令和4年(2022年)12月31日 第581回
年末までの除雪車は2回である。 去年より1回多い。 去年は大雪だったが新年はそうでない事を祈る次第。
図書館から借用の単行本、相場英雄「マンモスの抜け殻」は、巨大マンモス団地・新宿区の富岡団地で生まれ育った、仲村勝也(51才、警視庁捜査一課)、石井尚人(51才、高齢者介護施設のケアクラーク)、松島環(49才、投資情報提供サービス会社・アインホルン社長)、三人の今に起こった殺人事件の物語である。 石井が勤務する介護施設の藤原社長が、33号棟12階から転落死した。 40年前の昔から団地の顔だった83才の老人である。 その捜査に富岡団地出身の仲村警部が駆り出され、被害者の最後の接触者・松島、藤原社長の部下の石井、二人に対して過去の思い出に浸りながらの取調べが始まった。 独居老人が多発する都心の巨大団地は高齢者が多くなって空き家も多い、正にマンモスの抜け殻であった。
Oさんから借用の新刊単行本、柚月裕子「教誨」は、実の娘及び同じ年頃の幼女を殺害した三原響子が、死刑判決十数年後に死刑台の露と消えたが、最後に教誨師に残した言葉、「約束は守ったよ、褒めて」とは誰に言った言葉なのか。 殆ど他人だった吉沢静江、香澄(32才)の母娘が知らぬ間に遺骨・遺品の身元引受人に指名されていたらしい。 響子の祖父と静江の父親が兄弟と言う遠戚だった。 法事や墓参りで青森の三原本家に訪れた時、母親・千枝子にしがみ付いていた幼い響子の姿を垣間見ただけの香澄であった。 母に代わって奔走する香澄が真実と事実に辿り着くが、「事実と真実が反転する、慟哭のラスト」とPR帯にある。
堂場瞬一「風の値段」は、洋上風力発電の技術情報がライバル会社のマリンライト社に流出した。 不正競争防止法違反で、新橋署の天木刑事が捜索に乗り出すと、容疑者は20年前に同じ大学で準硬式野球部のエースピッチャーだった井口翔平だった。 井口の恋人はマリンライト社の技術部長・水城麻美だが謎の死を遂げた。 彼女は妊娠していた。 ・・・研究者のプライドと悪魔の誘惑がシノギを削る科学的なストーリーである。
山口恵似子「ゆうれい居酒屋②スパイシーな鯛」(書き下ろし)
・・・①巻は488回にUPしています。 重複する事を書きたくないので、ぜひ、先にお読み下さい。
第一話 昆虫少年のあこがれ
新小岩の裏通りの居酒屋「米屋(よねや)」、今夕の口開けの常連は沓掛音二郎である。 悉皆(しっかい)屋は、和服の染み抜き・染め替え・洗い張り・紋の入れ替え等々のメンテナンス業である。 お通しはシジミの醤油漬け、台湾料理屋の主人から習って漬け汁に梅干しを少し加えてある。 機嫌良さそうに言うには、→20才過ぎの娘さんが、亡くなった祖母さんの形見の紬を持ち込んできたが、ツンツルテンで丈も裄も身幅もまるで足りねェから、帯にしたらどうだ、と勧めたらお願いされてナ、着付けを習ってやっと自分一人で出来るようになった、と言うが、今時の若い娘がと、こちとら嬉しくてね、と喜色満面だった。 →オレも張り切って蝶々の柄を描いてやったよ、羽を橙色で染めてナ、それで着付けて歌舞伎座に行った時の写真を今日送って来たのよ、と作務衣の懐から封筒を取り出した。 →写真と一緒に母親からの礼状も入っていてナ、亡くなった母親の着物を仕立て直して娘に着せてやりたいとサ、とお得意が増えた喜びもあるのだろう。 悉皆の名人と謳われていても、和服の需要が激減しているだけに、聞いている女将の米田秋穂も胸が温まる話だった。 次の常連は美容院リズの店主、井筒巻である。 今は娘の小巻に店を任せて、自分は昔からの得意先だけ担当している。 ヌル燗を頼んで音二郎と世間話しながら、美味しそうなメニューをいろいろと注文している。 そこに初顔のお客さんが入って来た。 (岡倉雄一は)60代半ばの半分白髪、知的な顔に眼鏡、態度物腰に品の良さが感じられた。 間違って入って来たのだろうか? 