令和5年(2023年)7月29日  第625回

猛暑が続いている。 マンション9階の拙宅、4LDKはベランダの窓が南側に3つ、北側に2つ、出窓が西側に1つあり、(東側はゼロ)、全ての窓を開けて部屋には風が吹き抜けているのに、今年の風はそれ自体が生ヌルイ。 室内温度が31℃を超えている。 平屋の一軒家はもっと過酷な状況だと思う。 冷房が無ければ家の中に居ても熱中症とはさもありなん、と思う。

 

I町在住のOから、高校3年A組・クラス会の案内が届いた。 15人前後の出席者と見込んでいるらしい。 O市のM、S、とY夫婦、加えて、病巣が転移して難病中のNも一緒だと言う。 5人は日帰りでO市に戻るらしいが、何と、Nとはほぼ60年振りで会える。 札幌からの我が身も、一泊で即OKした。 バス代金も含め、総費用20,000円を超えるが、それ以上の懐かしい想いが勝る。 共に喜寿の高齢まで生き延びている事を楽しく語ろうではないか! 我がクラス49人中、物故者は担任の先生を含め、既に12人である。 その全ての住所を記録しているOに天晴れ!である。 クラスの残った38人全員が一堂に会してみたいモンだが、もう、無理なんだろうナ、と諦めるしかあるまい。 ・・・隣のS区に居住のSの車に同乗させてもらえることになった。 高速料金をこちらが負担してもバス代金よりは格安である。 同じホテルも押さえた。

 

 

PGAは、松山英樹、小平智、大西魁斗の3人。 小平が予選落ち。

LPGAはフランスでメジャー戦、岩井千怜、山下美夢有、渋野日向子、古江彩佳、馬場咲希(アマ)、西郷真央、西村優奈、笹生優花、畑岡奈佐、勝みなみの10人である。 岩井、馬場、西郷、西村の4人が予選落ち。

日本男子はメジャー戦、道産子は片岡尚之、植竹勇太、安本大祐、照屋貴之の4人。 片岡一人が予選通過。 

日本女子第21戦の道産子は、小祝さくら、菊池絵里香、宮澤美咲、阿部未悠、内田ことこ、山田彩歩の6人。 today-9のコースレコードを出した小祝が1打差で、1位の宮澤と予選通過。 アト2日、道産子のワンツーフイニッシュが見られるかも知れない。 阿部、内田、山田の3人は予選落ち。 

 

 

 

佐伯泰英「柳橋の桜② あだ討ち」(文庫本書下ろし)

・・・・①は618回にアップしています。

このところ、立て続けに猪牙舟の船頭を襲う強盗が起きたので、船宿・さがみ屋の猪之助親方が、→桜子の女船頭はしばし待て、と止められていた。 それ以前に、心配していた父親の広吉が親方に泣き付いて延ばしていたのだった。 桜子にすればむしろ、自分には棒術の腕があるのに、船頭頭になった父親の方が心配だった。 これまでに4人が襲われ、内ひとりは殺された。 船頭の稼ぎなんぞ高が知れているのに、暑さ寒さを堪えて稼いだ銭を奪う為に船頭を殺しおるとは赦せぬ、と大河内家の隠居・立秋老も、孫の道場師範の小龍太も激怒した。

「薬研堀・棒術道場」にはその木札を首に下げた犬・ヤゲンが飼われている。 元々は、代々続いていた作事奉行の中山家を潰した当代の飼い犬だった。 道場を出た桜子のアトをついてくる。 桜子が、神木・三本桜にお参りしている時にはじっと座って待っていてキチッと躾がされている。 猪之助親方と女将の小春に、それじゃ父親と一緒に乗せてもらえないか、と桜子が頼み込むと、二人は、→それなら、猪牙舟じゃなく、新造の屋根船の親子船にしよう、と快諾してくれた。 間もなく帰って来た広吉が、→親方、昨日の宵に深川の猪牙舟が襲われて稼ぎどころか命まで盗られたとよ、と報告していた。 心配する桜子に、→おりゃ心配ねえ、馴染み客しか乗せねえ、決して知らねえ客は拾わねえからよ、とキッパリいう。 しかし、娘と一緒の屋根船は頑として嫌だという。 すると、親方の強い推しがあり、じゃ、ヤゲンを用心棒代わりに乗せる事を条件にして、猪牙舟の女船頭がここに誕生したのだった。

 

