ミニスカート人気が復活

2015年頃から、スカート丈は「ミディ丈(ひざが隠れる丈)」や「ミモレ丈(ふくらはぎ丈)」が主流となり、マキシ丈(くるぶし丈)を着用する人も珍しくなくなりました。しかし、ロング丈が流行するスカート丈にも、変化の兆しが見え始めています。昨年あたりから、女子大生など20歳前後の世代を中心に、膝上丈のミニスカートやショートパンツを着用する人が見られるようになってきました。

よく聞く俗説に「景気がよいとミニスカートが流行る」というものがあります。ミニスカートの流行は、60年代の高度経済成長期、80年代後半のバブル景気と重なるので、当時を知る人たちは、ミニスカートと好景気を関連づけたくなるのかもしれません。

 

 

Z世代から支持を集めるNiziU photo by gettyimages

© 現代ビジネス Z世代から支持を集めるNiziU photo by gettyimages

 

90年代以降もミニスカートの流行はあるものの、「平成不況」「失われた30年」と呼ばれるように、日本では世界でも類を見ない長期経済低迷が続いています。景気に大きな変化はなくても、ファッション業界は世相を読み、次の流行を見極めながら、より戦略的に開発販売を行うようになっています。

アフターコロナに向けて、徐々に開放感が広がりつつある今、社会のムードの変化をいち早くキャッチした若い世代を中心に、ミニスカートを着用する人が増えています。

美空ひばりもミニスカートを着用

現代のミニスカートは、1959年、ロンドンのストリートファッションを代表するデザイナーのひとりマリー・クヮントが販売したのが原点だといわれます。しかし、マリー・クヮントがミニスカートの創始者かというと、そういうわけでもないようです。

当時、一部の女性たちがすでにミニスカートを着用しており、マリー・クヮントはいち早く既製服を開発し、販売しました。ストリートファッションが勢いを増し、既製服が普及していく中で、マリー・クヮントのミニスカートは、ストリートファッションの象徴的なアイテムとなったわけです。

 

 

マリー・クヮント photo by gettyimages

© 現代ビジネス マリー・クヮント photo by gettyimages

 

フランスのファッションデザイナー、アンドレ・クレージュは、1964年、パリ・コレクションで最初にミニスカートを発表しました。クレージュが発表したミニスカートはひざ上5cm丈、マリー・クヮントのミニスカートよりも長めの丈でした。パリコレというハイファッションの舞台にミニスカートが登場したことをひとつのきっかけに、ハイファッションの最先端を紹介する雑誌もミニスカートを取り上げるようになり、世界的な流行となっていきます。

 

 

アンドレ・クレージュ photo by gettyimages

© 現代ビジネス アンドレ・クレージュ photo by gettyimages

 

 

ツイッギー photo by gettyimages

© 現代ビジネス ツイッギー photo by gettyimages

 

ミニスカートといえば、1967年に来日したイギリスのファッションモデル、ツイッギーが象徴的ですが、60年代の日本を代表するスターたち、たとえば、美空ひばり・江利チエミ・雪村いづみの「三人娘」、中尾ミエ・伊東ゆかり・園まりの「スパーク3人娘」らもミニスカートを着用し、ミニスカートへの憧れと共感を広めるのに一役買いました。

「お立ち台ギャル」が注目

ミニスカートの魅力は、若々しさや活動性の高さです。70年代以降の女性アイドルの衣装は、一部の例外はあるものの、ミニスカートは定番のスタイルとなっていきます。アイドルを卒業すると、ミニスカートを着用する機会は少なくなっていきます。このように、ミニスカートは大衆文化・若者文化の象徴という一面が見えてきます。

80年代になると女性の社会進出が進み、女性の地位を明確に示すようなファッションが登場します。80年代のミニスカートを象徴するデザイナーは、アズディン・アライア。肩パットを何層にも重ねたパワーショルダー、官能的な女性らしさを表現したボディコンシャスなミニスカートで注目を集めました。原色が好んで用いられましたが、ミニスカートといっても、ひざが見えるくらいの丈が多く、オフィスでの着用を想定したデザインでした。日本のブランドでは、アルファキュービック、ジュンコ・シマダ、ピンキー&ダイアンなどが人気を博しました。

