相も変わらず、色々な意味で話題沸騰中の作品。

『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』

千秋楽を観劇して参りました。





何より、豪華キャスト陣!

中村勘九郎、寺島しのぶ、豊川悦司

六平直政、風間杜夫、金守珍、水嶋カンナ 敬称略)


あ、色んな意味で話題沸騰中というのは、テント演劇としての在り方や唐十郎作品を上演する意義などについて。

また、演出のやり方等々。新宿梁山泊の作品、金さんの演出は何かと話題になることが多い印象です。と、いうことで。


が、しかし。

今まで多くなくとも新宿梁山泊での唐作品の上演を見てきて、2021年の『泥人魚』、昨年のミラノ座『少女都市からの呼び声』を見てきて、今回はかなりシャープに、恐らく唐十郎戯曲をあまり変えずに上演したのではないか、と思いました。


金さんの演出は、「唐十郎作品を現代の歌舞伎に」

「アングラを伝承するために」「唐十郎作品をエンタテインメントとして」という意志が毎回強く伝わってきます。

今回は特に、「唐十郎作品を現代歌舞伎に」「アングラを伝承するために」という意志が色濃く見えた気がします。


それは何より、中村勘九郎さん、寺島しのぶさん、豊川悦司さん、六平直政さん、風間杜夫さんが揃ったと言うこともあり、また、唐さんが5月4日に亡くなられた事に大きく起因するのだろうと思いました。


唐十郎ファンの方が、状況劇場、劇団唐組、劇団唐ゼミを見てきた方が、或いは従事してきた方がどう思っているのか、も、大事であるが、僕は今回、だいぶ満足して観劇させて頂きました。





さて、舞台自体の感想。

『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』

は、1976年に劇団状況劇場が初演を行っており、その後、1984年に再演、劇団唐組が2022年に再演、他、静岡県の「SPAC」にて上演、などなど、幾回かは色々な演出家さんの手によって上演されてきた作品です。

元々、唐さんの中期作品(超絶盛期)にしては珍しい1幕ものの2時間で収まるような物語。


まず、”おちょこ”を演じた勘九郎さん。

なんて透明で純な声をしているんだろう。

歌舞伎俳優さんをテント演劇で見るとこんな感覚なのか!!

いや、というか本当に軽そうに動いている……

勘九郎さん、僕と同じ生き物だよね??人間ですよね?俳優さんですよね??

あ、俳優さんだからこんなに動くのか。

最後の最後、檜垣が死んでしまった時の声まであまりに純なので、それが本当にこの物語の切なさを際立たせていました。


そして”元マネージャー檜垣”を演じた豊川さん。……豊川さんってなんか違和感ありますね。ご愛敬ということで、トヨエツさんで。

トヨエツさんがタバコを吹かす姿はなんとも堪らない色気。大人のかっこよさが沁みました。

檜垣はカナにも某人気歌手にもある意味おちょこにも色々振り回されっぱなしな役。だけれど、芯があって強い。それが逆に人間としての一番弱いところなのかもしれない。。。

一幕は役柄的に何となくひょろっとした印象だったけれど、二幕からは超絶怒涛で台詞を、場面を一気にモノにしていき、最後の最後、死ぬその瞬間まで凄まじかった。


そしてそして、万年少女の”石川カナ”を演じた寺島しのぶさん。

なにあの色気。怖い。こわい、こわい。んで、強い。最後の最後まで色んな人間を振り回して犬箱に閉じ込められちゃう。

可愛くて身勝手で卑しくて寂しくて悲しい女。

しのぶさんの体現は見事だったと感じました。


物語は、

某人気歌手とカナが婚姻関係にあり、子供を身ごもった、だけれどもその男に棄てられた。

……というカナのあまりにも身勝手で残酷な妄想から物語はどんどん飛躍していくのだけれど。

そんな彼女は傘屋のおちょこに傘修理を依頼していて、でももうこの町に居られないと思い、最後に傘を受け取っておちょこに別れを告げに行くが……傘屋に居候中の檜垣と偶然出会ってしまって、物語は加速する。

彼女は当然世間から愛想尽かしを喰らい、例の騒動から2年間、やっとで生きてきたけど、その先に待っていたのは、保健所員によって、彼女をもっと世間から排除しようとする動き……


という感じ。なんか端折りすぎて訳分からんけど。

でも、まぁ、うん。その間にもそれぞれ、そこに行き着くまでの経緯だったり、背景が色々あるわけだけど。


とにかく、今の時代にぴったしだよね、唐さんの作品ってって改めて思えた1作でした。

スキャンダルだのなんだの、社会的人間がなんだの、人を好きになるがなんだの……

唐さんはこれを2024年に上演する為に作ったんじゃないかって思ってしまうほど、本当に見事な作品でした。


いつか、唐組の久保井さんが仰っていた、「唐十郎の作品がようやく時代に追いついた」という言葉が、唐作品を拝見する度に思い出されます。


っていうか久しぶりに自分も客席で大号泣かましました。

多分両隣のご婦人方は相当引いていたと思います。


唐さんの作品は、「訳が分からい面白さ」ではなく、もっと、「訳が分かると最高に面白い」というふうに、世間に広がっていって欲しいなぁと思います。


これからもきっと色んな演出家さん、団体さん、プロデュース企画が唐さんの作品を上演していくはず。

唐さんの物語はこれからもっと豊かになっていくであろう世間に、人間にとっての本当の豊かさを問いかけてくれるだろうと、そう信じています。






P.S

こんなん見たらやりたくなるでしょ、唐十郎作品。