瓶ビールを注文されて、お通しのシジミの醤油漬けを出すと、→これ、美味しいですね!と感嘆の声を挙げた。 秋穂が、→普通のスーパーのシジミです、冷凍すると旨味成分が4倍になるんです、と答えるとそれも初めて知ったようだ。 「米屋」自慢のモツ煮込みも食べると、雄一は、この店は期待できる、と確信した。 女将の勧めに従って3品程を満足したら、音二郎と巻がシメだという。 鮭の焼き漬け(焼いてから汁に漬ける新潟郷土料理)は如何?と問うと、雄一も思わず、私も!と注文した。 三人とも、イイなあ、旨いなァとご満悦である。 女将が雄一に尋ねると、→結婚するまで江戸川区の松江町に住んでいました、最寄りの駅が新小岩でした、「佐野みそ」という味噌屋、映画館、デパート、等々懐かしそうに話し出すと、音二郎も巻も話しに加わって来て昔話に花が咲いた。 →結婚して妻の父が創設した老人介護施設に携わる様になり、8年目に義父が亡くなって妻と二人で責任者になっています、今日は船堀タワーで介護のシンポジウムがあり、懐かしくなって新小岩に寄ってみました、と言う。 更に、→商店街の喫茶店の横で昆虫を売っているおじさんがいました、実は自分は小学生で既に昆虫図鑑を熟読していました、次の年の夏休みは同じ場所におねえさんが立っていて、20才前後の背のすらりとした髪の長い人でした、二日続けて声を掛けてくれて、印旛沼の近くに雑木林があって昆虫がいくらでも取れるの、と言ってました、その次の日は、昼ごはん食べて来るからここに立っていて、と言うなり喫茶店に入って行きました、それから毎日、夏休みが終わる迄、虫籠の傍に立ち続けたんです、翌年はおじさんもおねえさんも来ませんでした。 雄一はその後も昆虫採集に明け暮れ、明治大学農学部でも昆虫学研究所に進み、卒業後は塾講師になって、一年の半分は南米や東南アジアで昆虫採集に情熱を燃やしていましたが、結婚していつしか昆虫とも縁遠くなったがイイ青春の思い出です、と締めくくった。 一期一会、埼玉・入間だというから又のご来店は無いだろう、と秋穂はイイお客様で良かったと心から感謝したのだった。
翌日、70代の女性初見客が口開けだった。 (香川頼子は)顔立ちは整っているのに表情が如何にも昏くそのせいで老けて見える。 注文のヌル燗とシジミの醤油漬けを出すと、じっと目を閉じている。 シジミをひとつ口に入れると美味しい! たちまち小皿のシジミを平らげてしまった。 俄かに食欲が沸いてきた。 モツ煮込みは胃の腑に染み渡った、さらに二品、酒が進んでしまった。 →ここには夏の間だけ、ひと夏仕事で来ていたの、実家は千葉の農家、印旛沼の近くで採集した昆虫を父がここの商店街に売りに来てたの、翌年、父が腰を痛めてね、私が代わりに来たの、と言う。 秋穂は驚いて尋ねた、→小学生の男の子に店番させて喫茶店でお昼ご飯、食べませんでしたか? その方が昨日いらして綺麗なお姉さんの話をしていきました、次の年には来ていなくてガッカリした、今でも夏が来ると思い出すと懐かしがっておりましたよ、と告げると、頼子の目からは、涙が零れ落ちて嗚咽が洩らし始めたのだった。 辛い思いが滲み出ていた。
頼子はこの暮れになってイキナリ、仕事(家事代行業)の契約を打ち切られたのだった。 25年も誠実に働いてきたのに、新しく社長に就任した底意地の悪い若造は過去の実績を一切無視し、頼子の経歴の一点だけを指して無情に通告したのだった。 それは若い頃に遊ばれて妊娠した時の、相手の男の、犬の糞を見るような目付きで、知るか、そんなモン、自分で何とかしろ、と罵られてカッとなった手に握っていたペテイナイフで体ごとぶつかったら、切っ先は腸に達して大動脈を傷付け、男は助からなかった。 頼子は取調べの最中に流産した。 情状酌量も考慮されたが短い期間、実刑に服した。 話を聞かされた秋穂は義憤を感じて拳を握りしめた。 →酷いわ!その社長ロクな死に方をしませんよ、と同調すると、ギラリと目を光らせた頼子は、→刺し違えてやろうかと思ってる、どうせ、この先生きていたって良い事なんかないし・・・、と言い出した。 途端に秋穂は教師時代のような声が出て、→いけません! あなたは昆虫少年の憧れの人なんです、その気持ちを裏切るんですか、自分自身を信じて下さい、あなたを信頼している方々を信じて下さい、絶対に良い事はあります、と窘めながら断言した。 →ありがとう、この店に来て良かった、と頼子は再び涙で潤んだ目で言った。
