令和4年(2022年)9月12日 第545回

我がマンションの管理組合から臨時総会の案内が来たが、その内容は次年度の大型工事実施に伴う入札の件だった。 ところが、理事長名では無く、理事○○氏の名で理事長代行となっている。 何と、一週間前に理事長が脳出血?で亡くなっていると言うではないか、全く知らなかった。 それならば次の理事長を決める臨時総会が先なのに、議題にも上げられていない。 生きていればこその代行であって、死んだ人の代行なんてあり得ない。 こういう事に無関心な住居者が多いので心配である。 これで、理事長の初代、二代目、四代目が亡くなった。 私は三代目で幸運にもすり抜けている。 昔のタマネギ氷、今はトマトの家内の健康気遣い、毎年の北海道神宮でのお祓い等々、何もかも家内の言いなりになっていれば間違いない。

 

 

 

原宏一「ねじれびと」(2018年、四六判で刊行)

第一話 平凡組合

26才・シゲキは高校時代の同級生・金子にバッタリ会って、平凡組合に誘われた。 平凡組合、なんだそれ? 毎週日曜日にミーテング、シゲキは阿佐ヶ谷に住んでいるから杉並部会(区民会館)がイイ、と助言してくれたが、ガチの話し合いだからお前もきっと嵌る、と断言された。 暇だし、ちょっと覗きに行って見るか、と区民会館の大広間には30人程の男女が散らばっていた。 初老の男が、佐伯です、と名乗って世話役らしく、何処のグループに入っても自由です、ヒョイと混ざって下さい、と言う。 「最も平凡な男の排尿の仕方」 「最も平凡なバスの乗り方」 「最も平凡な犬の散歩」 「最も平凡な耳垢の取り方」 「最も平凡な箸の上げ下ろし」 ・・・みんな真剣に議論百出である。 三ヶ月間、シゲキは黙って聞いている内に自分も発言したくなってきた。 そんな時に金子から電話が入った。 →熱心に通っているみたいだナ、と開口一番だった。 →ハマり序にプレゼン会にチャレンジしてみたらどうだ?と畳み掛けて来る。 議論が収束したら報告書を纏めてプレゼン会実行委員会に提出、通過すると、ノミネートされるというレールらしい。 →お前ならやれるよ、俺にも出来たし、と発破を掛けられて出場する事を決めたのだった。 それからの三ヶ月間は怒涛の日々だった。 世話役の佐伯氏に相談しながらも渾身の報告書を纏め上げ、報告書を提出すると、翌週、書類審査を通過!の報が入った。 佐伯氏が手放しで褒め上げ、杉並会の星だ!と皆の前でも称賛してくれた。

 

二週間後、都立文化会館小ホール、600名キャバの、シゲキとしては前代未聞の大舞台だった。 都内20のエリアから、男16人、女4人のプレゼンターが勢揃いしていた。 10分の持ち時間で報告書の概要を発表、5人の審査員が評価して栄誉と賞金100万円が授与される、という。 シゲキは、「最も平凡な、男子の吉野家牛丼の食べ方」である。 順番は中間の10番だった。 牛丼をどう注文し、どう食べ進むべきなのか、紅ショウはどれだけの分量か、七味唐辛子はかけるべきか、生卵は必要なのか、味噌汁・豚汁・けんちん汁はどれを注文するのか、つゆだく・アタマ大盛り等の特別注文はありなのか、等々、吉野家牛丼を平凡に究めようとグループの誰もが活発な意見となったのである。 シゲキはパワーポイントのスライドをスクリーンに投影し、両手を拡げて語り出した。 ・・・プレゼン会に初挑戦してまさかの最優秀賞、まんまと賞金百万円を獲得したのである。 受賞の翌日、平凡組合関東支部からご足労願いたいと呼び出しを受けたので、その週末・土曜日に伺う事にした。 品川駅に近い高層ビルで豪勢なオフイスである。 ここでイイのかな?と気後れしながら、一階にあった内線電話をコールすると、平凡組合です、と応答されてホッとした。 若い女性職員が迎えに来て、東京湾岸を一望できる応接室に通された。 凄いオフイスですね、ええ、国がついていますから、とクスッと笑うと、スーツ姿の中年男性が入って来た。 →関東支部長の篠山です、今回は本当におめでとうございます、と名刺を出して挨拶された。 →まだ半年ほどのキャリアだと聞いていますが、あのプレゼンにはホトホト感心しました、お見事でした。 →ビギナーズラックですよ、兎に角楽しかったから出来ちゃったんだと思います、最初は平凡な事を考えるなんて馬鹿馬鹿しい気がしてましたが、メンバー達と真剣に議論していると、平凡を考える事って実は非凡を考える事で、あらゆる非凡を検証し尽くさない事には平凡は見出せない、その検証過程が凄く楽しくてすっかり嵌ってしまいました。 →素晴らしい、僅か半年にしてよくぞそこまで喝破しましたね、実は平凡ほど合理的な状態はないんです、今回も、大半の人が牛丼を食べる方法として一番食べやすい方法なんです、平凡とは、人間が最も合理的に生きて行く為のテンプレート(鋳型、ひな型の意)を作れるのではないか、と。 更に支部長は、→そこまでわかったのであれば、追って連絡します、とニンマリしながら出て行った。

 

