令和4年(2022年)9月3日 第543回

LPGAは畑岡、笹生を始め6人が出場。 この二人に加えて古江も予選通過。 渋野と上原彩子、野村敏京は予選落ちした。 欧州は川村が、73人予選通過の内、29位。

日本女子第26戦は3日間大会、勝みなみが初日からボギーフリーの9アンダーと飛ばした。 さて男子プロも白熱している。 楽しみな週末になりそうだ。

 

 

小路幸也「風とにわか雨と花」(単行本は2017年)

岬博明・恵里佳夫婦は、娘・風花(ふうか)12才、息子・天水(あまみ)が9才になった時に離婚した。 その理由は、→今は説明しても判らないと思うので言わない、と風花はお母さんから告げられた。 二人は津田と言う名字に変わり、会社を辞めたお父さんは引っ越していった。 少し経った夜、お姉ちゃんが天水のベッドに入って来て、→お父さんはね、作家になる為に会社を辞めたの、と教えてくれた。 博明はカーディーラーの営業職で上々の成績を上げていた。 自分で自慢もしていたし、お母さんも頷いていたから間違いない、と風花は信じている。 家の廊下の奥に小さなスペースがあって、机と本棚とパソコン、そして灰皿だけが置かれている。 夜、子供二人が寝てからそこに籠っている事も知っている。 煙草を喫いながらキーボードを叩いている背中はホントに嬉しそうだった。

 

夏休みに二人でお父さんの家に行って様子を見て来たい、とお母さんに言ったら、→イイわよ、毎日1回電話をくれる事、と言う条件付きだったけど簡単にOKが出た。 お母さんは、結婚する前にしていた設計の仕事に復職し、図面を引く仕事があるから一緒に行けない。 三ヶ月振りにお父さんの顔が見れる。 家の前が海だから毎日泳げるぞ、と教えられていたから、着替えを沢山詰めてお父さんの暮らす町に向かう。 電車で2時間半、駅前からバスに乗って15分、バス停から歩いて10分、結構遠い。 けれどお父さんは駅までクリーム色のボロボロ車で迎えに来てくれた。 物凄い中古で、一万円で買ったって、吃驚! そんな安い車があるなんて。 風花はお父さんに聞かれる度に素直に答えた。 →お母さんは毎日お仕事が楽しそう、お化粧もしてウンと綺麗になったし、と。

 

恐ろしく中古の一軒家、ホントに目の前が海だった。 しかし、家の中は最近、大工さんに頼んでトイレも風呂も新しくしたので、風花ちゃんは気に入ったらしい。 壁一面が本棚になっていてギッシリ本が詰まっている。 古本屋のおじいちゃんが死んじゃって、全部、貰ったと言う。 →お前達が知らないお父さんの友達が沢山いる、この家にも皆来てくれるんだ、と嬉しそうだった。 これから家にいる間は三人でご飯を作るとお父さんが言う。 今日はカレーだと決めて、玉ねぎとニンジンを切り刻み、お肉を入れて煮て、カレールーを入れると本当に美味しいカレーが出来た。 食後、散歩に行こう、と三人で砂浜を歩く。 月の道があった、海面に月の明かりが道のように続いている。 「月の道」というのはお父さんの表現だけれど、実際に見た風花も天水も納得する。 その表現こそが作家の仕事だとお父さんは言う。 そして、→風花と天水が学校に行って、毎日ご飯を食べて、好きなモノを普通に買って貰える位の金は残してきたし、二人が大人になる迄のお金をお母さんは持っているから、そんな心配はするな、オレはアルバイトをして毎日ご飯が食べれる位の稼ぎはあるから心配するナ、それとお母さんを嫌いになって離婚したんじゃない、子供が小説の邪魔になったからでもない、理由はオレの我が儘だ、この我が儘の結果は自分で責任を取らなきゃならない、そして、お前達には絶対嘘をつかない、全部本当の話をする、格好つけて見栄を張ったりしない、小説を書く事以外のことは全部お前達にあげるんだ、それがお前達に対するオレの真心だと決めている。

 