翌日、家事代行をしていた中井さんの奥さんから電話があった。 都内で定食屋をチエーン展開している実業家である。 →辞めたって聞いて吃驚したわ、今度新しく出す店の責任者になって貰いたいの、厨房もサービスも若い店員の指導も香川さんなら大丈夫だと思うの、と飛び上がりたい程のお話だったが、自分の前歴とそれが原因で解雇された事を正直に打ち明けると、→あなたは我が家で15年間も家事代行をして貰っています、貴女は充分に信用に足る人です、それにしても、あの社長は問題あると思っていたけど、そこまで根性腐っているのね、と即決契約だった。 頼子は「米屋」の女将にお礼を言いたくて、何度もそこらを行き来したがお店が見付からない。 焼き鳥屋「とり松」で「米屋」はどこかと問うと、同じ様に高齢な主人夫婦も客の4人も一斉に振り返った。 一番年長らしい頭が綺麗に禿げ上がった男性が、→奥さん、米屋は30年前に店を閉じましたよ、女将さんが急病で亡くなって・・・と、いうではないか、頼子は大きく息を吞んだまま暫く吐き出せ無かった。 そんな、昨日のあれは幽霊? →そ、そんなバカな、と声は掠れて震えていた。 →でも、私、お酒も飲んだし料理も美味しく頂いたし、女将さんと話をしなかったらとんでもない事をしそうだったんですよ、女将さんに助けられたんです、と訴えると、→秋ちゃんはきっと喜びますよ、優しくて面倒見が良かったから困った人を見ると放って置けないだろうね、と禿げ頭が微笑んだ。
(ここ迄全247ページの内、55ページまで。 以下、第二話・謎の漢方医(70代の舟木は子連れの再婚、その息子は今36才になりアメリカに帰化するという、育て方を間違ってしまったか、と悩んでいる話に秋穂が、再婚同志で立派な息子に育てた自慢をしろ、と断言する)、第三話・煮しめた羽織(野球帽を被った漫談師の浜、翌日は同じ野球帽を被った20代の男性漫才師、二人は師匠・弟子の間柄だった)、第四話・無理偏にげんこつ(19才で十両に上がった力士がタクシー事故で力士生命を絶たれ、自暴自棄になっているところをちゃんこ当番の老練力士に諄々と諭され、今は立派にちゃんこ屋として成功した深川が、忘れ物を取りに戻った「米屋」で強盗を働いていた少年にモツ煮込みを食べさせていたところに鉢合わせして、保護司も務めていた深川が立ち直させるキッカケを作った)、第五話・スパイシーな鯛(50代の浜田まりこは肝臓がんが見付かり既にステージ4だという、そこに20代のタイ人のハンサムが色仕掛けで近寄って来たが、まりこはコイツをみちづれにしてやろうと黒い考えを頭に描いていた、しかし、秋穂にここまで立派に生きて来たのに晩節を汚すナ、と強く戒められて思い止まったのだった、・・・アトで天国で再会した時に心からお礼を言おうと心に仕舞った)、と続く。 何れも秋穂女将の人情噺である。 作者のアト書きで何れ第3集も出すという。 待って居ようではないか!)
元・会社から支給されていた手帳、使い易くて重宝していたが今回から中止とは何事か!と立腹していたがしょうがない、行きつけの書店で似たような手帳を購入した。 1,000円以内だったからそんなにハラも立たないが・・・。 コロナと同じで、突然、普通にあった事が閉ざされるのは結構、神経を逆撫でするモンだ。 もうこれ以上の事は起きて欲しくないと、年金者が言うのは許される話だろう。
皆様のご健勝をご祈念申し上げ、今年最後の書き込みと致します。 迎える卯年がどうぞ良いお年でありますように・・・。
(ここまで、5,000字越え)
令和4年12月31日(土)