イグ・サツーティが、刺さった矢を抜こうともがくが、光の矢は悪しき者の体からは抜けないようになっている。じゅわじゅわと、浄化されて、イグ・サツーティの肉が溶けていく。

 まるで、「あっちだ!」とイグ・サツーティが言っているかのように、はるか上空の崖の上のアーセラの方角を指さすイグ・サツ―ティだったが、アーセラからの5発の光の弓矢を浴び、その場に倒れた。

 イグ・サツーティは、全部で10体ほどいるようだった。

 戦争は丸1日続いた。

 エルフ軍の疲弊が眼に着くようになったころ、敵兵もまばらになり、やがて地中にゴボゴボと返った。

 1日を通して、相手の死者は9000人以上、エルフ軍の死者は14名だった。

「父上―――――――――!!」と、思わずアーサーは崖下の、血を流しながら馬を操る父に向かって叫んだ。

 もちろん、エッケハルトには届いていないが、アーサーは、最後まで兵を率いて戦った父を誇らしく思った。

 ヴィンセントやクラウス、その他友人・知人のことを想いながら、アーサーは部下に先導されて、イブハールへの帰路についた。

 

 四、ウルドとしてのルシア

 

 イブハールへ戻り、アーサーは父が軽傷を負っており、ヴィンセントも軽傷を負った事を部下から知らされた。

 丸一日に及んだ、通称「ウェリントンの戦い」では、多くのエルフ兵が負傷していた。その多くは、戦中に、自分または仲間からの医療魔法で治したのであるが。

 息子とはいえ、父・エッケハルトの治療中は、アーサーといえど入らせてもらえなかった。母は入っていったのを、アーサーは確認していた。

「アーサー様、お戻り下さい」と、エッケハルトの部屋の前で待っていたアーサーに、召使いが言ったのだった。

「星々の加護はあったようだな」と、クラウスが現れた。化け物の血でよごれた鎧を脱いで、今はいつもの服装をしている。

「クラウス・・・!!」と、アーサー。

「君は無事だったのか」

「俺は日々鍛錬を積んでるからね。あと、年の功。怖くはなかった、と言えばうそになるが」と、クラウス。

「アーサー、お父上殿が心配だろうが、ここは部屋へ戻れ」と、クラウスがアーサーに言った。

「・・・・」

「妹さんが待ってるんじゃないのか」

「そうだな」

 それだけの会話を交わし、アーサーは自室へと戻った。

 ルシアはいなかった。どこへ行ったんだろうか。

 アーサーはぼんやりと考えつつ、机の前の椅子に座った。そして、見て来た戦場の風景を、ありありと思いだしたのであった。アザトゥース、イグ・ハンの青と緑の血。血の海の中で戦うエルフ軍たち。

 日常のこととは思えなかった。

「アーサー、無事だったか」と、ヴィンセントの声がした。ルシアと一緒だ。