令和4年(2022年)10月1日 第551回

青山美智子「ただいま神様当番」(単行本は2020年)を購入。

初めての作家、1970年生まれ、横浜在住。 ・・・結構な読み応えだった。

 

LPGAは、古江18位、笹生・畑岡が40位タイ、上原が64位で予選通過、渋野独りが予選落ち。 PGAは松山が出ていない。 欧州は金谷が予選落ち、川村は出ていない。

日本男子は、予選を終わって23才がトップ、それに続き、22才・23才・25才と4人もトップ5にいる。 女子に負けない若さが弾けている。 期待しよう!

女子第30戦はメジャー、予選二日間でトップが-2という難コース。 初日-4だった小祝が翌日は+5と崩れた。 超難関のコースを土・日タップリと楽しもう。 

 

 

 

石田衣良「池袋ウエストゲートパーク⑯ 獣たちのコロシアム」(単行本は2020年)

(タピオカミルクティの夢)

氷高組は100人世帯の池袋の暴力団、渉外部長の斉藤富士男は中学同級生の真島誠からサルと呼ばれている親しい友人だった。 サルは池袋駅の東口と西口に「タピオカミルクティ」のスタンドを設け、この夏のひと稼ぎを狙っている。 何しろ設備コストも原材料コストも安い。 毎月5~60万円が浮くから笑いが止まらないらしい。 →いつまでこのピークが続くか判らない、ウチの組の若い衆に大量にチラシを撒かせる、マコトにはその文章を頼みたい。

 

サルの店を盛んにスマホで撮っている中年男がいる。 頭のてっぺんが目玉焼きのように剥げて太肉中背、肩から合成皮革の安物ショルダーバックを提げている。 サルは、→邪魔だ、そこどけ!と威嚇すると、→お邪魔してすみません、と移動しながら若い女の子の行列の後ろに並んだ。 手にはここのアルバイト募集のチラシがあった。 スタンドは「夏水堂」の名前で、ガキのようなイケメンのアルバイトがタピオカミルクティを二つ持ってきて、→部長とマコトさんに飲んでもらえるなんて光栄ッす、という。 タカシが率いているGボーイズのメンバーらしい。 90%以上が若い女の子だからイケメンのアルバイトが貴重だという。 そのGボーイが戻って来て、→部長が面接して下さい、とあの月見ハゲの中年を連れて来た。 直立不動で、→大前善次郎、53才、ぜひ、働かせて下さい、と深々と頭を下げる。 履歴書を見たサルは、→アンタ、一流企業でシニアマネージャーだろ、何で? と疑問を投げかける。 →実は今の部署は「追い出し部屋」なんです、部下は一人もいません、会社の外で働き口を探すのが仕事です、もう、16ヶ月も働いていません、給料は貰っていますが、この四年間で三人の自殺者が出ています、毎日鬱病の薬を飲んでいる仲間もいます、人間を深いところで傷付けるモノです、誰にも評価されない、誰にも必要とされない日々は堪えられません、と顔を真っ赤にして、正に告白するように涙を必死で堪えている。 →夜六時にはここに立てます、10時の閉店まで働いてアト始末や掃除もします、どうか、雇って下さい、とテレビであれだけコマーシャルを流している大企業の社員とは思えないほどの内情だった。 これじゃ、店先で果物を売っているオレの方が遙かに幸せだ、とマコトは思い知った。

 

大前のおっさんは週4日間、夏水堂にやって来た。 精々、週20,000円程であろうが実に楽しそうに働いている。 ゴミ出し、調理器具の洗浄、清掃等々、率先してやるからシフトの他のGボーイズにも伝染して行った。 イイ感じだナ、と思わせる不思議な魅力のある店になると、若い女の子もうなぎ上りに増えて行った。

 

オヤジ、なにやっているんだよ!と大声が響く。 男子高校生だった。 大前の親父が項垂れていて青くなっている。 バイトの事も追い出し部屋の事も家族に話していなかったんだろう。 →何が会社公認だよ、なんか最近様子がオカシイから母さんと心配していたんだ、ふざけんな、と言い捨てて走り去って行った。 →浩一!と、声を掛けたが振り向かなかった。

 

週明けの月曜日、一軒挟んだ隣にタピオカミルクティが出来た。 「陽来軒」は開店キャンペーンでこっちよりも150円安く、午後11時半閉店でとんでもない差である。 こっちは行列ゼロ、あっちは長い行列が出来ている。 →おい、お前! Gボーイズの犬のマコトだろ、オレはジャックナイフの銀司だ、サルにもよろしくナ、そっちの店を綺麗にぶっ潰してやるからナ。 大前さんが指先を震えながら、→私はサルさんに雇われたアルバイトです、先程の伝言は確かに伝えます、と毅然と言い返した。 マコトはサルに報告した、→新藤会の下っ端の向谷銀司だ、人のシノギに手を出しやがって、何とかする、と怒りの顔が見えそうだ。 大前さんに代わって、商標権の話を持ち出すと、→俺たちは法律の外側で生きているから、困った時に法に縋るなんて不様な事はしない、それよりもこれから先もサルと呼んでいいぞ、と格好イイ。 マコトはいう、→サルは自分が認めた奴にしかサルと呼ばせる事はしないんだ、アンタ、凄いナ。 氷高組の若い衆がサルと口を滑らせてボコボコにされたのサ。

