令和4年(2022年)8月12日 第536回

すすきの祭りの案内があったので、二年間ご無沙汰のスナック「C」に行った。 カラオケ予約盤に「○○さんの十八番」と、自分の24曲が残っていた。 今は唄っていない曲が半分以上である。 懐かしい! 思い出しながら10数曲、全部唄ってきた。 代金はスナック「M」の倍以上、これじゃコロナもあって足が遠のくのはしょうがない。 「C」の前に、ブラッと初めての店、旬菜「N」に寄った。 ヤキトリ一本280円と高価であったが、丁寧な焼き方とちょっと大きめで、味も含めて、成る程!と納得した。 メニューに「540じゃがバター」とあったので、その意味を尋ねると、「540日貯蔵熟成のじゃがいも」だという。 そう言えばテレビで観た事がある。 倶知安町の会社が始めた甘さ倍増のジャガイモである。 男爵、きたあかり等、5種類のジャガイモを長期熟成している(室温2~5℃、湿度80%で)。 価格も倍になっているのかどうかは定かじゃないが、一年半も貯蔵熟成するとコストのかかる事、間違いない。 倶知安の会社では小売りは無く業務用のみの販売だと言う。 帰り際の問い掛けだったので、次回、必ず注文しようと思う。  

 

 

中山祐次郎「俺たちは神じゃない」(文庫本、書下ろし)

東京港区、芝公園近くの敬愛会麻布中央病院、外科医の39才・剣崎啓介は手術中の看護師からの緊急電話に対応しながらも、同期の40才・松島直武にも電話した。 ここで働いて10年になる。 手術室に駆け付けるとギョッとした、10人以上の人間がいる、麻酔科医、看護師、泌尿器科医等々で、患者の出血が止まらないらしい。 執刀医は泌尿器科のナンバー2、大学医局からの派遣で来た稲田耕二、剣崎より少し年上だが手術室看護師の評判は最低だった。 威張り散らすし、当たり散らすのは毎度の事らしい。 医局では論文とかで出世頭らしいが臨床はイマイチなのだろう。 看護師に出血量を聞くと、指を三本、エッ、既に3,000cc! 男性の血液は3,500ccほど、その分を輸血で補っているのだろうが、そんな出血量とはこの病院では殆ど無かった事である。 真っ赤になっている腹腔に吸引を行い、兎に角、出血点を見つけなければならない。 吸引の一瞬に目を凝らす。 ここだ、太い静脈の二か所だった。 両手の指で出血点を押さえて止血し、稲田に止血処置を願うが、この男、全然役に立たない、と思った時、松島医師が入って来た。 ああ、もう安心だと剣崎が安堵する。 代わった松島がツッペルで止めてそこを縫い込んでくる、糸を6回縛ったところで完全に止血となった。 →流石ですね、先生がた、と麻酔医の瀧川京子が感嘆する。 二人よりも少し下でバツイチという噂がある。 稲田が、→先生方、ありがとうございます、と患者の家族説明に出て行った。 松島が、→ロクでもあらへん、あいつ、出血点も見えてないナ、身の程知らずというか、だったらこんな手術すんなヤ、と瀧川医師に振った。 自分で出血を止める腕がないんならこんな手術に手を出すべきじゃない。 瀧川は曖昧な笑顔で返していた。

 

雑居ビル地下の何時もの店「ザ・ワン」に二人で落ち合った。 二人は一年前にたまたま入ったこのバーだが、ほぼ毎週来ているからもう50回は来ていると思う。 マスターの尾根は短髪と顎髭に清潔感が漂う40代後半と名乗る謎めいた人物だった。 今日の手術を始め、いつでも冷静な松島のウデを褒め称えていると、→おれは剣崎先生の様に患者に対する思い入れがなくて、ただ、目の前の止血術、一点に集中しているんだろうナ、自分より上手い外科医がいない一人っきりの手術を随分やってきたからナ、と飄々と言う。 そこに瀧川麻酔科医が、→ご苦労様です、と入って来た。 えッ、と剣崎が吃驚すると、松島が、→俺がスペシャルゲストで呼んだ、と嬉しそうに大声で笑った。 二人して瀧川医師の麻酔の見事さについて誉めちぎると、→この手術、ヤバそうだナって時には予め沢山手を打っておくの、稲田先生は院長の親戚で麻酔科でも要注意人物なんです、状態が悪い患者さんでも平気で大きな手術を入れますからね、と愚痴ると、すかさず、松島が、→せや、酷いもんやって、あのヘボ手術、と言い切る。  これまでも結構なヘボ手術があったらしいが、院長の親戚という特権で問題になってないとは・・・。 剣崎は、→そんな事は許されない、と力むと、→まァ、今夜は楽しく呑もう!と松島は笑顔で二人に勧める。 ・・・ビールを10杯以上呑んだ瀧川がカウンターに肘をついて目が据わっていた。 →まっちゃんもケンちゃんもエライよなァ、それに引き換えあの泌尿科医、デカいオペするんじゃないよ! あのアホ医者、ぜってえぶっ殺してやる、と呟くと、カウンターに突っ伏した。 途端に顔を上げて、→吐きそう、と呟きながらトイレに向かった。 →ほら、面白いやろ、毎回、こんなになる迄飲むんや、普段とのギャップが大きすぎだろ、溜まっているストレス、モヤモヤをこういうとこで発散してるんやろ。 →京子先生、帰るで、もう零時を過ぎた、と松島が声をかけて送って行った。 剣崎は、→もう、そんな関係?と訊くと、→前も送って行っただけや、との返答に、そういうところはキチンとしている松島だ、と信用した。 実は彼もバツイチだった。 

 

