ミニスカートとキャミのセットをカバンに入れて

初めてのキャバクラへ出勤した

 

「おはよ~ございま~す」

 

「おはよう、それじゃ教えることもあるから、こっち来て」

 

クラブの経験があると伝えたら、少し安心したのか

マネージャーは、笑顔になり、いろんな話を互いにした

やたら親切で、優しい4歳年上の男だった

 

キャバクラとゆうのは、なんてチープな場所なんだろう

あたしは、クルクルあちこちを見渡した

 

「クラブとは違って楽に接してくれていいからね」

 

「は~い」

 

徐々に、女の子たちが出勤して来て待機席へと座っていく

どう見ても若い

クラブのお姉さんたちとは、えらい違いだった

 

「あ、今日からなの~?よろしくね~」

 

みんな年が近いせいか、気軽に声をかけてくる

ここの店は、24歳が最高年齢らしい

大人っぽくて、今流行の可愛い女の子が多かった

 

店が始まると、うるさい音楽が鳴り響く

ユーロビートだ、今もっとも流行ってる曲だった

 

店内は暗くなり、ミラーボールのライトがチカチカと

目障りになる

 

これも慣れれば、なんてことはないか

 

お客が、どんどん入ってくる

見た感じ、普通のサラリーマンを的にしているらしい

年齢は、20代~30代が圧倒的に多かった

 

19時~20時の間の時間帯は、通常料金よりも安く飲める

そのためか、サラリーマンの束が続々とやってくる

 

「はなちゃんか~かわいいね~若いでしょ?」

 

「うん、一応18なんだけどね~」

 

「うわ!若いなー18かーかわいいな~」

 

若い女=かわいい

そんな方程式でもあるんだろうか

前のクラブでも、あたしは何度も疑問に感じた

 

「そんなことないですよ~」

 

「だって未成年だし、知らないこともいっぱいあるでしょ」

 

やけに嬉しそうに喋る

なにも知らなそうな若い女が、どうやらうけるらしい

 

「はなさん」

 

マネージャーが席から外しに来る

 

「ごめんね~呼ばれちゃった~」

 

大体10分くらいのペースで、あちこちのテーブルに回される

名刺を配るのも、いちいち面倒な作業だが

10分間、話しただけで客の顔と名前が一致するわけもない

 

「3番テーブル場内だから戻るよ」

 

場内・・・

ああ、キャバクラは本指名と場内指名とあるんだった

ややこしいシステムだな

あたしは、小さなため息を1つ漏らす

 

「あ~はなちゃん、お帰りー呼んじゃったよ迷惑だった?」

 

「うーうーん、嬉しい~ありがとおー」

 

嬉しくないなんて言えるわけがないだろう

客は、この「嬉しかった」の一言をもらうために

わざわざ「迷惑だった?」という言葉で試してくる

 

単純というか、愚かというか

でもそれが、あたしたちの仕事である

 

初日から、あたしは3本の場内指名を取った

 

マネージャーは褒めてくれた

 

「頑張ったね、きっとね、もっと伸びるよ」

 

「ありがとう」

 

あまり嬉しくなかったけど、一応お礼は言う

 

「ねえ、はなちゃんは実家じゃないの?」

 

「なんで?」

 

「ん?住民票と現住所が違うから」

 

ああ、そうゆうことか

身分証明で住民票を渡さなければいけなかった

風営法で公的な書類が、必要らしい

 

「あーうん、ちょっとね」

 

あたしは濁して、サっと更衣室に入り帰りの支度をした

荷物も持って、服はロッカーの中へしまった

 

店長は、ずっとリストの中に居てホールに出てくることは

ほとんどなかった

あたしは、5000円の日払いの精算をした

 


 

「じゃあ、お疲れ様でーす」

 

エレベーターのボタンを押した

 

「あ、待って待って」

 

マネージャーが小走りにやってきた

 

「うまく言えないけど何かあったら言うんだよ?」

 

あたしの頭を、ポンポンとなでた

あたしは、驚いた 

そんなことまで気を使う人っているんだ

 

あたしは帰りの満員電車の中で

今日1日の流れを思い出し、いろいろ考えた

 

もしかしたら、あたし恋するかもしれない

 

 


 


 


あたしは、親戚の家の納戸のような場所を借りている

住むところがなく、補導されてばかりだった

 

あまりに見かねた親戚が、その狭い空間を提供してくれた

 

あたしの荷物なんて、たかが知れている

ボストンバッグがあれば移動できる程度の量

 

東京都から少し離れた静かな住宅街

そこで、しばらく世話になることになっている

 

実家にも私物を取りに行きたいが、もうないかもしれない

1度、取りに行ったら警察に通報されてしまった

その時に、鍵も取り上げられたので勝手に入れなくなった

 

「あんたとは考え方が違うのよ」

 

母親の口癖だった

彼女は、「母親」でなく 「女」の人生を優先する人だった

 

そこの地元で、男と小さなパブをやっていて

17歳くらいの頃、毎晩のように手伝わされたものだ

 

けど、賃金は一切発生することはなかった

 

それなら自分で働いた方がいい

 

外で働くようになってからは、実家への送金を

求められるようになった

 

未成年っていうのは、なんて無力なんだろうか・・・

あたしは、何度も思い悔やんだ

早く大人になりたい、早くひとり立ちしたい

 

なにをするにも保護者が必要な未成年

世間にも、大人にも逆らえないのが未成年の現状

 

今は、時代が時代名だけに18歳以上であれば

水商売でも寮にも入れる制度が、できてきたが

当時は、何でも保護者の認可が必要だった

 

1日も早く、成人になりたかった

 

世間で言う「大人」になりたかった

 



 

 


 

