Misato's Diary

Misato's Diary

気が向いた時に少しずつ。

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王様がなんで王様かというと王様が王様を王様と決めたからだ

王様らしい 服を着て
王様らしい 冠をのっけて
王様らしい お城に住んで
王様らしく 家来を従えて
王様らしく いばって
王様らしく ふるまって
それが当たり前なのは
王様が王様だからだ

王様はとてもよくばりで
きれいなものや珍しいものなんかを見ると
とにかく自分のものにしたがった
本で見た ダイヤで出来たリンゴ
本で見た 未来を映す手鏡
本で見た 喋るラッパ
本で見た 虹色のバラ
本で見た 小人の戦士
本で見た 溶けない雪だるま
本で見た 氷の巨人
本で見た 雨を呼ぶタイコ
とにかくなんだって欲しがった

毎晩眠くなるまで本を読んで
欲しいものが登場したページは
はしっこを折り曲げておく
もう今まで何回折り曲げたか
わからない
そんな感じでいつだって
いつのまにか眠っている

そして
朝になり目が覚めると
昨夜目ぼしをつけた
宝物を探しに行く
持ち帰った宝物は
誰にも分けてあげないし
それどころか
見せてもあげなかった
そいうわけで誰も王様に
おはようを言わなかった

だから眠くなるまで
本を読んだ
本を読まずに
ただ目をつぶって
眠くなるのを待っていると
王様はいろんなことを考えてしまい
胸のあたりが
ぎゅうっとなるから
本を読んでるうちに寝れば勝ちだ

本を読んでいても眠くならない時は
お城のベランダで夜風にあたる
あるきりの深い晩もそうしていた
王様はまっくろな世界で信じられないものを見た

それははるか遠くの星一つない夜空を
強く輝きながら飛んでいた
地上からどのくらいの高さを飛んでいるのか
どのくらいの大きさなのか
遠すぎてわからない
本当はとても速いのかもしれないけど
とてもゆっくり飛んでいた

王様はそれを星の鳥と呼んだ
王様は星の鳥が欲しくなった

次の日の朝
お城は大変な騒ぎになった
王様が全ての家来を集めて
「星の鳥を捕まえよ」と命じたのだ
あまりにも無茶な命令におどろいたのか
それとも星の鳥を恐れたのか
ある者はじっとうつむき
また ある者は音も立てずに
座り込んでいた

そんな情けない家来たちに
腹を立てた王様
「ええい お前たちはまったく
いつもそうだ」
「おのれ 星の鳥」
何か良い方法はないものか
王様はお城の書庫で
調べてみる事にした

10冊、20冊と本の山が高くなっていく
王様はとても集中していたので
昼寝をすることも忘れていた
ある本に興味深い絵が
載せられていた
天井から吊されたバナナを
サルが台を使って取ろうとしている
これしかないと思った

次の日王様はお城中の
ありとあらゆる箱を集めた
食器が入っていた箱
パイプやクギやらの
鉄クズを入れておいた箱
とにかく片っぱしから
空にして集めた
そして大きな紙に
いろいろな計算を書いて
しばらくウーンと悩んで
ふりしぼるような声で
「やむをえん」とつぶやき
森へ向かった

森に着いた王様は皆を集めて話し始めた
「よく聞くがいい
この様な箱をいくつも重ねて塔にするのだ
日没までに間に合わんといかん
今夜星の鳥を捕まえるのでな
ただちに取りかかってくれたまえ」

ライオンは低い声で言った
「手伝うのは構わないぜ
だけどあんたは俺達の王様じゃない
王様気分に付き合わされるのはごめんだな
まずその冠を取ったらどうだ」
「そうだそうだ」と
皆もさわいだ

王様はかんかんに怒った
「なにをばかな
どうしてこの冠を取る事が出来ようか
この王様自らがわざわざ出向いて来たのだから
さっさと仕事にとりかかれ」
皆もかんかんに怒った
「それがものを頼む態度か」
呆れて笑う声もあった
「りっぱな冠だなぁ
ずいぶん重そうだけど
せいぜい落っことすなよ」
「ええい もう頼まん」
王様はひとりでやる事にした