 

アズディン・アライア photo by gettyimages

© 現代ビジネス アズディン・アライア photo by gettyimages

 

90年代前半のジュリアナ東京では、派手なボディコンのミニスカート姿で扇子を振りながら踊る「お立ち台ギャル」が注目されました。お立ち台ギャルのスカート丈は、膝上30~35cmのマイクロミニ。ディスコは年齢制限があるので、お立ち台ギャルは成人女性だったと思われますが、90年代以降はファッション年齢が低下し、JK(女子高生)を中心としたギャル、コギャルなどのストリートファッションがトレンドをリードしていくようになります。

 

photo by gettyimages

© 現代ビジネス photo by gettyimages

 

制服のセーラー服のスカートを長くすることが「格好良い」とされた時代は終わり、90年代になると、制服を刷新する高校が増え、ブレザーが主流となっていきます。テレビなどのイメージで「JKの制服のスカート丈は短い」という印象がありますが、2020年6月、LINE株式会社が行った調査によると、東京はひざ上スカートに紺色のハイソックス、大阪はひざ下スカートにくるぶしソックスというように、都道府県によって特徴があります。JKにとって、スカート丈とソックスの組み合わせは、重要な関心事になったようです。

Y2Kファッションで注目される2000年代

90年代は、安室奈美恵のファッションを模倣した“アムラー”が登場し、ミニスカートに厚底ブーツを合わせるスタイリングが流行しました。浜崎あゆみもファッションアイコンとして注目され、クレージュのミニワンピース、ヒョウ柄、へそ出しなどの流行を生み出しました。スカート丈はひざ上15〜30cmと短くなりましたが、エンジニアブーツ、乗馬ブーツ、ニーハイブーツ、ストレッチブーツなど、ブーツのバリエーションが広がり、ルーズソックス、ハイソックスなども、JKたちがこだわりを見せる重要なファッションアイテムとなりました。

 

浜崎あゆみ photo by gettyimages

© 現代ビジネス 浜崎あゆみ photo by gettyimages

 

90年代は、日本の歌姫たちの活躍がファッションにも影響を与えるようになりましたが、Y2Kファッションで注目される2000年代は、海外セレブのファッションが注目されるようになり、日本の歌姫たち影響力は低下しました。また、90年代以降、30代、40代を対象としたファッション誌が創刊され、「美魔女ブーム」へと発展しました。いつの時代も若者のファッションが注目されますが、ファッションは若者のためのものではなく、より幅広い世代の関心事となってきています。

 

大人のスカート丈の指針となるものとして、航空会社のキャビンアテンダントの制服のスカート丈を見ていきましょう。JALのCAの制服でひざ上丈が採用されたのは、4代目(1967年3月〜1970年6月)、5代目(1970年7月〜1977年9月)。ANAのCAの制服でひざ上丈が採用されたのは、3代目(1966年〜1970年)、4代目(1970年〜1974年)となっており、60年代のミニスカートの流行の影響が見られます。しかし、80年代以降の制服には、ひざ上丈は採用されていません。CAの業務内容やイメージを考慮すると、ひざ上丈は適当でないという判断が働いたのかもしれません。

 

最後に、ファストファッションを代表するZARAの現在のスカート丈を見てみましょう。ミニスカート、ミモレ丈スカート、マキシ丈スカートがラインナップされていますが、オフィスでの着用を想定したデザインは、ミモレ丈のみとなっています。ミニスカートは、カジュアルもしくはパーティでの着用を想定したデザインに限定されます。ミニスカートは、仕事用の服ではないようです。

ミニスカートは、女性の身体の活動性を高めると同時に、女性であることを意識させるアイテムでもあります。ジェンダーレスファッションが注目される時代だからこそ、ミニスカートの流行には意味があるのかもしれません。