令和5年(2023年)5月29日  第614回

家内がお昼にパーマを予約したというので、昼飯がてら、軽四で「環状通り」を一周して来た。 一時間強だった。 その間、アイドリングストップ(停止するとエンジンが切れる)の累計時間が15分間だった。 走行中、四分の一もの時間がエンジンが止まってガソリンを消費しないとは驚きである。 元々、消費量が少ない軽四で更にこの機能UP、加えて若者の車離れ等々が、ますますガソリンの消費を減少させている事を実感した。 経営難のスタンドが続出して、地方でのガソリン難民が増加している原因である。 現役を辞してから丸9年、環状通りの三分の一は何回か走っているが、三分の二は10年振りの走行だった。 道の両側の店の看板が変わっていたのも数軒あったが、流石にもう、元の名前は思い出せない。 9年という年月はそういう事だろう。

 

今週のPGAは日本人がいない。 LPGAはマッチプレーで古江だけが出場。 勝ち残って64人から決勝16人に入った。 そして二試合続けて勝利し、BEST・4に残り、更に決勝戦となった、惜しい!決勝で惜敗した。 でも天晴れ! 

欧州ツアーはオランダで、川村、星野、久常、岩崎の4人だった。 星野、久常が予選通過したが、共に55位に沈んだ。 日本女子第14戦の道産子は、菊池、小祝、藤田、内田、阿部、宮澤、本多の7人が出場したが、藤田、本多が予選落ち。 菊池が8位(350万円)で、阿部12位、小祝21位、内田26位、宮澤28位だった。 21才・山下が先週の7打差に続いて4打差の連続圧勝! 天晴れ。 2位19才、3位20才と若い子の活躍が凄まじい。 これで13勝1敗だが、昨年まで席巻していた稲見や西郷の名前が無い。 女子は20才前後の身体能力が最高だと言う事なのか? 

男子の道産子は、安本大祐(36才)、片岡(25才)、植竹勇太(27才)、佐藤大地(27才)の4人だったが、植竹だけが予選落ち。 佐藤が64位、アトの二人は更に下位に沈んだ。 ・・・22才同志のプレーオフ、平田が中島を退けた。 男子にも若い波が押し寄せてきているのだナ、と身体能力を納得する。 同じ4日間大会なのに、優勝賞金は、女子は2,500万円、男子は1,600万円とは、何と人気の格差なのか、

 

大相撲、4場所休場明けの横綱・照ノ富士が復活優勝! 大怪我を完治した不死身の身体に天晴れ! 我が一山本は4勝11敗の大きな負け越し、幕尻なので来場所は十両だろう、必勝の技や型が無いので、最早これまでの力士かナ、と思う。 大きな期待は寄せない方がプレッシャーにならないだろう。 カド番の貴景勝は辛うじて大関死守。 驚いたのは札幌出身・北青鵬の粘り腰と肩越しからの上手を取っての大きな粗い相撲、彼が真の相撲を覚えたら204cmの上背を生かした、バケモノの様に強くなる予感がある。 十両の19才・落合と豪ノ山の戦い、優勝決定戦で圧倒的な豪ノ山の吹っ飛ばし馬力に感動した。 そして全敗のまま休場した炎鵬と千代の国の来場所の幕下への転落、幕下の、元・幕内の照強、徳勝龍、明瀬山がふた場所連続の負け越しの悲哀は誰もが怪我で通る道とは言え、照ノ富士のような復活劇にはならないのが普通である。 

 

 

今野敏「任侠シネマ」(文庫本、単行本は2020年)

任侠シリーズの前4作は、令和元年の第290回に「任侠書房」、第291回「任侠学園」、第292回「任侠病院」、第294回「任侠浴場」にUP済みである。 (先に読み直してくれると有難し!) この「任侠シネマ」に続く第6作は2022年の「任侠楽団」である。 文庫になったら買うとしよう。

 