「あいつらときたら
せっかく誘ってやったのにまったくわからない連中だ
かまわん もともとひとりでやるつもりだったのだ」
作業は着々と進んでいく
計算通りだ
だんだん暗くなるにつれて
だんだん見えてきた星の鳥
昨日よりも少しだけ近く見える
「やや 出たな星の鳥め
前よりもこっちに近づいておる
今夜この王様が捕まえてみせるぞ」
その時ハシゴがメキメキと鳴いた

王様はとても高い所から
地面に叩きつけられた
体が聞いた事のない
音をたてる
王様は倒れたまま
ピクリとも動かなかった

でも 生きていた
「おのれ 星の鳥」

次の日王様は
ベランダに罠をしかけ
夜になるのを待った
これしかないと思った

朝になっていた
「おのれ 星の鳥」

次の日王様は
普段の王様とは比べものにならないほどこわばった顔をして
お城の近くの丘の上で夜を待っていた
傷付ける事だけはしたくなかったが
もはや これしかないと思った
王様の弓の腕前は
お城の中で一番なのだ
今日はたっぷり昼寝もしたから大丈夫
「さぁ来るがいい星の鳥」

気付くと星の鳥は王様の真上を飛んでいた
王様は垂直に弓矢を構えしっかりと狙いをつける
ためらいは無い
びゅん
王様の放った矢は月まで届くかというほど
高く速く真っすぐ飛んでいく
ぐんぐん飛んでいく

星の鳥は一体どれほどの高さにいるというのだろうか
王様の矢は本当に高くまで飛び上がったが
健闘むなしく
とうとう下を向いてしまった

そして落ちてきた
「おのれ 星の鳥」

こうなってしまった以上
もはや これしかないと思った
王様が自ら大砲の弾になって空高く飛び上がり
星の鳥を手掴みで捕まえてやろうというのだ
命がけの作戦である
王様の覚悟は本物だ
だんだん暗くなるにつれて
だんだん大きくなる心臓の音
「さぁ来るがいい星の鳥」

朝になっていた
「おのれ 星の鳥」

王様は毎日
朝から晩まで走りまわっていた
雨だろうと嵐だろうとおかまいなしで
星の鳥を追いかけた
「見ろよ 王様だ」
「かわいそうに とうとうおかしくなってしまったんだな」
王様はどこからどう見たっておかしかった
星の鳥はみんなには見えていなかった

いつしか王様は
星の鳥に自分を重ねていた
王様はひとりぼっち
星の鳥もひとりぼっち
じゃあ王様の胸のあたりがぎゅうっとなる時は
星の鳥もそうなのだろうか
いつしか王様は星の鳥に
何度も語りかけるようになっていた
「王様はここにいるぞ
お前の事を知っている者がここにいるのだぞ
お前はひとりじゃないのだぞ」

いつしか王様は不安になっていた
「あんなに高く飛んでいては
王様がいくら王様であろうと
砂つぶほどにしか見えないかもしれん」
いつしか王様は
星の鳥に王様の事を気付いて欲しいと
思うようになっていた

星の鳥は毎晩少しずつ
遠ざかっていった

100冊、200冊とほんの壁が築かれていく
王様は再び書庫へこもっていた
王様はとても集中していたので
ケーキを食べるのも忘れていた
そんな王様を家来達は黙って見守っていた
時間と本だけが重なっていった

ある本に興味深い絵が載せられていた
砂浜に大きく「助けて」と書いてある絵だった
空へのメッセージだ
これしかないと思った

王様は山から山のような土を
掘り出しては運び掘り出しては運んだ
運び出された土は一ヶ所にまとめられ
そこでまた小さな山へと生まれ変わり
だんだんと大きくなっていった

「星の鳥へ伝えるのだ
お前の事を知っていいる者がここにいるのだぞ」
王様の山はどんどん大きくなったが
まだまだ王様の気持ちの方が大きかった

「また王様が何かやっているぞ」
皆が集まってきた
一体王様は何をしているのか誰もわからなかったが
必死で走りまわってる王様の姿を
誰も馬鹿にしたりは出来なかった
ずっと黙って
ずっと見ていた

「こりゃ しんどい」
さすがの王様もすっかり疲れてお尻を付いた
体中泥だらけの汗まみれで
足には靴ずれ手にはマメ
もう何日もお城に帰っていない
ケーキも食べていない
それでも諦められなかった

空を見ると星の鳥はずいぶん遠ざかっていた
「あぁ 待ってくれ
王様はここにいるのに」
それから王様は
遠まきに見ている皆に気がついた
王様はむくりと起き上がると
少しの間静かに皆と見つめ合った

