令和5年(2023年)2月27 日 第592回
文庫本2冊購入、谷村志穂「セバット・ソング」(単行本は2019年)、小杉健治「もうひとつの評決」(単行本は2001年と古い、何故、20年後に今更? 買ったアトの後悔アリ) Oさんから中山七里「祝祭のバンクマン」を借用。 前回借用した相場英雄「覇王の轍」を返す前に、また同じ単行本を持ってきたので吃驚! 二冊同じ本を買ったとは。
PGAは小平のみ、LPGAは、畑岡、渋野、古江、笹生、双子の岩井ツインズ、アマの馬場咲希、以上7人、欧州ツアーは、川村、比嘉、久常、岩崎の4人、さあ、誰が予選突破してくれるか?
・・・小平は予選落ち、LPGAは予選落ち無し試合、欧州ツアーは4人とも予選通過した。 結果は、比嘉が4位(87千€)、久常が10位(35千€)、川村が18位(24千€)、岩崎が60位(5千€)と先ず先ずだった。 LPGAは笹生20位(19千$)を筆頭に、畑岡23位、渋野27位、馬場34位、岩井ツインズは38位、60位と振るわなかった。 LIVゴルフの日程と選手が発表されたが、日本人はゼロだった。
相場英雄「覇王の轍」(Oさんから借用の新刊単行本)
東大卒・キャリア官僚の樫山順子・36才は四日前、警視庁人事課から辞令を告げられた。 警視庁捜査一課管理官だったが、道警二課長が急病で休職した後任だった。 官邸の守護神と異名を持つ警察庁OBの松田智洋は、→道警はいろいろと問題のあるところだ、困ったことがあれば、ここに連絡しなさい、と長身で禿頭の松田が、自分の携帯番号とメールアドレスの入った名刺をくれたのだった。 内閣官房副長官にしても道警の特殊性を強調していて、独身の順子は、何か、苦々しさに襲われた。 官房長官が首相の女房役、副官房長官は首相案件の事務方を全て差配する陰の要である。 各省庁の事務次官経験者が付く最重要ポストであった。
今朝6時過ぎ、東京駅で北海道新幹線に乗り、新函館駅で乗り換えて、親友の川田ゆかりが四年前に、牧場に嫁いだ八雲町の「野田生駅」に降り立った。 彼女とは故郷の宇都宮で県立女子高で一緒だった。 新幹線はほぼ満席だったが仙台、盛岡で大半の客が降りると、一つの車両に4~5人しか残っていない、新青森駅では他の全員が降車し、以後は順子一人の貸し切りだった。 野田生駅前にはタクシーもなく極めて殺風景だった。 少し遅れて川田が迎えに来てくれた。 緩やかな坂道を上がっていくと、「マーレ・パスコロ」(イタリア語で海の牧場の意)の看板が見えた。 上がって来た両側に緑の絨毯が拡がり、その先には薄青色の噴火湾が見渡せた、→凄く奇麗! 来て良かった、とここ数年で一番の自分の弾んでいる声が判った。 北海道には親戚や友達もいないからゆかりがいてくれるだけで心強い、と頼りにしていた。 そのゆかりが、→道警ってトラブルが多くて大変だよね、と同情してくれた。 道警不祥事一覧をスマホで確認すると、裏金問題、覚醒剤・拳銃の不法所持、速度違反の捏造、等々、道警の不祥事は数段悪質!とマスコミから一刀両断されていた。 樫山のスマホが鳴って、→樫山警視のお電話で宜しいでしょうか? 本職は道警捜査二課の巡査長、伊藤保であります、刑事部長からどうしても本日中にお連れするように指示されました、これからお迎えに上がります。 着任は明日なのに、何故、こんなに強引なんだろう?と訝りながらも、野田生の牧場「マーレ・パスコロ」の名前を告げると、函館本部にいるので一時間弱で迎えに来る、との返事だった。 川田に謝罪してスタッフに野田生の駅前迄送って貰った。 40分ほどしか経っていないのに、もう黒色の覆面パトカーが待っていた。 180cmを優にこえている偉丈夫、短髪、耳はカリフラワーのように潰れているから、柔道で鍛え上げたのだろう。 20代後半だろう、いかついが両目が小さく、あどけない表情である。 →札幌中央署地域課から道警二課に移動したばかりです、右も左も判らないので暫くは樫山課長の運転手に徹するよう部長から命じられております。 →随分早いけどサイレン使ったの? 着任は明日だから公用か、否か、微妙ね、そこらへんは今後厳しくね、と釘を差しておいた。 不祥事は絶対避ける覚悟なのだ。 今日は私人だから後部じゃなく、助手席にするわ、と乗り込んだ。 