崖の上に通じる道を、見張りに通してもらい、アーサーは馬でのぼっていった。

 崖上には、武具を身に着けた、美しいと評判のアーセラ姫が弓矢隊の指揮を取っていた。

 アーセラ姫といえば、上古のエルフの一人だ。(古のエルフとも呼ぶ)

「姫様、敵の勢いが止まりません!死霊の国からどんどん湧き出てきます!!」と、偵察隊の一人が、アーセラに報告する。

「ここを突破されれば、イブハールの都が危ない。何としても止めるわよ!!」と、姫。

「あら、アーサー殿・・・だっけ??」と、姫が、のぼってきたアーサーたち一隊を見て行った。

「あなた、まだ未成年でしょ」と、アーセラ姫。

「姫君、ご機嫌麗しゅう。アーサー様と、父上殿のエッケハルト殿下の遺志で、アーサー様は戦の見学にいらっしゃっておられます」と、アーサーの部下というか護衛係の一人が、馬から降りて片足を折って跪き、アーセラ姫に報告する。

「・・・そう。まあ、シェムハザがまた来ない保証はないから、それもいいでしょう。未来の国防長官さん」と、アーセラが言った。

 アーサーは、アザトゥースとイグ・ハンの死体の血からもれるむっとする匂いが、風の向きで崖上まで来たのに、少し吐き気を覚えた。戦場は、どこもヘドロのような緑と青の血であふれかえっている。

「第4隊、かまえーーーーっ!!」と、アーセラ。

「放て!!」と、アーセラが真上にあげた手を振り下ろす。と、第4隊10名ほどが、一斉に矢を放つ。

(ヴィンセントにクラウスさん、無事だろうか・・・)と、アーサーは戦場のむせるような匂いから逃げず、ふとそう思った。

 エルフ軍400名近くの中で、二人は戦っているはずだ。

「いたわ」と、双眼鏡を手に、アーセラ姫が偵察から戻って来た。

「イグ・サツーティよ。イグ・ハン軍を統率してる。私が殺るわ」と、アーセラ姫が、弓矢を固く絞る。

(上古のエルフである姫の弓矢は、特殊な意味を持つ――!!)と、横目にアーサーが内心動揺する。

 アーサーが自身の双眼鏡を手に、姫の言っていたイグ・サツーティを探すと、なんとなくそのイグ・サツーティと目があった気がして、アーサーはぞっとした恐怖を覚えた。すぐさま、双眼鏡から目を放す。

 アーセラが、呪文を軽く唱え、光の弓矢を放った。その矢の飛んだ奇跡が、キラキラと残像のように光る。

 矢は的確に相手を捕らえた。イグ・サツーティの肩よりやや下に刺さる。

 アーセラが、「急所は外したわね」と言って、何本か矢を何度も放つ。

 上古のエルフであるアーセラだけが使える・・・わけではないが、それに近い光の矢が、イグ・サツーティを追う。