王様は冠をはずした

そして地面に手をついて目を真っ赤にして声を震わせた
「皆 お願いだ
どうしても星の鳥に伝えたい事があるのだ
力を貸してくれ」
皆びっくりして何も言えなかった

何も言わない皆を見て
王様は急に走り出した
そしてすぐに大きな箱を持って
よろよろと戻ってきた

「皆 お願いだ
王様の宝物全部あげるから
王様の事王様って思わなくていいから
皆 お願いだ」
王様は箱を開けて
中のものを取り出し始めた

「これは東の森で見つけた珍しい木の実だ」
「ドングリじゃないか」と子リスが言った
「これは北の山で見つけた竜のウロコだ お前にやろう」
「くれるもなにも僕の羽根だよ」とクジャクが言った
「これは西の川原で見つけた黒水晶の破片だ
何か特別な魔法がかかっているに違いない」
「ただの石だ」と子ザルが言った
「これは我がお城に古くから伝わる伝説の盾だ」
どう見た所でナベのフタだった
他にも王様はたくさんの宝物を取り出して見せたが
そのどれもがビー玉だのヘビのぬけがらだの貝がらだのといった
とても宝物とは呼べない代物ばかりだった

「僕は前に王様が探しに行くと言っていた
溶けない雪だるまが見たかったのに」
「私は虹色のバラが見たかったわ」
「そんなステキなものはどこにもないじゃないか」
「あんたうそつきだ」
「うそつきの王様だ」
子ザルはもらった石を王様にぶつけた
「違う 探しに行ったけどなかったのだ
本に書いてあるものは
なぜかいつも見つからないのだ
でも他にこんなにステキな宝物があるではないか」
「どこがステキだって言うんだ
こんなものはどこにだって落ちている
この箱にはガラクタしか入っていないよ」
「なぜだ
こんなにきれいではないか」

「星の鳥っていうのも見た事ないけど
それもどうせでたらめなんだろ
あんたうそつきの王様だ」
「星の鳥はいるのだ
どうかそれだけでも信じてくれ」
王様はとうとう泣きだしてしまった
王様は本当にドングリを珍しいと思って拾ってきた
王様は本当にただの石を黒水晶だと思って拾ってきた
皆がガラクタだと言ったものを王様は本当に宝物だと思って集めてきた
でも泣いたのはそのせいじゃない
王様は再び声を震わせた
「皆 お願いだ 力を貸してくれ
星の鳥が行ってしまう」
皆は再び何も言えなくなった
今度はびっくりしたせいじゃない

年老いたオランウータンが静かに言った
「どれもこれも素晴らしい宝だね
ありがたく頂いて皆で分けさせてもらうよ」
ライオンが言った
「我々は何を手伝えばいい
王様 教えてくれ」
王様の目からは
もっとたくさんの涙がこぼれだした

その夜王様は数日ぶりにお風呂に入りベッドで寝た
王様は寝ないで働くと言い張ったのだが
王様が疲れきっている事を皆は知っていたので
無理矢理お城に連れてきたのだ
眠る前
王様は本を読まなかった
本を読まなくても胸のあたりが
きゅうっとならずに眠れたのは
初めてだった

王様と皆は作業を始めた
土を掘るのが得意な者
運ぶのが得意な者
大きな体を押しつけて土を固めるのが得意な者
得意な事が何もない者
全員が全力で働いた

最初に王様は皆に
自分が土で作ろうとしているものの絵を見せた
大きければ大きいほど良いと伝えた

「王様これは何の絵だい
とても不思議な形だね」
「これは皆が見えないと言っている
星の鳥である」
王様は土で
大きな星の鳥を作ろうとしていた
「これが星の鳥なんだね
なんだかすごく見たくなってきたよ」
「僕も」「私も」
皆が星の鳥を見たくなった
だから全員が全力で働いた

雨の日も風の日も雪の日も作業は続く
「ここからあの雲のあたりまで高くしよう」
「それがいい そうしよう」
「ここからあの海のあたりまで大きくしよう」
「それがいい そうしよう」      

王様も全力で働いた
お酒落だけど動きにくいマントや靴は脱ぎ
その代わりにいつ雨や雪が降ってもいいように
暖かいマフラーをして
丈夫な長靴を履いて
泥だらけになって働いた
王様は皆とすっかり仲良くなった