税理士の晴海が遊びに来た。 五年前離婚の先輩で子供のいない一人暮らし。 まさか、一番仲の良かった二人が離婚経験者になるなんて・・・。 何回もここに来ているから、風花も天水も、晴海ちゃんと呼んで懐いている、まるで親戚のように。 →生活の慣れっていうか、風花も天水も大きくなって、主婦として余裕が出てきて、建築の世界や設計図を引く楽しさ、仕事をする仲間等々を思い出しちゃったの、お義母さんが亡くなって、博明さんの親類縁者が誰もいなくて、お義父さん・お義母さんの保険金と実家を売り払ったお金が遺されて、そういうのが一遍にやって来たの、人生のタイミングかなと思う、私も以前の仕事がしたくなった、博明さんも小説を書きたい、となって、それまでは小説に打ち込むのを我慢しながら、夫として、父として家族の生活を守ってきたからこその、自分の思いを叶える決断だった、と思う。 なるほど、そういう離婚だったんだ。 アトが無いように自分を追い込んだのだ。 そして今、恵里佳はとても楽しい、ヒールのある靴を15年振り位に履いて仕事をしている自分がドンドン好きになって、旦那のいない寂しさを超えちゃったの。 この生活を遙かに楽しく感じている恵里佳だった。

 

朝ご飯の目玉焼きは天水の役目になった。 出来ない人が覚えるべきだ、風花はもう出来るから、という理由だった。 風花ちゃんは黄身が半熟、天水は黄身が少し硬め、お父さんはターンオーバーがイイ、とそれぞれの好みがあった。 風花ちゃんはレタスを洗ってサラダ、お父さんはベーコンを焼いたり、トースターでパンを焼いている。 三人で作った朝ご飯は初めてだ。 今日はプライベート・ピーチがあるからそこで泳ごう、綺麗だぞ、6㎞歩く、所有者から許可を貰ってある、誰も来ないぞ。 サンドイッチとオニギリ、水筒に麦茶を入れて保冷バックはお父さんが担ぐ。 途中で美味しい唐揚げを買う、岬の中の森を抜けて崖を下りてゆく、結構キツイ。 建物があって塀が続いている、そこの鍵を開けて入って行く。 鍵もこの夏いっぱい、借りているそうだ。 小山を登ると崖下に管理小屋があった。 そのまま下って真っ白い浜辺に着いた。 本当に綺麗だ、Uの字になっている小さな湾だ。 あそこに岩が見えるだろう、あそこまで浅瀬だ、だから絶対、岩を超えるなよ。 この町には知り合いが沢山いる、あの家もこのビーチも知り合いから借りた。 お父さんはまだ小説家じゃないが、文芸誌に小説を投稿、発表している。 今までに三編書いた、但し、最後のは5年も前だ、だから只の物書きだったのさ、と言われて風花は初めて知った。 そしてここの持ち主も80才の小説家だという。 今も綺麗だから昔はもっと美人だったと思う、とお父さんは言った。

 

恵里佳は子供二人がいない部屋に帰ると、自分が日々を楽しんでいるその後ろめたさに母親失格かな?と考えてしまう。 親が子供を育てるんじゃない、親は子供に育てられるんだ、と本当にそう思う。 きっと、この夏休みにいろんな体験をして何かを感じて来るに違いない。 博明さんを嫌いになって離婚した訳じゃないから、また、一緒に暮したいと言って来たら素直に受け入れようと思っている。 これは離婚前にも話した、すると彼は、その時が本当に来たら、必ず条件を付けてくれ、必ず、定職についている事、と。 勿論、恵里佳も風花も天水も愛しているが、今は、一人で生きなきゃ小説を書けない、自分だけを愛さないと小説が書けない、だからそれを選ぶ、と言い切ったのだった。

 

風花は目が覚めた。 夜中の二時だった。 お父さんの部屋からキーボードを打つ音が聞こえてくる。 そっと近寄ると、振り返って、どうした?と言う。 海で沢山泳いだからきっと疲れて熟睡したのだろう。 全然眠くない。 明日の晩ご飯はあの浜辺でバーべーキューはどうですか?と誘われたぞ。 ピーチの持ち主・蒲原さんからメールが来たらしい。 ご近所の仲良しの皆さんが一緒だと言う。 楽しそうだ。 勿論、天水だって同じだろう。

蒲原喜子さん、80才。 希望の灯を灯し続けられる人は強い、博明は蒲原さんに会う度にそう思う。 書く事こそが物語を綴る希望なのだと。 希望さえあれば心が折れる事は無い。 喜子さんと出会えた事は博明の人生で大きな幸運だと思っている。

バーベキューは毎年の恒例行事でその為の道具は管理小屋に置いてある。 蒲原さんのお隣の牧野さん夫妻、近所の堂島さん、サーフショップ経営の中野さん、自宅にアトリエのある画家の西さん、子供が参加するのは初めてだ、と風花と天水を歓迎してくれた。 神原さんは流石にあの急峻な崖は危険なので、岬を廻ってボートで来るらしい、美容師の小島さん・茉理さん夫婦が漕いで来た。 風花と天水が挨拶すると、神原さんは、→風花ちゃんはとても形のイイ目をしている、お母さん似かしら、きっと美人になるわ、天水クンは岬さんにそっくり、こっちもイイ男になるわネ、私の事は喜子さんって呼んでね、喜子おばあちゃんはイヤよ。

