大阪都構想 | 2024年 京都産業大学ラグビー部を応援しょう…。

    「大きすぎる大阪市」の運営手法から、大阪都構想の意義を改めて考える

     

    岸 博幸

     

     

    © ダイヤモンド・オンライン 提供 Photo:PIXTA

     

     大阪都構想の是非を問う住民投票が11月1日(日曜日)と間近に迫ったせいか、インターネット上では都構想のデメリットを声高に叫ぶ反対論ばかりが目立つように見受けられます。しかし、反対論者が主張するように、本当に都構想はデメリットの方が多くて否決されるべきなのでしょうか。

    政令指定都市とはそもそも中途半端な存在だ

     私は、むしろ大阪の将来を考えると都構想は実現されるべきと考えています。反対論の多くは、大阪市の行政サービスの細部を取り上げ、それが都構想によって悪化するからダメだと主張するか、府と市の二重行政による弊害は実際にはそんなにないのだから、都構想は意味がないと主張しているように見受けられます。

     もちろん、そうした細部に関する議論も大事ではあるのですが、その前に一度、都構想の意義という大枠に立ち返って考えることが必要だと思います。

     そもそも、大阪市は政令指定都市ですが、この政令指定都市というのは、今の地方自治制度の下では非常に中途半端な位置付けになっています。通常は、都道府県が広域にわたる行政事務を担う一方で、市町村が住民に近い行政サービスを担うという役割分担になっています。

     ところが、政令指定都市は都道府県の権限の多くを委譲され、しかもその下に設置される区の区長は選挙で選ばれるのではなく市長が任命し、区議会もないため、政令指定都市の市長が広域行政と住民に近い行政サービスの両方を担わなければならないという、ある意味で無茶な状況にあるのです。

     それでも、政令指定都市の人口の下限が50万人であることからも分かるように、人口が100万人未満ならばまだ何とかなるかもしれませんが、大阪市のように人口270万という超巨大な政令指定都市では、選挙で選ばれた市長が一人だけで広域行政ときめの細かい行政サービスの両方を担うことは、どう考えても不可能です。

     そう考えると、既に多くの識者が都道府県と政令指定都市の関係を整理することが必要だと言ってきましたが、都構想はそれに対する回答の一つと位置付けることができるのです。

    都構想は政令指定都市の問題点を改善する

     実際、都構想では、大阪府と大阪市が現在実施している行政を、広域にわたる行政事務と基礎的な行政サービスに整理した上で、前者を広域自治体である大阪都が、そして後者を基礎自治体である4つの特別区(大阪市を分割)が担うという役割分担を徹底しています。

     そして、今の大阪市の下にある区の区長は市長が任命した公務員に過ぎず区議会もありませんが、新たに創設される4つの特別区には区議会が設置され、かつ区長と区議会議員は選挙により選ばれます。

     そして、4つの特別区の人口は60万~70万人レベルと、東京23区のうち人口が多い区とほぼ同じです(下図参照)。つまり、60万~70万人規模の特別区の運営が、公選区長と公選区議会を中心に政治主導で行われることになるのです。

     これらの事実を考え合わせると、今の大阪市のように270万人を対象とした市民サービスを一人の市長が担うよりも、4つの特別区で60万~70万人を区長が担う方が、サービスは良くなると考えるべきではないでしょうか。

     もし都構想が実現したら、現在は大阪市に1カ所しかない児童相談所が4つの特別区それぞれに設置されます。保健所も、現在は大阪市に1カ所しかなく、その下の24の行政区に保健センターが設置されています。ですが、新しい4つの特別区ではそれぞれに保健所が設置され、その下に5~7の保健センターも存在することになります。

     さらに、現在は一つの教育委員会が大阪市の420の小中学校の管理を行っていますが、4つの特別区に教育委員会が設置されるため、それぞれ100校前後を管理することになるので、きめ細かい学校へのサポートが可能となります。

     ちなみに、都構想に反対する人たちの論拠の一つは、特別区の財政状況が悪化して行政サービスの水準が低下するということですが、この点についても、都構想では財政調整の仕組みを取り入れています。

     具体的には、まず都と特別区の役割分担に応じて、大阪市内の固定資産税などの税収を都20%、特別区80%の割合で分けるとしています(垂直調整)。

     現在、東京では都45%、区55%の割合であることを考えると、大阪の方が区への配分が手厚いのです。そして、4つの特別区の間で財政力格差が生じないように水平調整も行うことになっているので、これは各区の住民にとっては安心につながるのではないでしょうか。

    コロナ後の都市のあり方からも都構想は正しいのではないか?

     以上のように、地方自治の観点からは都構想を実現させた方が良いという結論になるのですが、私は、別の観点からも都構想を実現させるメリットは大きいのではないかと思っています。

     というのは、コロナ禍によって今後は、人の価値観が大きく変わる可能性があるからです。コロナによって多くの人が、自分の生死に関わるレベルでの健康の心配をするという、人生で初の体験をしました。また、在宅勤務や遠隔勤務により、これまで会社人間だった多くの人が家族の重要性、地域のコミュニティや連帯の重要性を実感したはずです。

     そうした経験をすると、当然ながら人はこれまでよりも環境問題や社会問題を重視するようになるはずです。従って、コロナ後の都市や街のあり方でもこうした観点がすごく重要になるはずです。

     しかし、地域ごとに特色や問題の所在が異なる270万都市の大阪市を1人の市長が担う今の体制では、環境問題や社会問題にきめ細やかに配慮した都市づくりや街づくりが出来るはずありません。やはり、東京23区のように60万~70万人レベルで地域を分け、選挙で選ばれた区長がその地域を担う方が、地域住民にとって望ましい環境や地域の連帯を実現できるのではないでしょうか。

     いずれにしても、ネット上を飛び交う都構想への反対論は行政サービスや制度の細部の議論ばかりで、ここで書いてきたような大枠での議論が欠如しているように見受けられます。はっきり言えば、それらの主張は反対のための反対ばかりのように見えてしまいます。

     反対派の人たちはそれで大阪市民の不安を煽りたいのでしょうが、大阪市民の皆さんには、11月1日にぜひ、大枠の議論を踏まえてよく考えた末の冷静な投票をしていただきたいと切に期待します。

     

    (慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 岸 博幸)

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