実はミュシャの絵というのは「西洋画家が考えた本気の浮世絵」だからです。

19世紀、ヨーロッパに日本の浮世絵が大量に輸入され、「ジャポニスム」という大ブームが起きました。

当時、写真の発明により、「写実画」に行き詰まりを感じていた西洋の画家たちにとって、大胆な構図や平面的な浮世絵はあまりにも斬新で衝撃的だったのです。
ゴッホらが油絵で浮世絵を模写したのは有名な話ですよね。

その半世紀後に活躍したミュシャも、このジャポニスムの影響を色濃く受けています。

彼の代名詞とも言えるあの極端に縦長な構図の絵は、浮世絵の「美人画(柱絵)」とフォーマットが似ています。

ミュシャの孫であるジョン・ミュシャ氏も、日本の浮世絵が祖父の構図感覚に強い影響を与えていたと証言しています。

浮世絵は人物の形そのものをデフォルメしますが、ミュシャは「構図やレイアウト」は浮世絵の大胆さを取り入れつつ、「人物」は西洋仕込みの完璧な解剖学でリアルに描きました。

つまり「写実ガチ勢が本気で浮世絵のエッセンスを取り込んだ」結果があのスタイルなのです。

 



そもそも、ミュシャの様式を指す「アール・ヌーヴォー(新しい芸術)」という言葉自体、もともとは日本美術を主力商品とする美術商サミュエル・ビングの店名「アール・ヌーヴォー」に由来しています。

つまり当時の肌感的にも、「アール・ヌーヴォー≒日本テイストの物珍しい絵」というように捉えらられていたのです。

つまり、私たちがミュシャの絵を見て「いいな」と感じるのは、実は彼が「西洋の北斎」だったからなのかもしれません。