翌朝、院長室に呼ばれた。 →何故、泌尿器科医をコケにするのだ、そのような事は非常に好ましくない、君達のウデが良いのは良く知っている、だからこそ謙虚にならないとイカン、以後慎むように、そして泌尿器科の先生に謝っておくように、と訳の分からん事を言う。 傍から松島が憤怒する前に言わなければならない。 剣崎は、→はい、申し訳ありませんでした、と頭を下げた。 院長室を出ると、→まっちゃん、ゴメンね、と謝ると、→俺だけやったら張り倒しとったわ、と松島はやはり眉間に皺を寄せている。 →あほくさ、それにしても誰の告げ口や、稲田の野郎、むかつくナ、と続ける。 稲田の部屋に行って、→何だか、失礼な事を言ったみたで、済みません、と謝ると、→いやいや、先生達がいなければあの患者は今は雲の上でしょう、元々、棺桶に片足突っ込んでいるような年齢出すけどネ、と鼻を鳴らして笑った。 隣から殺気を感じた。 早々に松島の袖を引っ張って部屋を出た。 →やっぱりアイツ一発殴る! →あんな奴、殴ったってしょうもない、それにしても患者さんが可哀そうや、あのクソ野郎はロクな医者じゃないナ。

その夜、また地下のバーに行った。 マスターの尾根は他言無用と断わって、→昨日の女医さん、実は別れ話をここで始めてご主人を張り倒したのさ、他の常連客も巻き込んで酷い修羅場だった、すっかり忘れて居たけど、あの泥酔振りを見て気が付いた、という。 正真正銘の酒乱なのだ、あの優秀な麻酔医は。 松島は優しい目をして、→人生、生きてりゃいろいろあるんや、とボソッと言った。 そこに研修医の荒井・30才が入って来た。 チョビ髭がどうにも胡散臭い。 →あれッ!先生方、と驚いている。 挨拶的に何やかやとはなしていると、荒井のスマホがなった、救急外来に急患だという。 夜11時、連日の病院帰りである。 今回は荒井がやっている、→先ず、私が看ます、お二人は仮眠室どうぞ、休んでいてください。 そして12時過ぎ、荒井から電話が入った。 →痛み止めだけお渡ししてお帰り頂きました。 しかし3時間後、また荒井から連絡が入ると、→先程の患者さんがまた救急搬送されて来まして、とアタフタしている。 荒井の見立て違いだった、救急外来の洞田ゆり恵さんが荒井の心臓マッサージを手助けしていた、年輩の落ち着いた頼りになる看護師である、→心拍再開、よっしゃ~、と荒井が叫ぶが、90才の患者に対して手術は如何なモノかと逡巡はあったが剣崎は緊急手術を決めた。 当直の麻酔医は瀧川京子だったのは心強い。 手術の途中や終わったアトに術中の注意点を荒川に都度伝えたが、如何にも知っている風な受け答えをされて、コイツもダメだナ、と内心苛立った剣崎だった。

 

先生、本当にありがとうございました、という荒井はにッと不敵な笑いである。 しかし、その二日後、又しても荒井の宿直日に厄介な救急患者が搬送されて来た。 90才の独居男性である。 今度は松松島ドクターが一緒である。 松島の指示に対して如何にもちゃらんぽらんな言動に、→おまえ、CTも読めンのかい!と雷が落ちた。 そして血圧が下がってきて松島は決断した。 腸に穴が開いてて腹中、便だらけである。 家族もいないので、→オペはしない、適応術なしと判断して此の儘診る、と荒井に告げると、ええッ!と驚愕するが、松島は、→俺とお前で決めるンや、と取り合わない。 →22時5分、死亡確認、と松島は落ち着いて言った。

 

朝7時半、4階の医局で外科医20人程のカンファレンスが開かれる。 重鎮の一人、外科医長の久米が絡んでくる。 家族のいない90才女性の手術を何故やったのか、剣崎はただ手術をやりたかっただけじゃないのか、そのアトの90才男子は松島が見殺しにしたんじゃないのか、と研修医の荒井に対して突っ込むが、どちらも剣崎と松島の適正な応答に寄って事なきを得た。 しかし、丸っきり反する事をついている矛盾にこの医長は気付かないのか、とアホ臭くなった。 判ってて二人の立場が悪くなるように発言をしているように見える。 部下からの評判が悪くて院長の覚えも良くない、家庭でも居場所がない、という噂は看護婦との不倫が発覚して妻と子に無視されているストレスを部下にぶつけているらしい。  

 

その夜も「ザ・ワン」で11時過ぎに合流した。 →久米医局長はさもしい野郎だ、と二人で言い合う。 →俺たちは神である事を求められているのかナ? 松島が答える、→神なんかやない、むしろ、神さんにケンカ売っとるな、神さんの思い通りになんかならん、俺らは外科医なんやから目の前の人を幸せにする、それだけで精一杯や、と二人で合意するのだった。 二人は患者を救い傷付き、患者を失って傷付く、その繰り返しなのだった。      

(ここ迄全3656ページの内、第一章・大出血181ページまで。 第二章・俺たちは神じゃない、第三章・コードブルー、第四章・ロボット手術、二つの危機、と続くが、専門語が多くて難儀した。 さ、最強の外科医コンビの活躍を楽しもう)

 

(ここ迄約4,500字)

 

今週のゴルフは、PGAもLPGAも欧州も日本人の名前がない。 松山が首痛がぶり返して棄権していた。 日本女子第23戦は三日間競技である。 避暑地の軽井沢で道産子が優勝してくれないかナ、と期待してしまう。 ・・・真夏日である。 パソコンの傍の窓を開けているのに室内温度が30度を超えている。 9階の部屋でこうだから平屋の家は30度越えだろう。 戸建ての家々の苦渋が察しられる。 札幌中が熱中症に気を付けなければなるまい。

 

令和4年8月12日