サントリーと第九 | 国内株式市場の考察

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一万人の第九”をご存知でしょうか?


大阪城ホールにて毎年12月の第一日曜日に催されるこのイベントは、1983年の第一回目から毎年行われています。

主催は毎日放送(MBS)で、6月のちょうど今頃に参加者を募集するそうです。


最初の頃は、人を集めるのが大変だったそうなのですが、今は一万人を遥かに超える応募があって抽選を採用しているみたいです。

主催は毎日放送なのですが、協賛はサントリーが単独でしています。
そのため正確には、”サントリー一万人の第九”というネーミングになっています。


催し始めの頃にサントリー社長であった佐治敬三さんも、亡くなるまで合唱団の一員をされていたほどの音楽好きらしいですね。




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さて、来たる7月3日。
今年最大規模となる大型新人が新規上場を果たします。


   サントリー食品インターナショナル株式会社(2587)


その名の通り、サントリー(正確にはサントリーHD)の子会社です。
上場による資金調達額は予定では、およそ5000億円近くにも上るそうです。

上場時の発行済み株式数は、3億900万株。
そして公開株数は1億1900万株。内訳は、公募(新たに発行)が9300万株と売出し(旧来の株)が2600万株だそうです。
その他オーバーアロットメント620万株、となってます。

上記の公開株数は、発行株式数のおよそ38.5%となっています。
残りの60%余りは、ほぼサントリーHD本体が持つこととなります。

上場までの、おおまかなスケジュールは下記通り。
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6月17日     仮条件決定(一定の幅で仮の株価を決める)
6月18~21日  ブックビルディング期間(抽選を行いつつ株価を算定する)
6月24日     公開価格決定(株価決まる)
6月25~28日  公募申し込み期間(当選した投資家が証券会社に申し込む)
7月2日      払込み期日(購入)
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各証券会社よりおおよその想定株価は3800円と出ていますので、それを検証してみます。

まずサントリー食品の純利益を見てみます。
同社の2012年の最終的な連結純利益は233億8500万円、2013年予想では350億円となってます。

350億円(純利益)÷3億900万株(上場時の発行株式)=113.27円(1株あたり純利益)

EPS=113円27銭ですね。

次に 3800円÷113.27円=33.55

想定PER=33.55倍と出ました。

この数値は少なければ少ないほど優良(業績に対して株価が安い)と言われています。

東証一部銘柄のの市場平均が22.8倍であることを考慮すると、若干サントリー食品の想定株価は高い気もしますが。「ウチは成長するよ?」て気持ちの現れでしょうか。
(ちなみに現在はトヨタが18.5倍、ファーストリテイリングが41倍程度。)


IPO(新規株式公開)銘柄はここのところ絶好調で、どれも上場直後は急騰しているのですが。
サントリー食品まで上がってしまうと、ただでさえ33倍と高いPERが40~50倍にもなってしまいます。

上場市場が東証一部と大型であるうえ、上がりすぎるとオーバーアロットメント分の売りがぶつけられるので劇的な急騰はしないと私は予測しています。

余談ですけど、今思い出しました。
そういえば抽選で当たった東証一部IPOで、初値が公募値より低かった経験があります。
抽選までするなら、初値はある程度約束して欲しいですよね。当たった人が損するとか半分詐欺のような気がしますが。


その経験があるので、東証一部のIPOは全く信用していません。IPO後の暴騰を個人が狙うなら、やはりJASDAQかマザーズでしょうね。


さて当然7月の東証一部上場ということですので、8月末にTOPIXの組み入れとなります。
パッシブファンドによるTOPIX買いは、8月29日(木)に行われるはずですね。
買われる数量は、およそ770万株と想定しています。


まぁまだ上場してない今、日頃の出来高も判らないわけですから想定しても仕方ないですけどね。
個人的にはサントリーHD本体ではないだけに、東証一部の不人気銘柄となりえる可能性を充分秘めてると思います。



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さて、サントリー。

なぜ本体のサントリーHDが上場せずに、子会社に上場させるのでしょう。
理由は単純明快です。



『(海外でM&Aのための)お金は欲しい。でも経営に口出しはして欲しくない。』



サントリーと言えば、身内経営で有名です。

株を上場するということは、経営権を様々な人に握られるということです。
経営にも口を出される可能性は充分あります。特に物言う株主である海外のファンドに握られると、創業家一族としてはたまったものではありません。


