ある朝、目を覚ましたら世界が変わっていた。
「うわああああ!」
修一はテレビを見て思わず叫んだ。
ニュース番組では、司会者が真面目な顔で言っている。
「本日の出生率は昨日より3.2%上昇しました。公共広場での“繁殖イベント”も各地で盛況です」
画面には、カップルたちが公園の芝生で堂々と抱き合い、拍手する市民たちの姿が映っている。
「な、なんだこの世界は!」
修一はコンビニへ走った。
朝からお腹がぺこぺこだったのだ。
ところが――
コンビニの入口には黒いカーテンがかかっていた。
小さな看板がある。
「飲食行為は必ず個室をご利用ください」
「え?」
中に入ると、店員が小声で言った。
「お、お客様……食事ですか?」
まるで犯罪者を見るような目だった。
「そ、そうだけど」
店員は周囲をキョロキョロ見てから、紙袋を差し出した。
「外では絶対に開けないでください。通報されます」
修一は公園のベンチに座り、こっそり袋を開いた。
おにぎり。
我慢できず、一口かじる。
その瞬間――
「キャーーッ!!」
通行人の女性が悲鳴を上げた。
「いやらしい!!」
「昼間から食べるなんて!」
スマホで撮影する人々。
警官まで駆け寄ってきた。
「君!公共の場での摂食は禁止だ!」
「た、ただお腹が……」
警官は顔をしかめた。
「欲望のままに口を動かすなんて、恥ずかしくないのか!」
その時だった。
公園の中央で、カップルが抱き合い始めた。
周囲の人々が拍手する。
「おめでとうございます!」
「社会に貢献してますね!」
修一は呆然とした。
(なんで食べるのがダメで、そっちは拍手なんだ……)
夜、修一はアパートに戻った。
カーテンを閉め、明かりを消す。
そして震える手でコンビニの袋を開いた。
おにぎり。
カップラーメン。
ポテトチップス。
「……いただきます」
誰にも見られないように、こそこそ食べる。
その瞬間、ドアがドンドン叩かれた。
「管理人です!」
修一は凍りついた。
「匂いがするんですが……まさか食事してませんよね?」
修一は震えながら答えた。
「し、してません!」
沈黙。
やがて足音が遠ざかる。
修一はほっとして、ラーメンをすすった。
そのときテレビから声が流れた。
「政府は本日、“食欲抑制キャンペーン”を発表しました。過剰な摂食は個人主義的で反社会的な行為です」
修一は思った。
(おかしいのは……俺か?この世界か?)
そしてその夜――
夢の中で、元の世界の自分がこう言った。
「食べることが恥ずかしい世界なんて、変だろ?」
修一は目を覚ました。
朝だった。
テレビではニュースが流れている。
「本日も各地で“朝食イベント”が開催されています」
公園では家族がパンを食べている。
カップルは手をつないで歩いているだけ。
修一はコンビニでおにぎりを買い、ベンチで食べた。
誰も気にしない。
そのとき修一は思った。
(普通って……なんだろうな)
そして少し赤くなりながら、二個目のおにぎりを食べた。

おしまい😌