令和5年(2023年)6月19日  第617回

文庫本4冊購入、赤松利市「ボダ子」(単行本は2019年)、佐伯泰英「猪牙の娘① 柳橋の桜」(書き下ろし)、宮部みゆき「刑事の子」(2011年)、山口恵似子「ゆうれい居酒屋③ 写真館とコロッケ」(書き下ろし)である。 読み易そうな4冊である。 ・・・「ボダ子」はイマイチだった。

 

PGAはメジャー戦のUSオープン、松山英樹、石川遼、桂川有人、永野竜太郎の4人。 全員が予選通過、石川はCUTラインギリギリだったが・・・。  過去にも4人通過はあったが、今回のように参加者全員が予選通過と言うのは史上初らしい。 並みいる世界のビックネームが予選落ちしているから予選を通るだけでも立派なモンだ。  ・・・健闘虚しく、永野20位(200千$)、松山32位(108千$)、桂川58位、石川63位(予選通過65人中)と、メジャー戦の高き軍門に下った。 天晴れなメジャー初優勝者は360万$である。

LPGAは、古江彩佳、野村敏京、勝みなみ、畑岡奈佐、西村優菜の5人(笹生、渋野は欠場)、

古江がTOPで予選通過! 優勝あるかも! ・・・期待大である。 野村だけが予選落ち。  ・・・結局、古江は13位(38千$)に終った。 勝17位、畑岡32位、西村61位だった。

 

日本男子は韓国と日本の共同開催で道産子は、片岡尚之、植竹の2人が予選通過。 しかし、共に59位に終った。 前週勝った中島敬太が惜しくも韓国人に一打差の2位が惜しかった。

女子第16戦の道産子は、阿部未悠、小祝さくら、菊池絵里香、宮澤美咲、内田ことこ、山戸未夢の6人だったが、小祝と阿部だけが予選通過。 相変わらずの岩井ツインズと山下の競合が激しい。

最終日・最終組は岩井ツインと山下の一騎打ち! 貫禄を見せた山下の圧勝だった。 阿部34位、小祝42位と下位に沈んだ。 これで15勝1敗。

 

 

山口恵似子「ゆうれい居酒屋③ 写真館とコロッケ」(書き下ろし)

・・・①巻は488回、②巻は581回にUPしています、そちらを先にお読み下さい。

第一話 イワシは33回転

米田秋穂はJR・新小岩駅のルミエール商店街で、ひっそりと、居酒屋「米屋(よねや)」を商っている。 釣りキチだった夫の正美(まさよし)が亡くなってから鮮魚料理はしていない。 彼の釣果の魚拓が壁・天井に何枚も貼っているから、新規客はそれを告げるとガッカリする表情を見せる時もあるが、永年の継ぎ足しによるもつ煮込みは絶品であるし、研究熱心の秋穂の小料理が客の心を掴んで離さない。

 

今日も6時の開店と同時に常連客が入ってくる、悉皆(しつかい=着物のメンテナンス)屋の主人・沓掛音二郎と、釣り具屋の主人・水ノ江時彦である。 二人とも先ず、ホッピーを注文して旨そうにグビリと喉を鳴らす。 お通しのシジミの醤油漬けは、台湾料理屋の主人に教えて貰ったレシピで、貝類は一度冷凍し、それを解凍すると旨味成分が4倍にもなり、オルニチンも増量するという必殺技が隠れている。 次はもつ煮込み、丁寧な下煮で臭味は全くない。 ごぼう、コンニャク、大根、ニンジンが牛モツから出た旨味を吸ってこれらの旨味もグレードアップする。 秋穂の小料理を堪能した二人が帰ったアト、いつもよりお客の引けが早く、9時過ぎになると客席は空になった。 もう閉めようかとカウンターを出ようとしたら、黒の背広に黒のネクタイ姿の新規客(小津真行 おづ まいく)が入って来た。 髪の毛が金色で細かい三つ編みにして肩まで垂らしている。 派手な格好にサングラスをかけて40才過ぎか、不逞の輩にはみえないから一先ず安心した。 シジミの醤油漬けに、→これ、旨いね、と意外な美味しさに吃驚している。 冷凍すると旨味が4倍になると、蘊蓄を垂れると、冷凍した貝を食べてみたいと言うので、ハマグリの小鍋仕立てを勧めたら、即、注文された。 その前にモツ煮込みも食べたいというので、秋穂は叩きキュウリをサービスした。 客は、案外この店は拾い物だったナ、と思うと、つい、口が軽くなったらしい。 →通夜の帰りで腹減っちゃってサ、あ、でも斎場出た時、塩は振って貰ったから・・・ この商店街にあった浮田レコード店、店を閉める前は結構来ていたけど、もう、20年振りかなァ、子供の頃、新小岩に住んでいて中学の時、亀戸に引っ越してサ、オレ、ててなし子でサ、おふくろが高校生の時、追っかけていたロックグループのギタリストに妊娠させられて、そいつはトンズラしたんだ。 その遺伝かも知れないが俺は音楽が好きだった。 絶対音感ってやつかナ、初見の楽譜の音が頭の中で鳴るんだヨ、一度聞いた局は直ぐ伴奏出来た、楽器をやりたかったが貧乏な母子家庭にはそんな余裕はなかった、ましてや、金を払って音楽を習わせるなんて到底無理だった、レコードを買うのがやっとで、駄賃が貯まると、浮田レコードには良く行ったもんサ、新譜を買えないでじ~ッとLPを眺めていると、浮田のおじさんはそのLPのA面とB面を結構な時間になっても、嫌な顔ひとつしないでかけてくれた、あそこは俺の音楽鑑賞室だった、おじさんは大恩人サ、今日はその人の通夜だったのサ、今、クラブDJで飯を食えてるのは感謝しかないヨ、と謙遜して言ったが、「DJ MIKE」は、業界最高峰の呼び声が高いクラブDJだった。 秋穂が、→大成功ですね、お母さんも喜んでいらっしゃるでしょうね、と返すと、→おふくろとは縁を切った、もう、20年以上会っていない、と苦々し気に顔を顰めた。 ・・・アルバイトをしていた居酒屋によく来ていたロックバンドのメンバーと仲良くなって、パーテイに誘ってくれたから喜んで参加した。 グルーピーのような女の子も大勢やって来ていた。 数日後、真行は刑事に任意同行を求められ、取調べられた。 メンバーの二人が女性を泥酔させてレイプしたと言う。 青天の霹靂、真行には全く預かり知らぬ事だった。 疑いが晴れて警察署の玄関には母が迎えに来ていたが、帰宅すると、長い事かかって買い集めたLPが全部捨てられていた、母は仇を見るような目で、→こんなもの聴いているからこんなことになるのよ、あんたの父親とおんなじ!と叫ばれて、母との絆が断ち切られたと感じた。 おふくろと同じ世界に生きるのは無理だと思った。