現在四代目の代表取締役は佐治信忠さん。2013年のフォーブス記事にて、日本の富豪第2位にランクされています(1位は当然、Fリテイリングの柳井さんでしょうね)。

この方は、二代目社長の佐治敬三さんの長男です(初代創業者は鳥井信治郎さん)。
佐治敬三さんは、苗字は違いますが鳥居信治郎さんの次男です。

つまり創業者の孫が現在の社長けです。



そんな典型的な同族企業のサントリーにも、実は以前に合併話しがあったのです。


それは2010年2月、キリンHDとのことでした。

当時キリンは統合比率を”キリン1に対してサントリー0.5程度”と主張したのですが、サントリーは”キリン1に対してサントリー0.9程度”とし、創業家が影響力を保持することを求めたのです。

創業家が株式の9割近くを握る非上場会社のサントリーと、旧三菱財閥の流れを汲む上場会社のキリンでは企業文化があまりに異なります。


キリンの加藤壹康社長は交渉決裂後に、その理由について会見します。


『統合した後の新会社が公開会社であることを前提に、どのような経営を行っていくのかという点で両社の認識が一致しなかった。』

『新たな統合会社は上場会社として経営の独立性、透明性をしっかり担保し、顧客、株主、新会社の従業員から理解、賛同してもらえないと考えた。』

暗にサントリー側の要求が過大だったことを批判したのです。


サントリー側はこれに対し『オーナー会社の良さはパブリックカンパニーにはなかなか理解できない。サントリーの111年の歴史、創業家と会社のかかわりを見てくれれば、わかってもらえると思った。』と漏らしています。


ところで今度上場するサントリー食品インターナショナルの株の約60%は、サントリーHD本体が握っているということですが。
サントリーHD本体の株主は誰が保有しているのでしょうか?調べてみました。


<株主社名><所有株式数><持株比率>
寿不動産 613,818千株 89.92%
サントリー持株会 30,607千株 4.45%
三菱東京UFJ銀行 6,871千株 1.00%
三井住友銀行 6,871千株 1.00%
住友信託銀行 6,871千株 1.00%
日本生命保険相互会社 6,871千株 1.00%
サントリーHD(自己株式) 5,900千株 0.85%
公益財団法人サントリー生命科学財団 3,590千株 0.52%
佐治信忠 652千株 0.09%
鳥井信吾 539千株 0.07%


寿不動産?!

そう、サントリーHDという巨大な会社の株式90%を実は”寿不動産”という、名前も聞いたことないような不動産屋さんが持っていたのです。


そして寿不動産をググります。
Wikiにも出てるので、すぐですね。

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<寿不動産株式会社>
設立:1956年9月
資本金:1億2200万円
年間純利益:45億1100万円(2011年12月期)
総資産:227億5000万円
従業員数:9人

<業務内容>
サントリー関係会社株式の管理、不動産賃貸および保険代理業を行う。
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上記のように書かれていますが。

なんと従業員たったの9人。9人で、年間純利益45億1100万円だというのです。

凄まじいですね。
次に寿不動産の主要株主構成を見てみましょう。これはEDINETで確認できます。便利な世の中ですね。


サントリー芸術財団  13.81%
サントリー文化財団  9.21%
佐治信忠       4.97%
鳥井信吾       4.97%
酒井朋久       4.97%
佐治英子       4.97%
鳥井信佑       4.97%
酒井幾代       4.97%
鳥井信宏       4.84%
坂口美木子      4.84%


どうですか?知らない名前ばかりですが、なんとなく想定できますね。

一族19人で、なんと株式の72.36%を保有しているのです。


実は寿不動産事態の売上高はそれほど大した額ではありません。
(少し古いですが)2008年12月期決算によると、売上高は僅かに8億5200万円しかないのです。
しかしながらサントリー株の配当金による営業外収益はその4倍近い31億円余もあり、経常損益は35億円余の黒字となっています。
ここから一族らへの役員報酬9,748万円と寿不動産株からの配当金約21億円が捻出されているわけです。


なんの変哲もないよに見える、ちっぽけなこの不動産屋さん。
これこそが大企業サントリーHDの親会社であり、本当の意味での支配者なのです。



そしてキリンとサントリー株式移転方式で共同持株会社を設立(統合)すると、寿不動産がダントツの筆頭株主になるため、キリンからすると具合が悪かったのです。

当初サントリーの佐治社長が統合に前向きであったのは、寿不動産が新会社のダントツの大株主となり、キリンをも支配できる可能性があったからでしょうね。。

寿不動産が親会社になる統合を、キリンが受け入れるわけありません。
こうして統合交渉は決裂したのです。



さて、一族より満を持して市場に登場するサントリー食品インターナショナル。
色んな意味で、行方が楽しみですね。