 

中野さんが、→天水クン、こっち来い、火の付け方を教えてやるぞ。 火を付けられたら生きて行けるからナ。 乾いた小枝や枯れた草、その上に大きめの薪を置く、そして火種の枯草にマッチで火を付ける。 マッチは初めてだったけど簡単だった。 火が消えないように少し風を送る、薪が燃えて来たら薪を足す、その時は風の通り道を作ってやる、燃えるには空気が必要だからね、ピッタリ薪を揃えないで、こうしてズラシて並べるのさ。

 

風花には蒲原さんが寄り添っていた。 →離婚した理由は判らないでしょ、でも淋しいわね、そう思った事で風花ちゃんの心が成長したの、楽しい時じゃなく、淋しかったり辛かったりした時に心が成長するの、心は死ぬまで成長できる、どんどん大きくなると優しく強い人になるの、今、風花ちゃんは最初の時よりも淋しくなくなったでしょ、もし、友達の両親が離婚したらその子に優しくできるでしょ、それだけ心が大きくなったの。

 

中野さんが天水に、→もっと食え、野菜も食べろ、とドンドン皿に乗せてくれる。 →オレもナ、小さい時に両親が離婚したんだ、けど気にしたってしょうがないんだ、子供は一人じゃ生きて行けないからナ、付いていくよりしょうがない。 天水も言った、→離れて暮らしていても空と海は繋がっている、同じ空の下だし、同じ海を見ているって、お父さんが言ってる。 →流石、小説家のお父さんだ、その通りだ。

 

蒲原さんは結婚はしたことが無いけど、一緒に人生を歩いてくれた人はいたそうだ。 →風花ちゃんの両親が離婚したという事実があります、じゃ、二人は顔を見たくない程嫌いになったんですか? 違うとすれば人それぞれの理由がある、その理由が真実なの。 風花はこんがらがるけど今のは判った、→事実の向こう側に真実があるんですね、と答えると、バンって手を叩いて蒲原さんが驚いた顔をした。 →凄いわ、風花ちゃん、良く判ったわね、皆が同じ事実を見詰めて、同じ真実に気付いていたら平和なのにネ。 けれど、争いが無くなるってのは人間にとって一番不幸な事かも知れない、悪い事と善い事の区別がつかない人、自分で判断出来ない人も沢山いて、その為に法律や警察があるの、争いがなくなるッて事は同じ考えをするッて事、個性が無くなるッて事、それはとても怖い事だわ、右向け右でその先に崖があったらみんな死んじゃうわ、義務教育も親の義務なの、子供に生きる力を与える為に、言葉を覚える、計算を覚える、生き物はどう生きているか知る、この社会で生きて行く為の基本的な力、その力がついて中学校を出たら就職する子も出てくる、中卒の棋士も沢山いる。 自分で稼ぐ人がいる。 風花は、う~ン、凄く勉強になる、と心に刻んだ。

 

恵里佳は、二人が帰って来る前に様子を見に行くと風花と約束していた。 でも元の夫と改めて会う事に慣れていない。 夫を愛して結婚して子供を産んだけれど、離婚をして一人で暮す事を選んだ我が儘な人、でも、風花と天水がいるから大丈夫と思う。 淋しいけれど嬉しい、悲しいけど楽しい、二人ともきっと同じ感情になっていると思う。 よし、行くか。

・・・これから何回か行くかも知れないから駅までの迎えは無用、しっかりバスにも乗って、バス停からも歩いてキチッと道順を覚えたい、と断わったから、三人とも家で待っていてくれた。 晩ご飯の用意に皆で10分ほどの市場に向かう。 近くて便利なのに、お父さんは殆ど来ないと言う。 貰いもので充分間に合う、元漁師の東条さんは毎日釣って来るからそのお裾分け、野菜は山本さんの家庭菜園から頂く、全く不自由しない、これも蒲原さんのおかげさ、とお父さんが感謝している。

(ここ迄、全235ページの内、162ページまで、人生の転機点という、実際には余りあり得ない美しい嘘を立ち上げて幸せ一家のストーリーが展開して行く。 博明はホンモノの作家に成れるのか? この一家が再び一緒に住む事が出来るのか、アトは読後感で判断するだけである)

 

イヤ、吃驚した! ここへのアクセス数が昨日92件、過去は47件が最高だったから新記録である。 誰が一体?と不思議だが間違いじゃないだろうナ、嬉しいが半信半疑である。

 

(ここ迄、5,400字越え)

 

令和4年9月3日(土)