阿岐本組は組長・阿岐本雄蔵、代貸・日村誠司、組員は三橋健一、二之宮稔、市村徹、志村真吉だけの弱小ヤクザである。 広域暴力団に属していないし、町の人からも頼りにされて親しまれている面々であった。 阿岐本組長の弟分、永神健太郎は赤坂に事務所を構えて、広域暴力団傘下でフロント企業を抱え、隆盛を究めているが、困り事があると、アニキ分の阿岐本に泣き付いてくるのである。 警視庁に目をつけられている広域暴力団の二次団体、所謂、指定暴力団だけに、暴対法上、少しのおかしな動きも出来ないのであった。 永神組長が今回持ち込んで来たのは、北千住の「千住シネマ」の存続問題だった。 千住興業の初代が戦後の復興事業で大儲けをして莫大な財を築き、その金で500席の立派な映画館を建てたのが「千住シネマ」だという。 三代目社長・増原俊樹の時代になって映画は斜陽産業となり、今や、千住興業のお荷物になっているという。 本体は不動産業で主にビルの賃貸料収入で売り上げが安定しているが、業績の足を引っ張っているシネマを切り捨てるか、否かと、経営問題となっているらしい。

 

日村は市村徹をテツと呼んでいる。 テツはパソコンオタクで分厚い眼鏡をかけている。 日村が命じた、→千住シネマの経営状況を調べろ。 一時間後、テツは、→千住シネマは単体で赤字、千住興業全体でギリギリ黒字、「千住シネマ・フアンの会」が存続運動中、クラウドファンデイングを提案、会長は船渡川啓太郎・45才で会社員、NETで結構な嫌がらせが書き込まれているが、船渡川会長は、妨害や嫌がらせには絶対負けない、と反論している、と日村代貸は報告を受けた。 永神のオジキから連絡が入って、千住興業の増原社長を訪ねる事になった。 三人のナリは如何にも暴力団のソレであり、緊張感アリアリの増原社長であったが、千住シネマの存続に手を貸したい、という阿岐本の真意がやっと伝わったようだった。 増原社長は若い時には自ら映写機を廻した程の映画好きで、ビジネスとしては存続できないけれど、フアンの会のクラウドファンディングで資金が集まったら、共同経営の道が開ければイイのだが、一方、嫌がらせの書き込みもあって、未だ、5%しか集まっていないと言う。 阿岐本組長と長原社長の映画談議に花が咲き、男の美学は何と言っても健さんですね、と秋岐本組長が洩らすと、→何という奇遇でしょう、今日、高倉健さん特集をやっています、ぜひ、観て行って下さい、「日本侠客伝」と同じく「浪花編」、そして、「昭和残侠伝」と同じく「血染めの唐獅子」の四本立てです、と長原社長が言うと、爛々と目を輝かした組長は日村に向って、→おい、映画をご馳走になろう、お前、観た事が無いって、そいつはイケねえよ、とさっさと腰を上げた。 →お客に迷惑がかかるから上映中の映画が終ってからにしよう、クライマックスを邪魔しちゃいけねエ、風呂屋も映画館も公徳心が必要よ、とロビーで待ちながら教えを蒙る。 先約があった永神は先に帰ったが、終って出て来た客は普通の若者が多かった、大学生かな、年輩男性も女性も健さんフアンだろうナ、驚いた事に若い女性もいる。 席の中ほどに座ったのは組長の教えで、前過ぎるとスクリーンを見上げる首が痛くなるからである。 半分以上が埋まって来たがこれでは採算がキツイだろう、と推測する。 場内が暗くなると何だかワクワクして来た。 そしてたちまち映画に引き込まれた、兵役から帰って来た高倉健が演ずる鳶の一家の小頭・秀次郎の一挙手一挙足にすっかり眼を奪われてしまった。 日村は二本の映画を初めて鑑賞した。 気が付くと二本とも終っていた。 場内の照明が灯っても日村は呆然と席に座ったままだった。 そして増原社長が傍に立っていた、→阿岐本さん、次も如何です? 私が最初に観た健さんの映画です、と勧めると、→じゃ、お言葉に甘えて、とションベンに立ったから日村も同じく付き合った。 三本目もアッと言う間に終り、日村は暫く余韻に浸っていた。 出口には増原社長がいて、→いやあ、堪能させて頂きました、こんな楽しみを提供できる映画館をなくしてしまうのは惜しいですね、今度はいろいろとお話を伺わせて下さい、と礼を言いながら約束して映画館を出た。 車の中で、→誠司、健さんはどうだった? →驚きました、食わず嫌いでした、気に入りました、と応えてフアンの会をもっと調べようとハラを決めた。

