令和4年(2022年)12月4日 第574回

PGAは選ばれし30人の戦い、松山は出ていない(選ばれていない?)。 欧州ツアーは豪州でプレー、予選通過36人中、金谷が24位、久常涼が31位とイマイチだった。 日本男子最終戦は44才・谷原が4打差を逆転して二連覇! 天晴れ。 アトは余興的に3ツアー対抗戦があるだけ。 今年のゴルフは終わってしまった。

 

 

馳星周「黄金旅程」 ・・・第572回、573回の続き

平野敬の師匠の渡辺宅に藤澤敬子が来て、→門別で装蹄するって・・・、一枝さん大喜びよ。 →浦河があるから水・木の一泊二日間だけだ。 →今度はこっちで私がご馳走するわ、今週はイイから来週ね、と約束させられた。 浦河に帰るとB・Bが放牧地に横たわって昼寝している、亮介はその傍で柵を修繕中だった。 B・Bに跨って15分ほど常歩で歩かせたらしい、元気だった頃を思い出して興奮していたぜ、と言うからB・Bの昼寝の意味が分かった。 また、やってくれと願った。 ・・・エゴンウレアは相変わらず人間嫌いらしい。 →人間にあれこれ命じられるのが気にくわないんだ。 けれど一変すればアイツは化け物になる、背中に跨ると他の馬と違うとひしひしと伝わってくる、もし俺の力が少しでも助けになるんなら、俺の人生にも意味があるって考えちゃうナ。 敬は、→栗木さんの夢が叶うと他の生産者も同じ夢を見るようになる、今の日高には夢が必要だ、ぜひ、力になってくれ、いままでいくつも牧場が消えて行った、日高が潰れれば日本の競馬も潰れてしまう。 そう話していると札幌ナンバーのワンボックスカーが敷地に入って来た。 案の定、国重と杉本だった。 →やっと会えたナ、和泉亮介、大阪の南田さんから頼まれてアンタの借金を回収に来た、ちょっとドライブでもしながら返済計画を話しようぜ、と強引に車に連れ込んで敷地から出て行った。 しかし、亮介は流石に度胸が座っていた。 金は今は無い、とジタバタしている風は一切見られない。 ・・・夜8時過ぎ、亮介はタクシーで帰宅した。 →敬、悪い、タクシー代貸してくれ、と3,000円と少々だった。 返済計画の一切を説明しないで亮介は眠りについた。 こっちは心配していたのに勝手なヤツだ。

 

吉村ステーブルの若馬達への装蹄を終えると、向こうでエゴンウレアと真剣勝負を繰り広げている亮介が見える。 そこに吉村社長が入って来た。 →現役のジョッキーは忙し過ぎだ、週末は競馬があって休みは月曜日だけ、週の中日は追い切りに乗って、更に自分の体のトレーニングもしなけりゃならない。 馬を御す技術はジョッキーが一番なのに、馬と過ごす時間が短すぎる。 気性に問題のある馬こそジョッキーが上手に御せればもっと走るようになる筈だ、と敬と同じ考えを披露し合う。 どんな馬でも、毎日の飼い葉とか、馬房の掃除とか世話をしてくれる厩務員には気を許す、しかし、たまにしか乗らない騎手からああしろこうしろと指示が出されると気性の荒すぎる馬は反発する。 吉村社長は、→亮介のような元・一流ジョッキーに調教して貰えるのは幸せな事だと思う、そんな肩書を持つ働き手なんか育成牧場の何処にもいない。

 

爪の薄い馬には接着剤を使った装蹄が必要で、平野敬もその方法を学び終えて独自の工夫も施している。 安永調教師が、→アトでウチの厩舎でそんな馬を見て欲しい、と頼まれた。 その夜遅く10時半から敬の歓迎会が開かれた。 レースの終わった時間からだから遅いのはしょうがない。 門別競馬場の調教師や厩務員等々、結構な人数が集まっている。 藤澤敬子も姿を見せて谷岡調教師と敬の間に座った。 すかさず、結婚式はいつだ?とヤジが飛んでくる。 ここの誰もが浦河で食事した事を知っている。 →まだデートは一回だけです、でも、勘違いされても私は嬉しいですけど・・・、と返している。 津村調教師が、→養老牧場をやってるんだって? ウチの厩舎に初めて重賞を獲らせてくれた馬が今度引退するんだけど引き取り手が無くてサ、引退馬協会に引き取って貰ったアト、補助金が出るからアンタんところで面倒見て欲しいナ、と申し込まれて快諾した。 最近は引退馬のセカンドライフ、サードライフを何とかしようという調教師が増えてきて、良いムーブメントとなっている。 これで命を落とす引退馬が少なくなってくれる事を祈るばかりだ。 園田という厩務員が、→ここの競馬場に和泉亮介が来ていて、SNSで非難されてる、門別競馬場で和泉亮介発見、サインをお願いしたらマッハで断わられた、相変わらずの何様!と亮介の写真も添えられている。 こっちに来るとは言ってなかったのに、何故だ? 不安が募ってくる。

 

