールには喪服の人達で溢れ返っていた。 如何に多くの方々に慕われていたか、リアルに知ることが出来る。 受付が終わると、柔道部・マネージャーだった木戸彩佳もいた。 →柔道部のスターだった伊達将司君も来ているから告別式が終わったら三人で食事をしよう、と誘われてOKした。 伊達は柔道の名門校、群馬の体育大学へ引っ張られて、推薦入学した程の素質を備えていた。 そもそも体格の劣っていた増田が柔道部を志したのは中学時代に大フアンだった、柔道漫画のキャラクター・早乙女が、弱い脇役ながら誰よりも頑張る、その姿が格好良かったからで、伊達も同じ漫画のフアンだった事を知り、二人が話で盛り上がったのである。 ・・・居酒屋では木戸が仕切った、→私はあのセレモニーホールも含めた冠婚葬祭の会社に勤めているの。 伊達君は警察官に憧れていたから、大阪で警察官? 少し躊躇しながら伊達は頷いた。 →増田君は? と問われて、→公務員で事務を執っている、とウソではない応え方をした。 高二の時、強くなれないから柔道を辞めたい、と伊達に洩らすと、→お前は柔道が好きなんだろう! 誰より強いとか弱いとかじゃなくて、掛けた技が決まった時の気持良さ、早乙女だってそうだろう、自分が一生懸命にやればそれでイイんだよ、だから辞めるナ!と諭されたのだった。 →辞めない、と伊達に告げた時の、見た事のない一番嬉しそうな笑顔で、ポンと肩を叩かれた事が思い出される。 それぞれが大学に進学してからも連絡は取り合っていたが、二年生になってから伊達の不在が多くなり、折り返しの連絡も来なくなった。 ・・・今日は10年振りの再会である。 そうか、大阪で警察官か、と増田は何となく安心した。 伊達が、→先生に献杯だ、最初は日本酒で、と告げて、→阿部監督は素晴らしい人でした、故人を偲んで献杯!と音頭も取った。 大阪府警で刑事課だ、と木戸に答えている。 増田は、→やっぱり、お前は凄いよ、昔から変わらないヒーローだ、と称賛した。 ところが木戸の連続質問に答えているのを聞いて不思議に思った。 私用の葬儀だから行先も言わずに有休を取っただけ、だの、普段は拳銃を携帯しているが今日は持っていない、だの、検察事務官としては聞き捨てならない事ばかりである。 いくら私用であっても行先は必ず報告するし、拳銃に至っては私服刑事は緊急事態に陥った時だけ身につけるのだ。 増田は、何かがオカシイ、もしかして・・・と考えて質問した。 →お前が交番勤務の時の大阪地検の検事正は誰だった? →そんな雲の上の人、忘れてしまったナ、と言うが、事件が起こった時の送致書類は事件を扱った警察官が作成するが、宛名は必ず検事正だった。 新米の交番勤務時代に何枚も送致書類を書いているから忘れる筈がない。 目の前の伊達がヒーローから欺瞞者にへと変わる。 伊達は警察官じゃない、と確信した。 木戸が、→増田君は検察に詳しいね、公務員ってそっちの方面? 増田は正直に答える。 →ここ、米崎地検で検察事務官をしている。  その返答で伊達の顔が強張った、間もなく、一万円を出して、→先に帰らせてもらう、と連絡先を記した木戸のメモも受取らずに出て行った。 増田は追いかけて、呼びかけた。 しかし、伊達は、→嘘吐き野郎って追いかけて来たのか、と冷ややかな声で顔を向けた。 増田は、伊達を罵る積りは無く、嘘を吐いた理由を知りたかった。 →苦しんでいるお前を放って置けないよ、これ迄仕事で罪を犯してきた人を何十人と見て来た、嘘を吐く時、人は何かを護ろうとしているって事に気付いた、大事なモノを失わない為に必死に嘘を吐く、そう解った時、みんな辛いんだな、と思った、なァ、どうして嘘を付いたんだ、教えてくれよ、と必死に伊達に迫ると、→俺は弱かった、大学に行って上には上がいる、と思い知った、でも好きだからへこたれないで練習に励んでいた、二年生になった時、自転車でコンビニに行く時、自動車に追突されて、腰椎と大腿骨を骨折し、全治二か月の重傷を負って、もう、かってのような柔道が出来なくなった、一年生にも軽く負けるようになると、全ての気力がなくなり、手にした賠償金で飲み歩いた、失った夢を忘れようとしたが飲んでも辛かった、そんな時、酔っ払って喧嘩した相手が被害届を出したが、軽傷だった事とお互いに酔っていた事が考慮されて不起訴になった、大学を出て自動車販売会社に就職したが、ノルマを達成出来なくて、ネチネチと嫌味を言う上司を思わず殴ってしまった、上司は被害届を出し、流石に、二度目は許されず、罰金刑を喰らった、今じゃ、立派な前科持ちだよ、前科持ちにまともな仕事なんかない、定職は無く、時給の仕事を転々としているサ、と告白が終わった。 増田は年下の上司の事を打ち明けた。 →人を深く見て、何故この罪を犯したのか、そこに事件の真実がある、と検事に教えて貰った、今も、心から敬服している上司だ、前科が何だよ、今のお前を見てくれる人だけ相手にすればイイ、そうすればお前がなりたい自分になれるよ。 伊達は怖い顔で増田を睨んでいたが、木戸の連絡先のメモを受取って背中を向けた。 増田は、→きっと連絡するんだぞ、木戸でも俺でもナ、早乙女、覚えているか、一生懸命やればイイ、お前が一生懸命生きていればそれでイイんだよ、と大声で叫んだ。

 

あの日から半月が経った。 佐方検事は、→恩師の告別式に参列してから増田さんが沈んでいて、ずっと気になっていました、と問われたので、増田は、伊達の嘘や、彼の人生を告白された事を簡潔に説明した、→伊達を呼び止めて良かったのか、伊達を傷付け辱めた事に変わりありません、嘘を飲み込んだまま、別れた方が良かったのか、と悩んでいます、すると、佐方は、→嘘の先には嘘しかありません、全ての人を騙せても本人だけは嘘を吐いている、と判っているから本人はずっと苦しむ、友人にそんな人生を送らせたいンですか? 増田はキッパリ答えた。 →いいえ、自分は間違っていなかった、伊達を追いかけて呼び止めて良かったンだ、と心に決めました。 昼食時、木戸から電話が入った。 →伊達君から手紙が来たの、警官って嘘だって酷いよネ、でも、今度、米崎に来たらご馳走するって言うから、許してあげるわ、手紙の最後に、増田に言ってくれ、早乙女はいつまでも俺達のヒーローだってナ、って、早乙女って誰? 増田は受話器を握りしめた、嬉しさで胸がいっぱいになる。 いつか伊達と旨い酒が飲みたい、伊達はこれから懸命に人生をやり直すだろう、その伊達に負けてはいられない、あの夜、伊達を呼び止められたのは佐方から学んだ結果だ、増田は佐方に思わず頭を下げた。 佐方が戸惑った顔をしている。 →オレ、頑張ります、と言い残して昼飯に部屋を出た。

 

 

大相撲、我が一山本は千秋楽に辛うじて勝って、勝ち越した。 これから出世して三役や大関等は望めない歳だから、幕内10枚目辺りで勝ったり負けたりの息の長い幕内力士であって欲しい。 優勝したのは初土俵以来、7場所目での優勝という大記録の大の里・23才であった。 相撲もゴルフも20代が力強い。

 

(ここまで、約3,700字)

 

 

 

 

令和6年(2024)5月27日(月)