聖なる二人のトリステス:外伝「新たなる力・雷(いかずち)の剣・サンダー・シャイン」
この世を統べる神・ゼウス神によって、賢者に選ばれた男・クロード・グラニエは、相変わらず、ギルド・イルミナティで任務をこなす日々だった。
賢者に選ばれて2年目の40歳の夏、クロードは、神々の世界に行き、とある女神さまと会うことになる。
40歳と言っても、容姿は、賢者に選ばれた30代の時のまま、永遠にとどまり続ける。
一番下の子が2歳になり、3人の子持ちになったクロード・グラニエは、仕事に忙しい日々を送っていた。
ある日、クロードの勤務するギルド・イルミナティに一通の手紙が届いた。
神々の世界・シャングリラからのものだった。
その手紙には、一度、賢者になって2年目になったあなたに、もう一度会いたい、次はシャングリラで、というような内容の、召集書で、手紙の主はゼウス神からだった。
「よう、クロード大魔法使い、手紙が来たってな」と、同僚が軽く挨拶する。
「よう」と、クロードも片手をあげて挨拶する。
「そうなんだが・・・・なんだかなー。神々様に会うのは、いとこを助けた時と、賢者に任命されたときと含め、3回目になるが、緊張して、あんまり乗り気じゃないな」
「いいなぁ、賢者様の悩みってやつ!!」と、同僚。
「まあ、悩んでいるうちが花、っていうしな」と、クロードがふっと笑って言う。
「というわけで、ちょっと行ってきます!」と、クロードが手紙をちらりと見せて、ギルドを去って行った。
ギルドの外に出て、真昼間から、クロードは、賢者の証・ヘブライ・ペンタクル・ペンダントを取り出した。いつも身に着け、体から話さず大切に持っていろ、との命だった。
そのわりと大きなヘブライ・ペンタクル・ペンダントを取り出し、「呪符魔術」・「シャングリラ」と唱え、青い光に包まれた。
「はじめまして、クロード大魔法使いさん。私の名はあとにして、さあ、神々の世界へおいでなさい」
という、優しい女性の声がして、クロードは一瞬目をつむった。その次の瞬間、クロード・ロキ・グラニエの姿は消えていた。
そこは、松明の燃える、石段のあるおどろおどろしい場所・・・・であった。
「ようこそおいで下さいました、クロード・ロキ・グラニエ殿」と、先ほどの声の女性がにっこりと微笑んで手を差し出す。
「わたくしはユーフェニア神、アテナ神とは違いますが、神々の一人です。あなたのおつきの女神です」
「はじめまして、ユーフェニア神、クロードと申します」
片膝をついた状態で転送されていたクロードが立ち上がる。
「キャー、お姉さま、本物だわーー!!やっぱりクロード様って美男子ねぇーー!!」と、わきから幼い少女が出てくる。。
「ガリシアちゃん、ほらほら、戻って!クロードさん、この子たちは私の妹なのです」
「そうですか、こんにちは、ガリシアちゃん」
ガリシアは、クロードからしたら、中学生か高校生に見えた。
「ガリシアは、まだ300歳なのです」と、ユーフェニア神が言った。
「時にクロードさん、私があなたのおつきの女神、と言ったのは、私が基本的に、あなたとのコンタクトをとる係になった、ということでもあります。なにか気になることがあったら、いつでもヘブライ・ペンタクル・ペンダントに話しかけて下さい。私はそこまで忙しい神様でもないし、大丈夫です」
「ありがとうございます、ユーフェニア神」
「時に」と、緑の目をしたユーフェニア神が呟く。
ユーフェニア神が、使いの者から受け取った杖を手に取り、クロードを、祭壇の中央にある、水鏡に招いた。
杖は、クロードには一瞬で分かったのだが、ドルイドの杖で、ユーフェニア神の背丈より長い。
クロードが、ユーフェニア神とともにその水鏡のところまで歩いていく。
「あなたは、確か5年以上前に、従妹さんを助けるため、悪魔・ナベリウス侯爵と契約されたのですよね。そして、その契約を、アテナ神が、最後に、思し召しとして、解いてあげたと」
