2ヶ月くらい前に新しくきた店長は僕を退会させた。
もう3年以上バイトをしている飲食店のライングループは、たまに全体への連絡事項がまわってくることがある。
人は空白をネガティブな妄想で埋める。
身に覚えはないけれど、僕は何かしてしまったんだと思った。
人は意図せず人を傷つける。
で、クビになってしまったんだと思った。
僕は店長に直接問い合わせのラインを送ることにした。
30歳を超えると自分より若い店長や社員のもとでバイトすることも多い。
なので僕は論理的に間違っていることを年下にタメ口で指摘されたとしても、すぐに「すみません」と言える社会性をばっちり備えている。
ムカつきそうになったときは、そいつを気持ちよくさせてやってるんだという自尊心を担保にする。
ただ今話題の店長は老いたロバみたいなおじさんで、そもそも勤務時間帯的に一緒に働いたこともなければ言葉を交わしたこともほとんどない。
緊張した。
「ホールとキッチンで分けたので、退会してもらいました。」
従来のライングループはホール専用にするためキッチンの僕は退会させたという返信だった。
確かにホールとキッチンで連絡事項が異なることが多い。
「了解しました」という老ロバのスタンプを送ろうと思ったけれどもっていなかったので味気ない文字だけ打ち込んだ。
その指針は事前に伝えておくべきだ、と少しムカついたが、担保が効かないタイプのムカツキだったので深い呼吸をして過ぎ去るのをまった。
で、改めて僕はもうこの世界のどこからも退会させられたくはないと思った。
人は感情を他人に支配されている。
しあわせに生きるためには自分の感情は他人に支配されないほうがいいと本に書いてあったけれど、僕にはまだ難しい。
大喜利のイベントでバッファロー吾郎竹若さんと一緒のチームになった。
「竹若・大福チーム」と書かれた台本には違和感しかなかった。
6年前「日本の新しい笑い2012」というお正月ネタ番組があって、おそらく僕が初めて芸人として出た大きなテレビなのだけれど、そのMCが竹若さんだった。
それからもどこかですれ違い、あいさつさせていただくこともあったので、まっさらな初めましてではなかったし、竹若さんがものすごく優しいことを知っていた僕は、
「今日は『バッファロー吾郎D(大福)』としてがんばります!」
という発言が頭に浮かんだけれど口に出すことはなかった。
その後に出た毎月やっているユニットライブでは、キズマシーンさんのネタがめちゃくちゃおもしろくて、彼らは「ゾーン」に入っちゃったんじゃないかと思った。
打ち上げがあって、隣の席がキズマシーンのカミノくんだったのでお酒が入った僕はおもしろいネタが見られた感謝の気持ちを気持ちよくツラツラと伝えてとてもしあわせだったのだけれど、そのとき退会のお知らせがきた。
しあわせに生きるのは僕にはまだ難しい。