遂に工藤さんと依頼者の不倫相手の「別れるため」の工作はクライマックスに突入した。

 

別れさせ屋の工作には最終的に「バラし」のパートが必ずやってくる。

バラしというのは、要は工作員がこれまで積み上げてきた工作を明るみに出して人間関係を切り裂く=別れさせる ことを行うことだ。

 

今回の依頼者は自分が有利に不倫相手と別れたいという依頼のため、工作員と浮気をしている工藤さんのことを依頼者が知るという演出がバラしのパートになる。

 

当初は私と工藤さんが会っているところに依頼者と鉢合わせをするというストーリーで話が進んでいたが、結局鉢合わせした所で「ただの友達だよ」「ちょっと遊んでる女の子だよ」などと言い逃れされる可能性があるとの依頼者の希望で、工藤さんの行動を怪しんだ依頼者が探偵に依頼をし、マキさんとホテルに入る工藤さんの写真を出してきたため、その写真を持ってマキさんと工藤さんが会っているところに依頼者が乗り込むというストーリーに変更になった。

 

鉢合わせよりも分っていて追いかけてきたという事にして、より尻尾をつかんでいる感を出して絶対に仕留めたい、というのが依頼者の希望だった。

 

アメリカのリアリティーショーの「チーターズ」という番組を見たことがある方は多いかもしれない。

あれは浮気をしているパートナーがいる人が出演者となり、番組がパートナーの浮気の様子を追跡し、実際に乗り込んでいくところまでをアレンジしてくれるというとんでもない浮気暴露番組だ。この工作はほぼ「チーターズ」だった。

 

その日の工作はもちろんうまくいった。

マキさんと工藤さんが某ショッピングモールの中を歩いているときに依頼者が後ろから「この人誰?」と声をかけたとのこと。

また、固まる工藤さんに対してマキさんとホテルに入ってく写真(工作の撮影の際の写真)も一緒に突き付け、工藤さんは動揺しながら何も答えられずにマキさんに「先に帰って」といって依頼者と話をするために一緒に車に戻ったようだ。

 

その後、担当者経由で依頼者からの報告を聞いたところ工藤さんはやはりマキさんとの関係は否定しており、依頼者とも別れたくないとかなり説得をされたようで、その熱心な説得にほだされた(?) のかはわからないが、依頼者自身が交際を続けるという選択をしたので、成功でも失敗でもなく、中止でそのまま終了という終わり方の案件になった。

 

この案件はとても順調に進んだので私が最初にカフェで声を掛けてから三か月ほどで最後の工作を迎えた。

 

 

私はこの時、どの工作もこのくらいのスピードで進んでいくものであり、このバラしのパートまでは到達するものだと思っていた。

 

 

ただこのレベルで進んだのは後にも先にもこの工作くらいであり、またこの後私が経験したいくつもの工作のうち、クライマックスまで行けたものは数件しかない。

 

 

そのくらい、人間が人間を意図的に動かしたりコントロールすることは困難なのだ。