 

午後8時に事務所に着くと、高校生の坂元香苗が制服姿でやって来た。 →高校生が来るとこじゃない、と何度も言ってるだろ!と日村がどやしつけても、→別にイイじゃない、塾の帰りに変な奴にアトつけられてさ、面倒だからここに飛び込んできたわけ、とシラッとしている。 ん、それはイイ判断である。 組長が閃いたように、→お嬢、北千住に小さな映画館があってナ、そこが潰れそうなんだ、フアンの会があるからそこに入会して、会長から色々な話を聞き出してほしい、と頼むと、香苗は目を輝かして、→前回の銭湯の次は映画館なのね、面白そう、やってあげるわ、と頓着がない。 日村は、→オレ達はヤクザだ、関わっているとロクな事にはならねえぞ、と脅かしても、→親分さんはいつも人助けをしてるじゃない、と一向に引かない。 組長が、→誠司はお嬢の事を心配し過ぎだが、束縛しねえと何をしでかすか判らないのも一理ある。 こいつらは今は俺に束縛されているが、そうでなきゃ、刑務所に束縛されているだろうよ、と子分らをぐるりと見回す。 香苗は入会することを約して真吉が送って行った。

 

組長室で、→フアンの会を脅かしているのがヤクザだとしたら俺らもハラをくくらなけりゃならねえナ、素人を脅かしているのは金が絡んでいるだろうしナ、お嬢は大丈夫だ、子供はキッチリ躾けなきゃならねえが、同時に信じてやらなくちゃナ、と日村を諭すように言う。 昔、日村は札付きの不良で孤立していた、教師にも警察官にも少年院の教官にもチンピラにも、誰からも信じてもらえなくて、大人たちを疑い、憎み、蔑んでいたから徹底的に抵抗した。 初めて信じてくれたのは阿岐本だった、すさみきっていた日村を無条件で受け入れた、氷が融ける様にゆっくり心が開いて行った、阿岐本がず~ッと信じてくれたからだ。 →すみません、自分はなかなかおヤッさんのようになれません、 →なれるさ、あの健一や稔がオメエを慕っているんだ、と断言されて感極まった日村は涙を堪えた。 千住興業のビルは1,2階が映画館、3,4,5階が本社事務所になっている大きなビルである。 赤字の千住シネマを閉館して、不動産業の本社機能はもっと小さなビルに移転するべきだと主張している役員がいるらしい。 ナンバー2の大塚常務で、社長と共に運転手付きの社有車を使える身分で、社長の信頼を受けて、接待を始め、営業も含めて社の外交は殆ど彼任せになっているのだった。 ネットの嫌がらせの書き込みがなくなればクラウドファンティングも順調に集まるかも知れない。 阿岐本組長は、→嫌がらせをしている奴らの事は私らの専門分野です、そういう事をやる手口はよくわかっています、私らの出番です、と増原社長と船渡川会長に大ミエを切ったのだった。 大塚常務が映画館を閉めて本社ビルを移転する理由に何かが隠れている。 誠司はテツに命令した、→何でもイイ、調べろ! 嫌がらせの書き込みも同じだ、どんな小さな事も見逃すな! 同時に二チームに分けた大塚常務への張り込みを開始した。

(大塚常務は誰と会っていたか? シネマ閉館を図る真意は何か? 嫌がらせの書き込みは、二之宮稔のかっての暴走族相手だった狂犬だった、誰に頼まれた? 香苗の活躍でフアンの会が活況を呈してきた、盛り上がって自然なイベントが実行された、クラウドも順調、迷っていた増原社長の決断が為された… 相変わらずのハッピーエンドであるが、義侠心満載の結果には誰もがほのぼのと安心するのである)

 

(ここ迄、4,700字超え)

 

令和5年5月29日(月)