吉村ステーブルに立ち寄ると、亮介がエゴンウレアの体を洗っている。 エゴンも満更でもなさそうだ、これでグッと距離が詰まっている事だろう。 調教の時も亮介を振り落とそうとしなくなったらしい。 吉村ステーブルで、流石に、元・トップジョッキーだって話になるのは当たり前だろう。 亮介に、→おい、ラーメンを奢るぞ、八雲に行こう、と声を掛ける。 札幌で修業した店主の味噌ラーメンが絶品だ。 →お前が馬を洗うんなんてナ、→前科があるのに雇って貰ってるし、とやり取りしたアト、亮介が言い出した。 →エゴンウレアを乗り熟すのは、中央競馬会のナンバーワン騎手、武藤邦夫さんしかいない、馬主に進言して邦夫さんに乗って貰え、彼なら当たりも柔らかいしエゴンも反抗しない、アイツは種馬になるべきだと思う、何がなんでもG1に勝たなきゃ意味がない。 →全くそうだナ、生産の栗木さんや、馬主の小田さんにも強く進言する、と約束して、→うめェ、と言いながら二人で味噌ラーメンを平らげた。

 

敬は栗木さんに会って進言した。 武藤邦夫の乗る馬は下手したら一年先まで決まっている。 敬が武藤邦夫が決まっていなそうな中日新聞杯に目を付けた。 栗木~小田の電話で武藤のエージェンシーと話が決まった、中日新聞杯に武藤が乗ってくれる! 今のジョッキー・熊谷には馬主の小田さんから話してくれるそうだ。 格上のジョッキーへの交代ならプライドも傷付かないだろう。 ・・・牧草地の刈り入れをコンバインで行い、ベーラーでロール状にラップを巻いて発酵させる。 その作業中に「深山」の深田がやって来た。 札幌に住む同級生・三津谷からメールが入ったらしい。 →元・JRAトップジョッキーが独自の情報網を駆使して当たり馬券を予想!と、宣伝文句が躍っている。 入会はこちらから、とクリックボタンがあり、亮介の騎手時代の成績が羅列され、高額配当の馬券を連続的中、入会金5万円、月会費一万円と、ぼったくりサイドそのものだった。 恐らく国重の仕掛けだろう、でもこれはヤバイ、競馬界で信用を失ってしまったら取り返しが付かない。

 

亮介を問い詰めた、ぼったくりサイドのスマホ画面を見せて、→これは詐欺同然のサイドだ、お前を使っている事が公になったら今の仕事も何もかも失うぞ、勿論、吉村社長にも多大な迷惑が掛かる、と責めると、→経歴を貸せと言われた、これで借金を減らす、一緒に商売をやろうと国重に誘われたがそれは断わった、運営に俺は関わっちゃいない、エゴンウレアをどうしても勝たせたい、間違いなくG1を幾つも勝てる力がある、それで鞍上に武藤さんをと提案した、どうしても勝たせたい、でも、もう浦河を出て行くよ、これ以上の迷惑は掛けられない、と言い出した。 →エゴンを勝たせろ、絶対にだ、出て行ったら一生お前を許さないからナ、と恫喝した。 部屋に引きこもって馬主の小田社長に電話した。 →この牧場を担保に500万円貸して下さい、和泉亮介の借金を返したいんです、今、吉村ステーブルに預ける馬主が増えてきています、亮介の調教の評判がうなぎ登りです、エゴンもきっと重賞を獲ります、と必死にお願いした。 戸を開けると亮介が建っていた、→大馬鹿野郎が、おれは感謝なんかしないぞ、と昏い目で言う。 →お前の為じゃない、日高の為だと敬は言い返した。

 

門別競馬場で装蹄が終わると、安永調教師が、→亮介の調教が偉く評判がいい、二人でこっちの専属になったらどうだ? →亮介は吉村さんが離しませんよ、最初に雇って欲しいとお願いしたのは安永さんでしょ、いなば食堂で断わられたと聞いていますよ。 厩舎地区に入ると、谷岡調教師の息子・明良から、→明日、浦河に帰る時乗せて下さい、和泉亮介さんの乗り方をこの目で見たいんです、テントと寝袋を持っていきます。 馬に憧れた昔の敬と亮介にそっくりだった、しょうがない、→お父さんの許可を取って来い、間近かで亮介の調教を見られるように吉村さんにお願いしてやる。 折り返し、谷岡調教師から連絡が入ったので、敬は、→野宿させないで家に泊まらせます、亮介と色んな話もできるでしょ、と答えると夫婦で喜んでいる様子が伺えた。 渡辺家の呼び鈴が鳴った、嬉しそうな明良が待ち構えていて大きな声で礼を言われた。

 

翌朝、藤澤敬子を見かけた、携帯片手に怒り捲っている、痴話喧嘩のようだ。 厩舎に着くと、騎手や厩務員が、→藤澤先生、わやな剣幕だったナ、てっきり平野さんかと思っていた、と話題になっていた。 津村調教師も現れて、→藤澤先生、偉い剣幕で車を飛ばして行ったけど、平野君、何かあったのかい? 別な厩務員が、→そう言えば、札幌で失恋してこっちに来たと言ってたから、