 

最近、CDの売り上げを凌ぐ勢いでレコード人気が復活している。 DJはLPが無ければ仕事にならないし、CDじゃあの味は出ない。 円盤は一分33回転、別世界に連れて行ってくれる、音楽という名のこの世ならぬ世界にネ。 真行は気持よく小料理を平らげ、とても美味しかった、と2万円をカウンターに置いた、→お釣りは女将さんにご祝儀、人気商売はある時しか出せないし、今度来るときはショボく呑むかも知れないから、と片手を上げて去って行った。

 

11時を過ぎて喪服姿の60代か70代の女性(小津佳代子)が入って来た。 →呑み足りなくて・・・、長居しないからちょっだけ呑ませて、と言う。 斎場で通夜振舞いを摘まみ酒も呑んだが、つい懐かしくなって古巣だった新小岩に寄ったらしい。 →確かに息子も斎場に来ていたが、通夜振舞いをせずに出て行ってしまった。 ・・・突然、涙が溢れたこの人は、先程の客と母子に違いない、人相もそっくりだ、と確信して、真行にも出したイワシを指差して、→さっきまで同じ席に息子さんが座っていらっしゃいましたよ、昔、LPを捨ててしまった事を謝りたいなら、今すぐ、商店街のタクシー乗り場に走りなさい、まだ並んでいるかも知れません、お代はご祝儀で沢山頂いていますから、早く、走って! 佳代子は今回の健康診断で再検査になった、まさか、癌では? マイクには生きているうちに謝らなくては! 商店街を走り抜けると、息子が見えた、マイク!と叫ぶと道路に倒れ込んだ、→かあさん! 真行は列を飛び出し、佳代子に走り寄った。

 

昨日行ったばかりなのに店が見付からない。 路地の手前の「とり松」という焼き鳥屋の隣が「米屋」だった筈なのに、看板は「さくら整骨院」になっている。 真行と佳代子は、「とり松」の引き戸を開けて尋ねた。 →この近くに米屋さんという居酒屋さんをご存じありませんか? すると、焼き鳥屋の老夫婦と、カウンターの四人の老人・老女が目を剥いた。 →米屋は30年前になくなりました、女将の秋穂さんが亡くなってから、「さくら整骨院」はもう5店目ですね、最近はお世話になった、お礼を言いたいと訪ねて来る人が多くなってネ、秋ちゃんは面倒見のイイ人だったからあの世へ行っても困っている人をほっとけないんだろねェ、と断言されて、母子は、昨日の人はこの世の人では無かったのか、と理解した。 →仰る通りです、女将さんのお陰で私も息子も救われました、いずれあの世へ行ったら改めてお礼を言わせて頂きます、真行は、→非常に残念です、料理が美味くて雰囲気が良くて、大好きになる店でした、また、来たいと思ってました、と母に倣って頭を下げた。 四人の老人は、→それを聞いたら秋ちゃん、きっと喜びますよ、何よりの供養です、と笑顔で頷き合った。 佳代子と真行は胸の底から温かさが広がっていき、満ち足りた気持で「とり松」を後にした。

(ここまで、約3.800字)

 

令和5年6月19日(月)