その晩、金子と飲む事になった。 所要の為、プレゼン会を欠席した金子から、支部を出た途端に携帯があったのだ。 金子が奢ってくれるという、赤坂の日本料理屋、初めての高級店である。 →内定したらしいぞ、とイキナリ話を振って来た。 →抜擢される確率は0.1%のプロジェクトメンバーに内定した、取り敢えず今の会社は辞めた方がイイな、正式名称は、「平凡組合プロジェクト推進機構」で、少数精鋭の特殊法人、現在のメンバーは28人、年収1,200万円だ。 と驚くばかりの言葉が次々と出て来た。 篠山支部長が今日面談したのは三人、準優秀賞・三鷹部会の40代会社員と努力賞・葛飾部会の30代主婦だったが、ぶっちぎりでお前に白羽の矢が立った、もっと喜べ! ・・・結局、みなし公務員と1、200万円というパワーワードに説得されてしまった。

 

二週間後、シゲキは品川のビルの関東支部の更に上階の総務部で吉井という職員から、雇用契約締結後、職員証と名刺を渡されてあっさり、みなし国家公務員になってしまった。 「平凡組合プロジェクト推進機構 本部 平凡化プロジェクト推進室勤務を命ず」という辞令だった。 理事長室で紹介された相手は、何と、杉並部会の世話役を熟していた佐伯さんである。 いつものおじさんくさい風体と一変して、理事長としての貫禄と威厳を備えていた。 現場を知る為にアチコチに顔を出している、という。 関東支部長の篠山さんも同席し、これからの仕事について説明が為された。 →人格、思想、文化の平凡を事細かく規定してこの国の民に根付かせる。 それが我々に託された壮大なる使命である。 平凡化プロジェクト推進室はその使命の根幹を支え、この国の行く末を決定づける極めて機密性の高い部署なので、その点を肝に銘じて命がけで職務を遂行してもらいたい、とガラリと口調を変えて威圧するようにシゲキを射すくめた理事長だった。 更に、→この国は完全に行き詰まっている、40年前には世界一の国と称されたのに、今は疲弊仕切っている、根本治療は国の民を変えるしかない、個性化教育が円滑な社会運営を邪魔し始めた、だから、平凡化教育を推進して成熟社会に相応しい理想的な国家に生まれ変わさせるという結論だ、と驚く様な説明だった。 シゲキは逡巡した挙句、問い返した、→何故、意識の高いレベルに変える均一化・標準化じゃなくて、わざわざ平凡化を目指すんでしょうか? すると理事長は平然と答えた。 →兵隊にし易いからだよ、命令一下、言われるがままに動いてくれる兵隊を数限りなく生み出せる、平凡化にはそういう効能があるからね。 実行役トップの篠山支部長は、→平凡化に染めたあらゆるメディアや口コミを通じて、知らず知らずの内に平凡化に傾倒し、平凡化に共感する空気でこの国が覆い尽くされるよう官民挙げて仕向けるのだ、自信タップリだった。 

 

理事長室を出たら総務部・吉井が昼食に連れて行ってくれた。 シゲキが気を塞いだままに、→いつからこんな組織が出来たんですか?と問うと、→財界が働き掛けて非正規労働者を安価に使う法律が成立したアト、この考え方が政府の思惑で進み、二年前に始まったンです。 シゲキは、→僕は拒否します、こういうやり方は違うと思う。 すると、吉井が、→拒否は出来ません、雇用契約書に署名捺印したじゃないですか、この機構の存在は国家機密に属する為、拒否した場合は極刑を含む厳罰に処せられると条項に記されています、命じられるままに黙って死んでいく人間を大量生産しなければ、何れ、この国が死んでしまいますから、と微笑みながら言う。 契約書を持ち帰ってじっくりと内容を吟味すべきだったと悔やんでも後の祭りだった。

 

気が付けば首から職員証を下げたままだった。 こんなモノっ!と引き千切って、何度もへし折って歩道沿いの生垣に投げ捨てた。 逃げてやるッ、と全力疾走を始めた。 品川駅が見えて来た時、背後から急発進の車の音が聞こえ、一台の乗用車が轟音を立てて歩道に飛び込んできた。 女性の悲鳴と通行人の逃げ惑う姿、ヤバッ、とシゲキも逃げかけたが、猛スピードで突進してくる暴走車には敵わず、ガツンと激しい衝撃を全身に喰らったかと思うや、一瞬のうちに宙に跳ね飛ばされた。 その瞬間、ハンドルにしがみ付いている老人の姿がシゲキの網膜に映った。 高齢者の突発的な事故なのか、平プロ機構の年老いた刺客なのか、と虚しい思いを巡らせた刹那、シゲキは頭から歩道に叩き付けられた。

(ここまで、全267ページの内、第一話55ページまで。 アトの四話もなかなか興味深い。 作者の新しい作風であろう)

 

 

 

男子プロは日本・韓国・アジアの3ツアー合同の大会で奈良で開催されている。 予選通過71人中、日本人は22人だけで、他ツアーの流石の強者が揃っている。 ・・・驚いた、比嘉一貴が5打差逆転の優勝!(2,400万円) ルーキー河本力も4位入賞とは、テレビ放送が無かったのが悔しい限りである。

女子プロ第27戦はメジャー、これも吃驚、4打差で出た19才の川崎春花がtoday-8のビックスコアで大逆転! 又もや、超ルーキーが出現! 女子はホントに人材が豊富、初優勝が3,600万円の高額賞金だった。 同じ4日間プレーで男子より1,200万円も多い。 これで24勝3敗、あっ晴れ!である。  

 

LPGAは畑岡、古江、笹生、上原が予選通過、渋野、野村は通過ならず。 結果は、畑岡20位(19千$)、笹生33位(12千$)、上原42位、古江58位だった。 

欧州ツアーはイギリスで開催、川村が出場しているが、エリザベス女王が逝去されたので半旗を上げて喪に服し、試合は中断されている。 更に、大会は三日間に短縮され、川村は予選通過72人中、11位であった。 結果は18位と下げて96千€だった。

(ここ迄4,500字)

 

令和4年9月12日