腹が減った、と言うと、伊藤は函館の老舗のハム屋が店頭で出来立てのソーセージを挟んでくれるホットドックを薦めてくれた。 函館に着いたらあり付けられるのだろう。 ・・・大型のダンプカーが何台も走っている。 北海道新幹線の札幌までの延長工事がこの一帯で最盛期を迎えているらしい。 お陰で折角の噴火湾が見えない、と溜息を付くと、パトランプを出そうとする伊藤を制した。 函館空港から丘珠空港へ飛ぶ予定である。 捜査に必要であれば高速料金は無料になるが、→今日の高速とガソリン代金は私が払います、お金に関してはクリーンでいたいし、我が二課にも透明化させます、と強い口調で伊藤に告げると、神妙に頷いていた。 ETCのゲートを出るとホットドックの店まで30分以上掛かると言うので、大きな食堂で食べようと決めて、大型ダンプカー、重機を積んだトレーラーが何台も止まっている森町の広い駐車場に乗り入れた。 樫山は生姜焼き定食、伊藤は豚肉丼大盛りを注文した。 三日前の新聞に目を通していると、「薄野の雑居ビルで転落事故」の見出しが目に入った。 「東京から出張中の稲垣達郎さん(39)がビルの外階段から転落死・・・」 すると、女店員が、→この人、気の毒なんだわ、3~4回、ここに来てくれたんだわ、鉄道が好きで、東京から来る人なんて滅多にいないからよく覚えているの、たしか、東京のお役所の人だったわ、けど、下戸だって言ってたから何であんな風俗ビルに行ったのかねェ、と不思議そうに首を傾げた。 道警が事件性無しの転落事故と判断したのだろうが、下戸と言った女店員の言葉が耳の奥で反響した。 すると、スマホが鳴って、→大島だ、今、どこにいる? 直ぐに札幌入りして欲しいと伊藤に伝えたのだが・・・、と20期先輩の道警の本部長から直スマホだった。 →ただいま、昼食中です、これから函館空港に向かいます、と返事して、わざとゆっくり平らげたのだった。 ・・・伊藤に先導されて本部長室に向かうと、→明日、北見に出張が急に決まってね、どうしても今日中に対面で挨拶しておきたかった、という理由だった。 翌朝、マンションの傍のカフェで朝食を摂っていると、伊藤が肩を強張らせて立っている、→個人の時間に辞めて!と詰るも、→空の車で道警に行けば本職が怒られます、と至って真面目過ぎる言葉で頭を下げる。 苦笑いしかなかった。 →じゃ、まだ時間はあるわよね、第二ラベンダービルに行って頂戴、と新聞記事で気になっっていた事故現場を指示した。 下戸なのに風俗ビルで転落死した稲垣さんは国交省の役人なのに、新聞記事には触れていない、気になったのだ。 ビルには錆付いた外階段がある、こんないかがわしいビルで民間企業が接待したのだろうか? 樫山は頭に浮かんだ疑問を振り切った。
女性3名を含む20人程が捜査二課のメンバーだった、特捜班キャップの冬木警部補が、→課長より随分年上の52才の部下で使いづらいかも知れませんが遠慮なく指示を出して下さい、と挨拶された。 →イキナリで気が引けますが、課長は神輿に乗るだけの方か、一緒に担いで下さる方か、どちらでしょうか? と直球の問い掛けだった。 →勿論、一緒に担ぎます、一緒に汗を掻きます、皆さんの足を引っ張る事は絶対にありません、責任は必ず取ります、と即答した。 →噂は本当でしたね、殺人事件の解決に大変なご尽力をされて、公取委も巻き込んで大手外資の幹部を逮捕されたとか、と追加された。 そこに冬木宛電話が入る。 終ると会議室へ案内されて、→警視庁捜査二課からでした、汚職案件で共同捜査していましたが、いよいよ着手です、とファイルを開くと、望遠で撮ったらしい粗い写真に写っているのは地味なメガネの中年女性だ。 この彼女が収賄側で、北海道病院局・栗田聡子課長補佐、39才・独身で、道立病院への医療機器や資材納入業者に入札情報を漏洩しており、月に一二度新宿歌舞伎町でホスト遊びをしているという。 往復の飛行機代も贈賄側が負担しており、ホストクラブへの料金等々、これ迄2,000万円はくだらないだろう、と冬木警部補の説明だった。 樫山警視のスマホが鳴って、→警視庁捜査二課管理官の小堀です、冬木さんから概要を聞いたと思いますが、警視庁が贈賄側、道警が収賄側、確実なチームプレーで両方を摘発しましょう、こちらの警部が引っ張って来たネタで、歌舞伎町で派手にお金を落としているおばさんがいるという情報から、調べたら道庁職員だった訳です、ウチだけで手柄を独占したかったんですが、内偵時にわれわれが道民でないのがバレるのが怖かったので、冬木さんに協力を仰ぎました。
