◆私の中のあなた。 | 「らりるれろ」通信 Remark On The MGS

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MGSシリーズ及びK島監督系作品+αについてのブログです。
ファンサイトと云うよりは論評、考察よりかも?です。
ちなみにK島監督というのはゲームデザイナーです。
業界では映画通としても知られているようです。

最近は映画の記事の方が多くなってますが・・・(^_^;。

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私の中のあなた(2009)
監督 ニック・カサヴェデス 
出演 キャメロン・ディアス     サラ・フィッツジェラルド 
   アビゲイル・ブレスリン    アナ・フィッツジェラルド 
   アレック・ボールドウィン   キャンベル・アレグザンダー 
   ジェイソン・パトリック    ブライアン・フィッツジェラルド 
   ソフィア・ヴァジリーヴァ   ケイト・フィッツジェラルド 
   ジョーン・キューザック    デ・サルヴォ判事 
   トーマス・デッカー      テイラー・アンブローズ 
   ヘザー・ウォールクィスト   ケリーおばさん 
   エヴァン・エリングソン    ジェシー・フィッツジェラルド 
   デヴィッド・ソーントン    ドクター・チャンス 
   ブレンダン・ベイリー  
   エミリー・デシャネル  
   マット・バリー  
   アニー・ウッド  
   マーク・M・ジョンソン 


サラ(キャメロン・ディアス)とブライアン(ジェイソン・パトリック)の二人は
カリフォルニアに暮らす普通の夫婦。
ある日長女のケイト(ソフィア・ヴァジリーヴァ )が2歳の時白血病と診断される。
家族の誰もがケイトと遺伝子が適合しない。
そこで二人はケイトと遺伝子が適合した子供を遺伝子操作で作ることを決意する。
そして、遺伝子操作で生まれたアナ(アビゲイル・ブレスリン)が11歳になったある日、
いきなり両親の親権停止を裁判所に訴える。
今まで、否応なしに姉のケイトのために骨髄液など、様々な犠牲を強いられてきた彼女だが、
姉に対する腎臓の臓器提供を拒否するためだ。
ケイトの病状は予断を許さない。
けれどアナの決意は固く、アナと両親は法廷で対峙せざるを得なくなる。


正直、個人的にはこう云う映画は普段好みません。
けれど、この作品は興味がある事項が入っていたので見に行ってきました。
死をスペクタル化して日常と切り離す、と云う手法は、映画のみならず、
作劇的な媒体ではひとつの文法として成立していますが、
この映画はそのような文法とは対極的な位置づけにある作品でしょう。
死は常に日常に普通に存在する、と云うスタンスのこの映画は、
監督のニック・カサヴェデスが実際に心臓病を患っていた娘を持っている、
と云う部分から派生するのかもしれません。
結果として、この映画から私が感じたのは、人間の孤独と彷徨感でした。
手法的に、この映画は、ロード・ムービーに近く、
そう感じたのは、そのせいかもしれません。


