「首都の病院に入れても、もうあまり寿命は変わらないでしょう」と、医師は続けた。

「残念です」と言って、医師は部屋を出て行った。

 ノアもオフェリアも、押し黙ったまま、暗い雰囲気の中、立ちすくんでいた。

「ノアさん、ヘーゼルと婚約してくださるのは嬉しいけど、あの通り、ヘーゼルはそんなにもう長くない。ノアさんのためにも、婚約はやめといた方が・・・・」と、オフェリアが沈痛な面持ちで言った。

「オフェリアさん、僕がへーゼルと婚約することで、ヘーゼルの心の支えになるかもしれません!ラインハルトさんたち一行が無事戻ってくれば、ヘーゼルはそれで助かるんです!ぜひ婚約を認めてください!」と、ノアが言ったので、オフェリアは微笑んだ。

「あらあら、若いっていいわね。お若いお二人に、ここは任せた方がよさそうね。にしても、ラインハルトたちは、いつ戻って来るかしら・・・」と、オフェリア。

 ノアはその場を立ち去り、ヘーゼルの部屋をノックした。

「ヘーゼル!」と、ノアが声をかける。ヘーゼルは寝たまま、動かない。

 ナスターシャが、丸椅子に腰かけ、様子見している。

「ナスターシャ、ヘーゼルがいつも見ている例の壊れた羅針盤、ちょっと僕にも見せてくれない??」と、ノア。

「何かあるような気がする」と、ノア。

「これよ」と、ナスターシャが羅針盤をノアに手渡す。

「これ、針がなんか変だぞ」と、ノア。

「うん、それは私も思ってたわ、ノア。でも、ヘーゼルに聞いても、ごまかしてくるのよ、やっぱり怪しいわ!」

「それだけじゃない」と、ノア。

「羅針盤の後ろを見てみると、何か魔法で文字が彫ってある。僕には読めないけど、村で魔法が使える人に頼んで、読んでもらった方がいい。それから、この羅針盤は、僕がしばらく預かる」と、ノアが言った。