何日も何ヶ月も何年も作業は続いた

星の鳥はもうずっと前の夜に
遠くの空へと消えていった
王様はその事に気づいていない
王様の頭の中は
掘って運んで固める事でいっぱいだったから

ある夜王様は
雲より高い空にふわふわと浮いていた
何か光るものが
こっちに向かって飛んでくる
「はて
あれはなんだったか」
王様は手を伸ばした
「思い出した 星の鳥だ」
「もっとそばに来てくれ」
「もう少し」
「あとちょっとで手が届くぞ」

そこで目が覚めて夢だと知った
「思い出した 星の鳥だ」
王様はそう呟き
ふふっと笑うと
一回あくびをして
また寝た

朝が来ても
王様はもう動かなかった
いつだったか
箱の塔から落ちた時と違って
本当にもう二度と
動かなかった

色々相談して
皆は王様を王様の宝箱に入れた
かなりきゅうくつそうだったけど
最後まで王様の側にいた
二人の家来も一緒に入れた

そしてその宝箱を作りかけの星の鳥のところまで運び
真ん中の穴になっている所のその真ん中に埋めた
誰も泣かなかった
星の鳥が完成するまで
王様は皆と一緒に生きている
いつか王様がくれた
ただの石や自分の羽根が
それぞれにとって
本当の宝物になった

皆次々と作業へ戻っていった
最後まで王様の側にいたのはライオンだった
「完成したらまた来るよ
王様に用があるからね」
そう言ってライオンも作業に戻った
真上の空には
28年ぶりに星の鳥が来ていたけれど
やっぱり誰にも見えなかった

それから何年も何十年も何百年も作業は続いた
皆の子供の子供の
そのまた子供のずっとあとの子供も作業を続けた
そうする事が当たり前だと思っていた
何を作っているのか
何のためのものなのか
もう とっくに誰も知らない
遠い昔から引き継がれてきた
一枚の不思議な絵だけを頼りに
ひたすら作業は続いた

ある夜
荷車1杯分の土が固められた時
空から全体のバランスを見る係をしていたカラスが
今まで生きてきた中で
一番大きな声で叫んだ
「完成だ皆
あの絵と全く違わないぞ」

本当に長い年月をかけて
本当に巨大な何かが完成した
一体僕達は何を完成させたんだろう
これを誰かに 見てもらいたい
これを誰かに 知ってもらいたい
何かを誰かに 伝えたい
誰もが不思議な気持ちになった
胸のあたりがぎゅうっとなった
オオカミが遠ぼえした
それに続いて皆が鳴いた

ライオンは皆の声を
皆のいる所から少し離れた所にある
知らない誰かのお墓の前で一人で聞いた
ライオンの一族には
皆とは別にもうひとつ
古くから伝えられてきた事があった

これはあんたのだろう
返しに来たよ

ライオンもまた
詳しい事は全く知らなかったが
なぜか胸のあたりがぎゅうっとなった
空っぽで満腹のような
わけのわからない気持ちで
このままどこかへ
行ってしまおうと思った
「泣いているの?」
誰もいないはずの
背後から声がした

お墓の横にネコがいた
ライオンは心臓が止まるほどびっくりしたが
出来るだけ強そうな声で
「泣いてなどいない」と答えた
「ごめんなさい
そんなふうに見えたんだ」
ネコはびくびくしながら言った

ライオンは問いかけた
「お前はなんだ
いつからそこにいた」
ネコは少し考えて
「わかんない」と答えた
「わかんないわけないだろう」
ライオンはさらに問いかけた
「ごめんなさい」
ネコはすっかり黙ってしまった
こんな小さなネコを
こんな短時間に
2回もあやまらせてしまったライオンは
少々バツが悪くなり
何か声をかけようと口を開きかけた時
急にネコが叫んだ
「見て!」

「なんだろうあれ
なにか飛んでいるよ」
「どこだ何も見えないぞ」
「見えないわけないよ
あんなに強く光ってるのに
すごくさみしそうだよ」
「なんだ月の事か」
「どこを見ているのさ
月じゃないよ
なんだっけ
僕はあれを知っているぞ
なんだっけ
ええと そうだ」
ネコは走り出した
「おい どこへいくんだ」 


思い出した 星の鳥だ