「ルシア、今日は、お兄ちゃんの先輩を連れて来たんだ!クラウスさんというんだ、挨拶できる??」と、アーサー。

 アーサーの後ろから、ひょっこり姿を現したのは、クラウスであった。よっ、と片手をあげている。

「ルシアちゃんこんにちは、クラウスと言います」と、クラウスが笑顔で言う。

「こんにちは・・・」と、ルシアがきょとんとして言う。

「先輩って面倒見いいんですね」と、アーサーがクラウスに言って、ソファに座り、コーヒーをグラスに注いだ。

「お、コーヒーか!いいね・・・アーサー、お前は父上殿の後を継ぐんだろ?ルシアちゃんはルシアちゃんで、きっとウルドとしての仕事来るだろうな」と、クラウス。

「そうですね」

「しかし、世の中は平和だな、シェムハザ問題以外。こんな時がずっと続けばいいのにな!」と、コーヒーを飲みながら、クラウスが、宮殿の窓から外を眺めた。美しい宮殿の中庭が見える。

「こんなにのどかなのにな・・・人間の賢者さんたちからの報告によれば、外は死霊の国の化け物どもが出没し始めてるらしい。ここ(イブハール)が狙われるのも時間の問題かもな」と、アーサー。

「シェムハザは、すべてを無にするほどの能力を持っていると聞く。なんとかしないとな」と、クラウスが窓枠に腕を乗せる。

「アーサー、君はまだ聞いてないだろうが、俺には、死霊の国の化け物を倒すお達しが来ててな!数か月後、君のお父様率いる軍で、化け物相手に戦うつもりだ」と、クラウス。

「・・・そうなのか」と、アーサー。

「俺も行くのかな」と言いかけて、アーサーは口をつぐんだ。父はなんというだろうか。一応、成人にまだなっていないアーサーは、その化け物討伐隊には、選ばれないだろうか。

「星々の加護のあらんことを・・・と毎晩祈ってはいるが、星の神様は、俺らにお力を貸してくださっても、決してイブハールをこの世界アラシュアから解放してはくれないんだよな・・・人間を見守るという仕事から」と、クラウスが言う。

「先輩、喋りすぎですよ」と、アーサー。

「イブハールも、下界の人間と共存すべきです。エルフはこの世の創世と共に創りだされた生き物、人間を見守るという使命があります」と、アーサー。

「哲学論かな」と声がした。

「ドアが開きっぱなしだったぞ、アーサー」と、ヴィンセントが腕組みをして立っていた。

「ヴィンセント!!」と、アーサーが驚いてコーヒーをこぼしそうになる。

「俺の初陣だ」と、ヴィンセントが言って不敵に笑った。

「君も出陣なさるのかい」と、クラウスが言った。

「まあそんなところです、閣下」と、ヴィンセント。

「俺に敬語はいいよ、アーサーの知り合いだろ?それより、君の剣を見せてくれよ」

 貴族のヴィンセントが、王族のクラウスをちらりと見やる。

「それは戦場で見せてやる」と、ヴィンセントが言った。

「そうかい」