「ええ、そうです」
「かつていた、悪鬼・メフィストフェレス卿を始末するときに、王笏座の加護の第3の能力を使って、寿命を3年縮めたのも、神々の間では大きな噂話となっていますが・・・」
と言って、ユーフェニア神が、その長い杖で、水鏡の表面をそっとつついた。
水の表面が波動となり、しだいに、くっきりと、あるシーンに変わった。
「現世(うつしよ)の様子が見れる水盆のようなものです。イブハールの、あなたの従妹さんのご様子を、見ようと思いましてね」
「はい」
「あら、エルフになったハンス君と、幸せそうにお店を切り盛りしてらっしゃる。いい感じですね。これは、あなたへのプレゼントですよ、クロードさん。従妹さんのお姿、長らく見ていらっしゃらないでしょう」
「ええ、ユーフェニア神。思し召し、ありがとうございます。俺も従妹の姿が見れて、嬉しいです」と言って、クロードがふっと笑い、水盆をまじまじと眺める。
幸せそうな従妹とハンスの姿をみとめ、クロードもほっとする。
「わたくしと会うときは、毎回ちょこっとだけ、従妹さんの様子を見せてあげましょう」と、ユーフェニア神が言った。
「きぇーーーーーー!!」と、そこで、男性の異様な声がした。
ユーフェニア神とクロードがとっさに、声の主に振り返る。
「いかんいかん、新たなる予言が・・・・!!」と、ぜいぜい、と言いながら、その男性が、祭壇の下から、二人を見上げる。
「あら、ノストラダムス神、どうかなさいまして?」と、ユーフェミア神。
「きぇーーー。いかんいかん、ユーフェミア神、そのものに、死のサインが見える・・・」
と、ノストラダムス神が、長く伸びた爪の手で、クロードにそっと人差し指を向ける。
「何を言っているのです、ノストラダムス神」と、ユーフェニア神がとがめる。
「ぼ、僕に死の予感、ですか・・・?」と言って、クロードが手で口を押え、ぷっと笑う。
「ユーフェニア神、その方はどなたです?」
「クロードさん、この方は私と同い年ぐらいの年の神々で、この世の創造からいらっしゃる神々の一人です。しばしば、予言をされ、この世の危機を知らせる、予言神です」
「きえーーー!!」と言って、ノストラダムス神が両手で自分の頭をおさえる。
「この者はまだ齢(よわい)40歳、いちころで敵にやられてしまうだろう、今のままでは」
「・・・」クロードは呆れた目でノストラダムス神を見ている。
一応、賢者の身分になったものは、致命傷を負い、死に至ったときは、神々の世界・シャングリラに転送され、神々(クロード・グラニエの場合はユーフェニア神)によって治療され、まだ賢者を続ける意志があるのなら、現世に戻されるというご加護があるのだが・・・・・。
「なるほど」と、ユーフェニア神が手を口に当てる。
「ならば、新たなる力を授けるとしましょう、クロードさん。私からの贈り物と思ってください」
「?しかし、ユーフェニア神、私には王笏座の加護もありますが・・・」
「この者、ノストラダムス神は、メフィストフェレス卿の悪だくみのことも、予言で見抜いていて、それでアテナ神たちで、あなたたち一行を助けることができました。意外とこう見えて、有能なのです。彼の言うことも、信じましょう」
「・・・わかりました」
「そうですね、あなたには、人の二倍の魔力と、そして、珍しい光の精霊がいる。しかし、光の精霊を持っている魔法使いなど、この世界アラシュアでは、数人程度に満たない。それほど、光の精霊は、人に心を開かない。あなたの契約している、光の精霊・アルテミスと、ちょっとわたくしが、話をしてみましょう」
そして、ユーフェニア神が、そっと右手をクロードの額に手をあて、目を閉じた。
ユーフェニア神の手は、細く、ひんやりと冷たい。
「なるほど」と、ユーフェニア神が言って、目を開けた。
「あなたは、普段からアルテミスとはあまり話をしていないそうですね、クロードさん」