 

翌日からサルも150円値下げで対抗して客足も戻ったが、売り上げは大きく凹んだ。 大前さんは毎日やってきてシフト以外は西武デパートの前でチラシ配りをボランテァでやっている。 息子の浩一が来てから一週間が経ったが、ここでのアルバイトの件は奥さんに話していないらしい。 →妻は、私が出世しなくても一流企業に勤めている、と誇りに思っています、だから早期退職なんてしたら大騒ぎです、と泣きそうに言った。

 

先に銀司の店がおかしくなった。 開店が遅れて閉店も早い。 まるでやる気が無い。 そのうち週の半分しか店を開けない。 タピオカミルクティはいつも売り切れの紙が下がっている、銀司は何を売っているんだろう。 働く男たちもタチの悪そうなメンツである。 手の甲や首にまでタトウを入れてる奴が多くなった。 そんな日々、大前さんの長男坊が二人の友人と半分閉じたシャッターへ入って行くのをマコトは目撃した。 午後4時だから大前さんはまだ追い出し部屋だろう、三人は5分後に出てきてカラオケ店に消えた。 本職に訊くしかない、サルの番号を廻して、銀司の店の状態は既に報告済みだから、→今、何をあの店でやっている? すると、→手っ取り早いののはクスリだナ、とサルは言った。

 

大前さんから聞き出した自宅は、西武線の小手指駅から10分の小手指ヶ原3丁目である。 朝7時に着いたマコトは、7時40分に出て行った大前さんを陰で見送り、本命の大前浩一を待った。 高三が8時15分に出て来た。 後方から近付き肩に手を置く、→おい、お前ら三人組が池袋で何を買っているのか、オレは良く知っている、これを見ろ、とスマホを差し出し、と録音も聞かせた。 →ブツがイイからあるだけ買ッといた方がイイぞ、と相手の声が重なる。 →そのアト、カラオケに行ったナ、そこでこれを使ったのか、これを警察か高校に持ち込んだら、良くて退学、悪ければ少年院送りだナ、お前の未来なんて紙屑のように吹き飛ぶ。 するとガタガタ震え出した18才は、→夜眠くならない、勉強が捗ると聞いたんです、どうしたらその画像を消して貰えますか? →来月まで100万円だ、と言い放つ。 徹底的に揺さぶらなければならない。 好奇心で人生を台無しにするよりは。 →そんなこと、出来ません、と泣き出す。 →できるわけないよナ、じゃ、このまま預かっておくから、二度とするな、残っているクスリは直ぐ捨てろ、いつか必ず捕まる、その時は俺のように甘くは無いからナ、もし約束を破ればこれは池袋署と高校に送る、大前浩一という名前と一緒にナ。 お前のオヤジさんは偉い人だ、おれはあの人に世話になったからお前の事を見ていた、おれよりもオヤジさんに頭を下げろ。 駅に向かって追い払うと、→あの、お名前を! 絶対に二度としません、と叫んでいたが、マコトは軽く手を振って遠回りをして小手指駅に向かった。

 

さて銀司の店をどう潰すか、と考えながらスマホの映像をカラー印刷したり、音声フアイルと元の映像もUSBに落としていた時、サルから連絡が来た。 →オイ、銀司の店に手入れが入っている、堅気の客がツケも払わずにチクったらしい、金も払わずに店を売るなんてホントに堅気は怖いよナ。 午後6時半、店に出向くと大前のおっさんがタピオカミルクティを両手で貢物のように捧げて直立不動で頭を下げた。 →マコトさん、本当にありがとうございました、会社を出たら浩一が待っていて、彼の悪事を打ち明けられました、そして、その若い男の人が、お前のオヤジさんは偉い人だ、世話になったからお前の事も見ていたと言ってくれて。 わたしは一度もマコトさんをお世話していません、と洟を啜っている。 更に、→ここに来た時、私はもうギリギリだったんです、何度、西武線のホームから身を投げようと思ったか知れません、この店でミルクティを売りながらわたしは救われました、未来に希望を持てるようになりました、これから早期退職に応募して小手指駅前でタピオカミルクティを売ります、浩一が全てを話してくれたので、私も追い出し部屋の事も打ち明けました、妻には未だ言ってませんが浩一は賛成してくれました、全てマコトさんとサルさんのお陰です、どうもありがとうございました。 と深々と頭を下げる。 サルには、命を救われた、本当の恩人だと言っている、と大前さんの言葉を伝えてややった。

 

・・・10月、マコトとサルに招待状が届いた。 小手指駅前の商店街に開いた「秋水堂」は、タピオカとクレープの店で、大前さんが見事にクレープを焼き上げていた。 原材料はサルが上等なモノを格安で納品していた。

(ここ迄、全334ページの内、67ページ迄。 このアト、三話が続き、表題の「獣たちのコロシアム」は最終章である。 続きは次回以降にUPしたい)

 

10月に入ったのにこの部屋の室温が30℃を超えている。 一体、外気温は何℃なのだろうか? 異常気温の前触れだろうか?

 

(ここ迄、約4,200字)

 

令和4年10月1日(土)