© Sportiva 提供      敗戦後、観客席に頭を下げる明治大

 

 これほどフィジカルバトルで後手を踏むとは。これほどスクラム、接点、タックルでやられるとは。明大は14-27で帝京大に敗れ、3季ぶりの王座奪還は成らなかった。崩れたシナリオ、優勝で『明治プライド』を完全に取り戻すことはできなかった。

 9日、晴天下の東京・国立競技場。ラグビーの大学選手権決勝。ノーサイドの笛に呆然と立ち尽くす紫紺のジャージ。SH(スクラムハーフ)の飯沼蓮主将に涙はなかった。

 「帝京大学さん、強くて......。やりきったんですけど、強かったんで......。完敗だなという感じですね」

 試合後の記者会見。就任1年目の神鳥裕之監督も、「ほんとうに完敗だったと思います」と漏らした。

「潔く負けを認めることが大事だなと。ただ、4年生を中心にほんと、よくやってくれました。僕は誇りに思います」

 試合前、国立競技場から徒歩5分の宿泊ホテルの会議室で最後のミーティングが開かれた。そこで試合メンバーは、スタッフが制作したビデオ映像を見た。

 これまでの試合のシーン、1年間のつらい練習風景、そして試合に出られない4年生の熱いメッセージがつづく。涙ぐむメンバーもいたそうだ。4年生HO(フッカー)の田森海音はこう、思い出す。

「グラウンドに出て戦えるのは23人だけだということを再確認しました。春から、しんどい思いをしてきたシーンなどを見て、僕らはこれだけ頑張ってきたのだから、あとは幸せを感じながら、試合に出られない仲間のことを思いながら、グラウンドで見せるだけだという気持ちになりました」

【スクラムで反則をとられて消極的に】

 この日のゲームテーマは、今年度のチームスローガンと同じだった。『明治プライド』。昨年の大学選手権準決勝で天理大に完敗してから1年、日々の鍛錬は明大のプライドを取り戻すためにあった。

 かつて明大といえば、「重戦車FW(フォワード)」、そして「スクラム」「前へ」だった。だが、今年度は例年に比べFWのパワー不足は否めない。だから、バックスの展開力を強化し、「クイック・テンポ」を重視してきた。

 もっとも、スタイルは変われど、明大のプライドの象徴はやはりスクラムである。

 前半9分頃のファーストスクラムは、敵陣中盤の帝京ボールだった。ガツンと組み込む。互いの押しが拮抗し、右回り気味に崩れた。

 レフェリーに明大のコラプシング(故意に崩す行為)の反則をとられた。田森の述懐。

「めちゃくちゃ自分たちのなかでは自分たちのやってきたことが出て、いい形で組めたと思ったんです。でも、ペナルティーをとられてしまった。あれで、どこかで自信をなくしてしまったわけじゃないですけど、ちょっと消極的になる部分があったんです」

 2本目のスクラムは、前半20分頃の自陣の22メートルラインあたりだった。明大ボール。相手のフリーキックの反則をもらった。もういっちょ、スクラムを選択した。ダイレクトフッキングで素早くボールをかき出した。

 前半30分頃の4本目のスクラムでは、アーリーエンゲージ(レフェリーの笛より早く組み込む行為)の反則(フリーキック)をとられ、相手はスクラムを選択、そのスクラムでコラプシングの反則をとられた。帝京大の右PR(プロップ)細木康太郎主将の雄たけびを間近で見る羽目に。

 傍目にはどちらのチームが崩したかわからないスクラムだったけれど、田森は小声で言った。言葉に悔しさがにじむ。

「スクラムは押しているほうが正義ですから」

【痛かった前半終了間際のインターセプト】

 接点でも相手に食い込まれているから、明大のラインはどうしてもプレッシャーを受けてしまう。苦し紛れのパスが多くなる。ハンドリングも乱れた。

 勝負のアヤでいえば、前半終了間際の相手に許したトライだった。明大はラインアウトから左オープンに回した。CTB(センター)廣瀬雄也がひとり飛ばしのロングパスをFB(フルバック)雲山弘貴につなごうとした瞬間だった。このパスを帝京大WTB(ウイング)の白國亮大にインターセプトされた。

 痛恨の失トライだった。0-20とされた。誤算を聞けば、神鳥監督は「前半、失点が多かったこと」と応えた。

「結果論ですけど、届かなかった。とくに前半最後のインターセプトでとられたトライが、正直、痛かったなというのはあります」

 東京五輪に7人制日本代表で出場したエースWTBの石田吉平は「ディフェンスの壁が厚かった」と声を落とした。

「明治としては打開できるオプションがなくて、結構、テンパっちゃって、いつものプレーができなかったのが今日の敗因だと思います。予想以上に(相手のプレッシャーが)すごくて、そこでひいちゃったところがいけなかったのかなと思います」

 それでも、明大は後半、意地を見せた。田森らが2本のトライを返した。だが、5本の相手ボールスクラムのうち、3本のコラプシングの反則をとられた。

【新しい明治の色は出せた】

 神鳥監督によると、今年度のチームにはスター選手はいなかった。でも、飯沼主将を中心とした結束力はあった。新型コロナ禍も学生が自ら工夫して対策を練り、学生主体で「泥臭く、ひたむきに」猛練習に取り組んできた。

 合言葉が『凡事徹底』。グラウンドでも、私生活でも、当たり前のことを誰よりも徹底してきた。いわば規律、勤勉さである。練習は熾烈を極め、夏合宿での走り込みの量は昨年の倍ほどだった。

 飯沼主将は「例年に比べて、今年の代は能力が低かったんですけど」と言った。

「春から、同じ方向を向いて、ひたむきに、シンプルなことをやり続けて、ここまできました。4年間で一番、きつい練習をしてきました。新しい明治のひたむきさ、色は見せられたのかなと思います」

 関東対抗戦では帝京大、早大に敗れ、3位に沈んだ。そこからチームは結束し、大学選手権で勝ち上がり、準優勝となった。その過程の頑張りは、3年生以下には引き継がれることになるだろう。

 3年生の石田は言葉に力を込めた。

「来年こそ、頂点を極めて、優勝をつかみとりたい」

 明治プライドは、優勝しないと完全には取り戻せない。この悔恨と屈辱をどう、苦闘と努力の先の栄光へ結ぶのか。石田ら3年生以下は、電光掲示板のスコアと真っ赤なジャージの帝京大の喜ぶ姿をしっかりと目に焼きつけたそうだ。