汚れた服を洗ってきたさゆは、貸したシャツを僕に返しつつ言った。
「ありがとう。助かった。」
「お礼なんかいいよ。大体、僕が悪いんだから」
さゆが、風呂場に行っている間、僕は、必死に部屋を掃除していた。人生で、最も掃除に集中していたと言っても良いだろう。6畳ほどの狭い部屋だが、足の踏み場もないというほどではないようにしたつもりだ。「何か飲む?ラムネ持ってこようか?」
「いえ」
「じゃ、コーラ?」
「いえ」
「麦茶は?」
「いえ」
「何聞かれても、いいえ?」
「いえ、車待ってるから。ありがとう。」
さゆは、階段を降りていった。いつしか、階段を踏む音がずっと続けばいいのにと思うようになっていた。しかし、無情にもさゆは、すでにサンダルをはいていた。
「ありがとう。お世話になりました。」
「いや、そんなことは」
玄関の扉がしまった。