会議室で20名の部下に、しっかりやり切ろう!と発破をかけて、全員で北24条の山小屋風居酒屋に向かった。 停めた車の後方から、→新二課長の樫山さんですね、北海道新報社会部のの木下です、と声が掛かり、名刺を差し出された。 「北海道新報 社会部記者 木下康介」とあった。 30代前半だろうか? →樫山新課長、道警にはろくに捜査をしない案件がいくらもありますよ、キャリアとして見過ごすんですか?と、イキナリのキツイ口調である。 →どういう意味? と訊き返すと、→また今度お会いした時にでも・・・、と意味深な笑みを浮かべて自分の小型車で去って行った。 冬木は、→新報は跳ねっ返りが多くて困ります、少なくても二課の話じゃなく、一課か三課の事でしょう、と取り合わない。 今回の風俗ビルで転落死した稲垣の事だろうか? 何故、一課じゃなく知能犯担当の前に現れたのか? 頭の中に様様な思いが渦巻いた。 さっき、木下が自嘲気味に言い出した、→裏金問題をすっぱ抜いた時、警察には出禁になってるし、莫迦な上層部が道警の脅しにビビって土下座した経緯もある、読者の信頼を失った莫迦なメディアだから、もう怖いものはありません、道警全体が粗暴犯ですが、俺は警察に尻尾を振る積りはありません、と啖呵を切ったのだ。 乾杯の挨拶で、→絶対に責任を取りますので、事件の取り組みはドンドンやって下さい、と今度も言い切って、冬木が少々の貯えがあると言っても、樫山警視は三万円をキチンと支払い、残りを頭割りするようにして帰宅した。
冬木から昨日のお礼を言われた、→樫山警視は、歴代の課長で初めて自分の財布を開けました、序に、我々の負担分も少なくなって有難い限りです、メンバーは意気に燃えています。 次は行確の報告があった。 被疑者・栗田聡子は、デパートで小樽産の蒲鉾を購入し、歌舞伎町のホストクラブに宅配の手配をしたという。 一週間後の配達日も聞き出してきていた。 その日以降に栗田の東京出張がある筈だ、と見込まれた。 いよいよ、最終場面が始まる、道警の失敗は絶対許されない、と気を引き締める。 警視庁の小堀管理官との共同捜査に手落ちがあってはならない。
冬木が薄野ビル転落事故の報告書ファイルを手に入れてくれた。 新任の二課長が直接手に入れるとカドが立つから秘かにお願いしていたのである。 風俗ビルの全景、階段、5階の踊り場、の写真が5枚、次のページはビルの外階段、メンテナンス用の梯子、狭い通路の扉がある、更に次のページには錆びた蝶番がUPで、次のページにはメモがある、「被害者が寄りかかり、そのまま背中から落下したとみられる、5階のスナックで一人で飲食後、トイレに立ったがそのまま戻らなかったのでボーイが階段をチエックしたら下に稲垣を発見、その後110番通報した、機動捜査隊が付近の聞き込みをするも不審者は見当たらなかった、防犯カメラは故障中で被害者の姿は未確認」 樫山は溜息を付いた、捜査一課管理官だった身に警告音が鳴り続ける。 そっと、警視庁鑑識課のベテラン検視官・常久にスマホして、事件の概要を簡単に説明して写真を送った。 道警の扱った事故には触りたくないなァ、と嫌がる相手を、何とか智恵を貸して下さいと頼み込んだのだった。 早速の返事は、→単純な転落事故として解決済みだって? これ、殺しの線が濃厚だぞ、蝶番のネジが意図的に外されている、と声を顰めてイキナリ切れたのだった。 やはり、何かがある、愕然とした樫山はこれからどうやって真実を探るか、考えに沈んだ。
(ここ迄、全461ページの内、93ページまで。 栗田が入れ挙げている新宿ホストクラブの彼氏と死んだ稲垣の三人は顔なじみだった。 また、北海道新幹線工事でも亡くなった下請け業者の監督は、旭川でサッカークラブの監督だった。 それぞれが綺麗に繫がって、殺人事件の解明に繫がるが、小堀管理官も樫山二課長もそれ以上踏み込めない、政府高官・松田の邪魔が入った・・・)
(ここ迄、5,400字越え)
令和5年2月27日(月)