ヨリをもどしたのかナァ?と言い出したので、敬の心がささくれだった。 ・・・翌日、一枝の親子丼を平らげたら明良がやって来た。 途中、自分の事、亮介の事、悔しかった事、等々いろいろ話したが、→自分の道は自分で決めるしかない、亮介も結局、自分で決めた結果だ、自分でしか責任を取れない、と締めくくった。 ・・・栗木牧場では恵海がカンナカムイと練習に励んでいた。 同じ高一でも恵海の方が偉そうだった。 栗木社長から電話が入って、→今、恵海から聞いたけど、谷岡さんの息子さんが来ているなら、一緒に晩飯食うべ、ウチの馬を買ってくれた馬主さんから牛肉が沢山届いたからスキ焼やるべ、自分達の吞む酒だけ持って来いや、と有難いお誘いだった。 亮介は、敬が借金を貸してくれるとなった時から禁酒している。 →お前の恩にゃ、酒なんか吞んでいる場合じゃない、と言う。 栗木社長はず~ッとご機嫌らしい。 →和泉亮介が調教つけて武藤邦夫が跨るんだぞ、勝つに決まっている、と大声で憚らない。 更に、→敬ちゃんも亮介君も門別競馬場の連中が虎視眈々と狙ってるぞ、まさか、浦河を離れたりしないべナ、亮介君が調教付けた馬がやたら調子がイイって皆が言ってるし、敬ちゃんの装蹄の腕も一流だしナ。 亮介は断言した、→安心して下さい、浦河を離れるつもりは毛頭ありません。

 

翌日、亮介のエゴンウレアの調教二本に明良は目を輝かせて見入っていた。 敬も風にそよぐ黄金の鬣(たてがみ)の美しさに圧倒された。 一本目が終わって首筋を何度か叩かれたエゴンは嬉しそうに目を細めた。 厩務員も、初めて見たと驚いていた。 二本目も走りたくてウズウズしており、弾かれた様に走り出して、亮介がこの馬に本気を出させた、と確信した。

 

小田馬主から振り込まれた500万円を持って、札幌の北村金融を訪ねた。 →平野と申しますが国重さんと約束しています、と告げると、奥の専務室へ案内された。 キッチリ500万円、国重は確かめもしないで領収書を寄こす。 →俺らのような人間を騙すようなヤツじゃないだろう、と平然としている。 →このカネ、アンタの貯金じゃないなら人に借りたのか、酔狂だナ、と言うから、→只の幼馴染だけじゃ用意しません、馬の為です、アイツが調教すると馬が生まれ変わったようになるんです、浦河と日高の馬の為にアイツがいるのはプラスになるから、と心の内を曝け出した。 国重も、→いつもエゴンウレアの馬券を買っていたが、最後の最後にコイツは降着する、人間を舐めてやがるンだ、鞍上が変わりゃ面白いかもナ、と言われて思わず顔色が変わった。 国重はそれを見逃さなかった、→そうか、鞍上が格上に変わるんだナ、中日新聞杯? じゃ、今度は単勝にぶっこむぞ、もし、一着に来たら好きなモノ奢ってやる、遊びに来い。 エゴンウレアは人に抗い、人を馬鹿にし、人に攻撃さえする、それなのに人を引き付けてやまない、ここにもエゴン莫迦がいた。 コインパーキングに戻る途中、藤澤敬子から着信があった。 →何度も電話掛けたし、メールも無視ってどういう事? イキナリの怒声である。 あの日から一ヶ月近くも無視していたのだ。 →酷いわ、と涙声である。 精神的に相当参っている感じだ。 苫小牧にいるというから、じゃ、今、札幌だからそこで落ち合おう、と決めた。 →札幌で亮介の借金を返してきた、500万円を用立ててもらったり、その手続きでず~ッと忙しかった、と弁解した。 すると藤澤獣医は、ヤクザに嵌められたと言うではないか、谷岡厩舎の厩務員・田島が夜、馬房にいって犬笛を吹き、馬が嫌がることをする、レースの当日、パドックやゲート裏で輪乗りしている時に犬笛を吹いて条件反射で馬がテンションが上がってレースで負けて行く、本人は生活が苦しいから穴馬券を当てる為にやっている、と白状したと言う。 本人を詰っていると携帯を差し出され、バックにいるヤクザから私の口座に50万円が振り込まれていて、事情を知って口を閉ざしていたから同罪だ、これが公になったら獣医もただじゃ済まない、50万円は口止め料だって言われたの、平野さんに相談に乗って貰おうとしても全然繋がらないし・・・と目が潤んでいた。

(ここまで全413ページの内、266ページまで。 ヤクザと果敢に闘う敬であるが右手を潰されそうな絶対絶命に追い込まれた時の出来事とは? エゴンウレアの前途は? 藤澤獣医師との行く末は? これ以上続けたら作者や出版社からクレームが入る。 このアトは、乞う、ご期待としておこう)

 

(ここ迄、5,700字越え)

 

令和4年12月4日(日)