その日の内にヤゲンを乗せて薬研堀の道場へ戻った。 敷地の中から鶏の泣き声が聞こえるのは大河内家だけだ。 敷地内で香取流棒術を教え、畑もあり、鶏がそこらを歩き回っている屋敷など他には見当たらない。 大体が棒術の稽古代が盆暮れに竹籠に何某を入れるだけという貧乏道場なのである。 それでも道場主の立秋老に、我ら、飢え死にもせず生きておる、何が不満か、と返されれば月謝を上げようとする師範代・小龍太の意気込みも萎えてくる。 女将の小春が、→奉行所から女船頭の内諾を得るのに4~5日はかかるから、その間、ヤゲンと一緒に江戸を周遊しておいで、と見習い稽古を命じられたのだった。 ヤゲンを同乗させる許可を小龍太に願うと、→爺様から許しを貰ってわしも用心棒で舟に乗ろう、と言い出し、爺様は小遣いをくれて、強盗をとッ捕えよ、と命じられたそうである。 橋の上から鉄造親分の声がかかる、→おや、まるで若夫婦と犬一匹、イイ図だな、若先生、何とか強盗を捕まえて下せえ、 →親分、既に手慣れた六尺棒を携えておるしナ、娘船頭も得物を積んでおる、強盗が現れるといいがナ・・・ まもなく大川河口に出た、これからが女船頭の本式の稽古である、しなやかに櫓が海水を掻き、上流の永代橋に向って力強く進み始めた。 →おうおう、流れに抗って猪牙が進んでいくナ、流石に棒術で鍛えた足腰だ、これなら男船頭にも負けずに務まろうじ、と小龍太が感嘆する。 桜子が、→千住大橋まで、どれ程の時が掛かるか、若い頃のお父ッつあんは半刻(一時間)で遡ったそうだから、私も挑戦です、と力強く漕ぎ出した。 顔見知りの猪牙舟の船頭を次々と追い抜き、下がってくる荷船や筏の船頭たちにも目を見張らせて、→ありゃ、柳橋の桜子だナ、驚く速さだナ、と感嘆させていた。 小龍太は、→桜子、そなた、女船頭となって嫁には行かぬ気か? 幼き頃から棒術の修業をしてきた身内同然の仲だが、まさか本気ではあるまいな、それがしが嫁にすると言うたらどう致す? わしの本心だぞ、 桜子は魂消て、→大河内小龍太様が見習い船頭の私を嫁にしてくれるの?と、返しながらも、いつかはこんな事になるのではないか、と内心思っていた。

 

猪之助親方は奉行所に呼ばれて、お奉行様直々に女船頭の許可を頂いた、と興奮気味に報告してくれた。 船宿の主人がお奉行から直接お目に掛かるなど、初めての事であった。 幼き頃よりお父ッつあんの猪牙に乗って手伝いをしながら舟の扱いを身に付けた事、寺子屋で読み書きを習い、更に薬研堀の棒術道場で修業し、今や、腕利きの門弟である事、等々は真であるか?とお奉行から念押しもされたわ、と訊かれ、鼻高々にお答えしたらしい。 お奉行様は、→話を聞くだに桜子は出来た娘じゃのう、と感じ入り、→実はな、それがしが北町奉行所に就いたばかりの頃、急に産気付いた職人の女房が猪牙舟に乗ったが男船頭だった為に、途中で破水がおこっても我慢し我慢してその結果、赤子は死産、女房も苦しみ抜いて亡くなった、という話があってのう、女房の今際の言葉が、船頭さんが女ならば、と言い残したそうな、女船頭であったらば、もしかして母子とも身罷る事が防げたかも知れぬ、とず~ッと愚考しておったのよ、と辛そうに言ったのだった。 →桜子よ、女船頭の先駆けだぞ! 精一杯働いて、世間を少しでも明るくして欲しいのだ、お奉行様は・・・。 木札には、「江戸下柳原 船宿さがみ・家作人桜子 女船頭の職を許すもの也 北町奉行・小田切土佐守直年」と朗々しく記されていた。 →最初の客人が待っておられるわ、先ずはこれに着替えてこい、と充てられた仕事着は、淡い紅色の小袖と筒袴、背中には神木・三本桜の白い花びら、両襟元に「船宿さがみ」「娘船頭桜子」と銘打たれていた。 女将の小春は、→四季それぞれにアト三着作らせているから、江戸で最初の娘船頭の花の売り出しだからね、と威勢がイイ。 猪牙舟に大きな日傘が設けられていて、魚河岸の江の浦屋の五代目彦左衛門が連れて来た芸子の軽古と吉香の三人が、最初の客人だった。 女船頭の噂が立って直ぐ、大旦那様が一番の客として申し込んでくれてたらしい。 有難い事だ。 途中、父の広吉と擦れ違ったが、大旦那を乗せている事とお奉行様の鑑札を初めて見て仰天したのだった。 間もなく、アトをつけてくる不審な猪牙舟がいる、恐らく大旦那と芸子の二人に目を付けた半端モンが五人である。 業平橋の近くで舟をぶつけて来た。 →平次兄い、ジジイと娘二人の懐中物を掻っ攫って行くぜ、と五人が、それぞれの木刀、長脇差し、縄等々を手にしたが、すかさず突き出した桜子の竹竿は、あっと言う間に五人を堀へ叩き落としたのであった。  娘二人は、→桜子ちゃん、凄~い、と歓び、江の浦屋の大旦那は、→ふぁはッはッは、と大声で笑い出し、ヤゲンも嬉しそうに吠えた。 →娘船頭さん、この界隈の甘味処で一緒に休もう、と上機嫌で命じたのであった。