渋谷の街に着き、ファーストフードの店へ入った

お金がなかったので、ジュースのSサイズとポテトのSサイズ

これが今日の、あたしの夕飯のなる

 

乾杯ワークを探し、必死に見る

思ったよりも沢山あることに驚いた

 

「へ~キャバクラって、いっぱいあんじゃん」

 

余裕だなっと思いながら、ポテトを口に入れニヤける

あたしは適当に、ここから近いと思われるキャバクラへ電話した

 

「面接、お願いしたいんですけど」

 

「はい、構いませんよ」

 

「あの・・・今、近くにいるんですが今からって無理ですか?」

 

「・・・いいですよ、場所はわかりますか?」

 

「はい、わかると思うので行きます」

 

「お待ちしてます、わからなくなったら電話ください」

 

電話を切った

 

ふうー緊張した

初めてのキャバクラ、一体どんな所なんだろう

あたしに勤まるのかわからないけれど、お金が必要な以上仕方ない

 

あたしは、色々なことを考えながら一服しながら落ち着いた

 

さて行きますか!

だめだったら次を探せばいいやー、そんなノリで店へ向かった

 

キャバクラの場所はすぐにわかった

道端に、これでもか!と言わんばかりの派手な看板

 

ここね・・・

 

今まで働いていたクラブのイメージと違って

ピンクの看板に、女の子が何人か笑っている

その周りには、小さい豆電球が流れ星のように飾ってある

イメージとしたらキャバレーな感じだった

 

あたしは、そのままエレベーターに乗り込んだ

 

エレベーターがあくと、黒服が立って待っていた

 

「あ・・・面接の方ですね?どうぞ」

 

「あ・・・はい」

 

あたしは頷いて後をついて行く

 

うるさい、賑やかな音楽と暗い照明、何やらミラーボールが回っている

中からは若い女たちの笑い声


あたしは奥にある1室に通された

 

「じゃ、これ書いてもらえます?」

 

渡されたのは簡易履歴書のようなもの

名前や現住所、連絡先、ただ違っていたのは学歴欄がないことだった

 

あたしは一通り書き終えて

 

「できました」

 

と言って黒服に渡した

 

「僕、こうゆう者です」

 

その黒服は、丁寧に名刺を渡してきた

マネージャー・・・月山、まるで芸名のような名前だった

 

色々な内容を聞いた

服装はミニスカートとヒールであれば基本は自由で

日払いは5000円まで、週ごとのシフト制、罰金などの話

 

キャバクラと言えど厳しいもんなのね・・・

 

「えっと・・・18歳ですか?もっと上だと思った!」

 

月山は驚いたように言った

 

「あたし老けて見られるんですよねぇ」

 

それは言われ慣れてるので、笑って返した

 

「大人っぽいのはいいことだと思いますよ

 で、いつから出勤できそう?」

 

あ、あたし合格したってことね?

一瞬、なんだか話の流れがわからなくなっていた

 

「じゃー、明日のオープンから23時で」

 

「あー電車の都合があるんだね、OKわかった」

 

月山は快諾してくれた

 

「明日からお願いしまーす」

 

頭を下げて、あたしはエレベーターに乗り込んだ

 

なんだ、思ったより楽勝じゃん

 

なんてことはない、若くて可愛ければキャバクラなんて所は

簡単んなんだな

 

あたしの足取りは軽くなっていた

 

「さーて明日からキャバクラだあー」

 

知らない世界を除いて見ることは何よりもスリルがあっていい

あたしは楽しみで仕方がなかった

 


 


 


 


 

 

18歳の夏

 

あたしは知らぬ間に、新宿歌舞伎町にいた

 

ここは、若い女にとってパラダイスとも言える空間

あたしは、ここから新しい人生を始めることになった

 

居場所のなかった、あたしにとっては有難い空間だった

 

高級クラブへ入店

クラブのお姉さんというのは、プライドも高く華やかで怖い

18歳の小娘が、とてもついていけるような場所ではない

 

客の取り合い、若い女に興味を示す男もいよう

指名が変われば、嫌がらせも受ける

 

ロッカーからドレスはなくなり、挨拶もしてもらえず

どんどん自分の居場所が、なくなってきた

 

「あなたみたいな小娘が来るような店じゃないのよ」

 

お姉さんたちの圧力が、日に日に増して厳しくなってくる

耐えられず社長や店長に、相談をした

 

「そうだね、若いからキャバクラへ行ってみるのもいいかもね」

 

優しい言葉ではあるが、要するに、あたしの居るような店ではない

そう拒否された気がした

 

あたしはクラブを1ヶ月足らずで辞めた

 

よく意味のわからないキャバクラへの道へ進むことを決意した

 

本来なら、まだ同級生たちは制服を着ている高校生

あたしは、年齢こそ18歳だが、高校へは行っていない

 

とにかく働くしかないんだ

あたしは、ここで新しい人生を始めなければならないんだ

 

泣き言なんて言っていられない

そう言い聞かせながら、求人誌を片手に渋谷へ行った 


 


 


 

 

いつも必死だった

 

目に見えないものに、いつも必死だった

 

どうしていいか解らない目先に、いつも必死で走ってた

 

いつも心に穴が空いていた

 

その穴を埋めるために、必死だった

 

何でも良かったのかもしれない

 

失敗しても悔やんでも、その場その場で乗り切れれば

 

後先のことなんか考えられなかった

 

今が良ければそれでいい

 

今、存在できる場所があればいい

 

それだけのために走り続ける

 

傷つくことも傷つけられることも、平気だった

 

周りなんて関係ない

 

誰でもいいから、あたしを必要としてほしくて必死だった

 

そのために、あたしは必死に走り続けた