「はい、アルテミスは、いつも僕を微笑んで見守っているだけですから」
「光の精霊には、シャイン・ソードの切れ味をするどくする常駐機能と、もう一つ、発展技があります。学校ではまず習わないでしょうが、神々の間ではよく知られています。その技を、あなたに授けましょう」
ユーフェニア神が、クロードを見上げ、「さあ、手を出して、クロード神」と言った。
クロードが、ちょっと照れながら、右手を差し出す。
「そこに、シャイン・ソードをお出しなさい」と、ユーフェニア神。
そこで、シャイン・ソードを右手の手のひらの上に出したクロードの手を、彼女はそっと握った。
「神々の力、神力を授けます」と言って、「アルテミスさん、いいですね」と、ユーフェニア神が囁く。
二人の手が、青白く光った。
ぼうっとした光が、シャイン・ソードを包み込む。
「光の精霊と契約したあなたのシャイン・ソードは、アルテミスの化身そのもの。決して折れることはない。さあ、今から、あなたに雷(いかずち)の力を授けました。光から派生した能力です。雷の化身・サンダー・シャイン・ソードを、あなたに授けます」
そう言って、ユーフェニア神が微笑み、クロードから手を放す。
少し驚いた様子を見せたクロードが、手に持ったシャイン・ソードを見てみると、かすかにパリッ、パリッ、という電気の走る音がする。
「その剣には、雷の力が宿っています。いつもはシャイン・ソードですが、心の中でアルテミスさんを呼び、サンダー・シャインと唱えることで、その剣は、雷の化身・サンダー・シャイン・ソードになります」
「きぇーーーーっ!!」と、ノストラダムス神が遠くから狂ったように叫ぶ。
「イメージしろ、雷の力を操る自分の姿を!!雷の力にはトリックがあり、光の速度と音速の違いを利用して、相手を惑わす。光の速度と音速を調整し、光を見せた後に音とともに相手に雷を落とすこともできれば、逆に音がしたあと、光とともに相手に雷を落とすこともできる!それは鍛錬次第なのだ!!」
そう言って、ノストラダムス神は祭壇につかつかと近寄り、クロードの肩に手をかける。
「イメージすることが大事なのだよ、クロード君!あ、ヴァンガードもよろしくね!」
「?ヴァンガードってなんですか、ノストラダムス神?」
「私は予言神だから、いろいろな世界が見えるのでな。こちらの話だ」と言って、ノストラダムス神がにやっと笑う。
「君はまだ若い。心を燃やせ、クロード君!」
「は、はい、ノストラダムス神・・・」
「割獄さんもよろしくね!」
「は?」
「なんでもない、こちらの話だ」と、ノストラダムス神。
そう言って、ノストラダムス神は、にかっと笑い、その場を立ち去って行った。
「・・・」クロードとユーフェニア神が沈黙する。
「クロードさん、さておき、あなたは新たな力を授けられました。その力を使い、民のため、世界アラシュアの平和のために、戦い続けるご意志は、当然おありですよね?」
「はい、ユーフェニア神、もちろんでございます。このクロード・ロキ・グラニエ、残された900年以上の人生を、世界アラシュアのために捧げます」
「うんうん、それでよろしい。ハンナさんを大切にね!では、クロードさん、私たちも、いったんこれでお別れとしましょう。また、用があったり、困ったりしたことがあれば、ヘブライ・ペンタクル・ペンダントで私を呼びなさい」
「ありがとうございます、ユーフェニア神」
それから、クロードとユーフェニア神は一応ペアの関係として、世界アラシュアのために戦うクロードを、彼女が神々として支える、という形になった。
今回は、その挨拶替わりというわけだ。
なお、のちに、900年以上のあと、ノストラダムス神が、冥王ハデスの怪しげな動きをキャッチし、クロード・ロキ・グラニエに告げることとなる。
世界アラシュアに、平和あらんことを。アーメン。
≪完≫