 

甘味を堪能したアト、大旦那様は、木綿問屋に寄って、風呂敷包みを持ってきた。 →最初の晴着はさがみ屋の女将が誂えてくれたが、これは綿の仕事着だ、夏物、合い物、冬物と揃えさせて置いた、と有難いお言葉だった。 →大旦那様、桜子は幸せ者です、お奉行様の鑑札を付け、江の浦屋の大旦那様の誂えを着て櫓を漕ぐ船頭なんて有難過ぎます、必ずや、お二方のご厚意を無にすることなく船頭仕事を務め上げます、と心から感謝して固く誓ったのである。

 

さがみ屋に戻り、風呂敷の経緯を申し上げると、女将の小春も猪之助親方も吃驚暁天! →有難いねえ、大旦那様らしい心意気よ、見せてみねえ、と拡げると、船頭仕事着に加えて、袢纏、襦袢、手甲、脚絆、足袋、草履、晒し木綿迄、見事な揃いである。 袢纏の右襟には、「柳橋船宿さがみ」、左襟には、「初代女船頭桜子」と刺繍がしてある。 袢纏の背には三本桜、裏地には桜吹雪の中に大鯛が色鮮やかに刺繍されている。 天下の魚河岸の中で江戸城に鯛を納めるのは江の浦屋だけである。 見る人が見れば、名前は無くても、送り主は「江の浦屋五代目彦左衛門」と分かる代物だった。  桜子は、→親方、女将さん、立派に娘船頭の務めを果たしてご一統様に恩返し致します、と決意を告げた。

 

翌朝、さがみ屋で風呂を頂戴し、身を清めて江の浦屋の大旦那様から頂戴した夏物の仕事着に着替え、父・広吉と親方に披露する事になった。 その際、晒し木綿はどう使うのか、と女将に問うと、→安産を祈願して腹に巻くのさ、船頭もね一日中身体を動かすから仕事着から乳房が零れないようにキリリと胸に晒し木綿を巻くのさ、どれ、最初は私が巻いてやろう、おや、こんもりとして奇麗な乳房だね、こんな形のイイ乳房を持った娘はそんじょそこらにゃいないね、とべた褒めである。 湯屋に行くと、ちびっぺのお琴ちゃんは立派に大きいから桜子は手で隠していた程だった。 額に鉢巻を締めて父と親方に披露すると、さっそく広吉が、→馴染み客に紹介するから俺のアトについてこい、と猪牙舟を漕ぎ出した。 最初は江の浦屋の彦左衛門に披露しなければならない。 心得ている父は魚河岸に向った。 →おう、よ~く似合ってるわい、と大旦那様は隣の魚問屋安房屋の主人・義之助を紹介してくれた。 すると魚河岸に買い付けに来ていた料理屋を営む旦那衆や料理人にも声を掛けてくれる。 →魚河岸も加勢するからよ、桜子は娘船頭の先鞭をつけたから二番手三番手の船頭が続くように頑張るんだぞ、と発破を掛けられて祝儀を渡された。 すると料理屋の皆からも次々と差し出された。 何処に行ってもこんな光景が繰り返されて、腰の巾着は祝儀でいっぱいになった。 娘船頭がまだ働きもしていないのに十三両以上の大金が入っていた。 お父ッつあんの働きで充分暮らしが成り立っているから、これは北町奉行小田切様を通じて公儀のお救い小屋に寄進することにした。 それを知った読売の小三郎が、ご祝儀をくれた旦那衆の名前まで載せて読売を売り出すと、何回も刷り直した読売を全て売り切ってしまった。

(ここまで、全306ページの内、112ページまで。 猪牙舟強盗の目的は何か? 副題のあだ討ちとは誰の事か? 乞う、ご期待としておこう)

 

(ここ迄、5,000字越え)

 

令和5年7月29日(土)