基本的にこの映画は、白血病の娘ケイト(ソフィア・ヴァジリーヴァ)と、
そのSISTER'S KEEPERであり、ケイトの治療のために生み出された
妹のアナ(アビゲイル・ブレスリン)を持つひとつの家族の物語。
父親のブライアン(ジェイソン・パトリック)は消防士で名字から推察するに
アイルランド系で敬虔なカソリック(プロテスタントでもかなり敬虔な信者)。
母親のサラ(キャメロン・ディアス)は弁護士でもあったので、考え方としては
かなり夫よりは進歩的なキャリア・ウーマンであったのでしょう。
SISTER'S KEEPERとして、アナを作ることに率先的であったのも母親のサラの方。
個人的にこの話はある意味、サラとケイト、サラとアナ、つまり母親と娘の話であると思います。
元は弁護士であったサラはとてもアメリカ人らしく、
娘の病気と戦う事に使命感を持っています。
そして、戦いが何年にも渡り、既に何と戦っているのかわからないまま、
アナの気持ちも、ケイトの気持ちも、もう一人の失読症の息子・ジェシー(エヴァン・エリングソン
の気持ちも思いやれないまま彼女は戦い続けています。
でも、別にサラはそれでひどい母親と云うわけではなく、
時にはそんなサラに家族は勇気づけられ、子供想いの普通の母親として描かれています。
この映画では、そこはポイントだと思いました。
この家族は、いろんな考えがあっても、みんな家族を想いあっている、
でも、そんなこの一家も、もう精神的には崩壊一歩手前。
少なくとも、父親はそのことに気が付いていました。
だから、アナの主張には端を発しますが、
この家族はすでに実質的には崩壊していた家族と云えるでしょう。
それでも、映画は、終始優しくこの家族を包んでいきます。
この題材をもっと辛辣に描くことは可能だったでしょう。
両親がアナに科している負担は、客観的に見たら、人権的にも許されることではありません。
完全に親が子供の命を選択してる状態で、親のエゴ以外の何者でもないでしょう。
この事項は、親が虐待で子供を殺す事項と同義、云う見方もできるでしょう。
でも、この映画はそう云う部分も内包しつつも、
家族と云うある種の属性からの個の自立、と云う物語として成立しており、
それこそがこの映画の本質であると思います。
それを明解に体現しているのがSISTER'S KEEPERのアナであり、
ケイトのためだけに戦ってきたサラであると思います。



映像的にはカリフォルニアが舞台であるにもかかわらず、
終始柔らかい光で包まれており、寂しい中に、どこか暖かみが感じられる映像になっています。
終盤の海辺のシーンなどは光の使い方の印象的なシーンです。
音楽の使い方もうまく、キャラクターの心象を顕していたと思います。
そのせいか?悲惨なシーンよりは、幸せで暖かいシーンの方が泣ける度が高かったように思いました。



俳優は、キャメロン・ディアスはこの母親役では絶妙のキャスティングと云えるでしょう。
普通のアメリカ人、と云う感じがすごく出ていました。
この役ではそれが一番大事な要素だと思います。
アナ役、アビゲイル・ブレスリンは意外と出番がなく、
姉のケイト役、ソフィア・ヴァジリーヴァの方がインパクト自体はありました。
ケイトと同じ(と云っても種類は違いますが)白血病の青年テイラー役トーマス・デッカー
よかったです。
ケイトとタイラーの恋愛は哀しみでは片付けられないような恋でした。
アナの弁護士キャンベル・アレグザンダー役のアレック・ボールドウィンも好演でした。
もちろん、父親役のジェイソン・パトリックも静かな演技、
弟ジェシー役のエヴァン・エリングソンも屋上のシーンが印象的でした。
サラの妹ケリー役のヘザー・ウォールクィストも地味にうまかったです。
個人的にはアナの裁判のデ・サルヴォ判事役のジョーン・キューザック
すごくうまかったと思いました。
この役は原作では男性だそうですが、この映画では女性になっています。
少し前に12歳の娘を交通事故で亡くした母親と云う設定で、
この変更も母親と娘と云う部分をクローズアップしていると思います。
それと、全然関係ないのですがアメリカのTVドラマ「ボーンズ」で、
主人公のブレナン博士を演じているエミリー・デシャネルが医者役で出ていて、
同じ医療関係?役のせいか、出てくると「ボーンズ」の
ブレナン先生のような気がしてしまいました(笑)。



この映画は、原作のラストを変えてあるようです。
原作のラストは、なかなか辛辣で深淵です。
映画として見る場合、映画のラストの方がわかりやすいかな、と思います。
ただ、このラストに変更してしまったため、
少し観点がぼやけてしまったところがありますが、それは仕方ないのでしょう。
ただ、覆い隠されていて普通の人にはわかりにくいかもしれませんが、
けっこうアメリカに対して批判的な要素を私はすごく感じたので
アメリカではあまり評価されないタイプの映画かもしれませんね。
あと、倫理面でも欧米の方が問題になりそうな題材だし(^_^;。
でも、この映画は単純に病気の娘を持つ家族の悲しい話と云うだけでなく、
いろいろな要素の入った映画なので、興味のある方は見てみるのもいいと思います。
ニック・カサヴェデスぽい映画でした。