アルフォンスが鎧の身体を腹にぶち当てると、キメラは花を吐き出し、呆気なく気絶した。
吐き出させるのに成功はしたが、既に花は胃液で溶け始めていて、花びらが数枚残っているだけだ。

「うわぁ・・これじゃ使い物にならないよね、アルモニ・・」

「うん・・多分」

「はは・・なんてこった」

籠の中に残ったのは、たった一輪。

「どうするの?もう一度摘みに戻る?」

「でも、残っていたのは蕾だったし・・」

今日は研究が進められない。中断することで、ダメになってしまう実験もあるだろう。何年も積み重ねて来たことが、たった1日で無駄になってしまうこともあるのだ。

「教授になんて謝ればいいんだ・・」

「大丈夫だよ、パパはそんなことで2人を責めたりしないよ。あたしからも事情を説明してあげるし」

「そうは云っても、科学者が自分の思い通りに研究が進められないほど苦痛なコトはねーんだぞ」

「ボクたちのせいで教授の研究が少し遅れてしまうんだ。教授の期待に応えられないのも悔しいね」

「ふ~ん・・何かよくわかんないけど、何だか大変そうね。そんなことより、ねえ、これなーんだ」

落胆するエドワードの前に、アルモニは弁当が入っていたバスケットを開いて見せる。中には、白い花びらを開かせた花が数輪。
それを一瞥したエドワードは

「ん?何だよ、そんなのただのエーテルフラウじゃんか。今はそれどころじゃーーって、エーテルフラウ!?」

「そんな、どうして!?」

「実は、あたしも摘んでたんだ。ちょっと小さいけど。これでもないよりマシでしょ?」

「うおおおおっ!アルモニえらい!よくやった!!」

「それで~この花のお礼代わりに、2人にお願いがあるんだけど・・」

踊り出さんばかりに喜ぶ2人に、アルモニはにっこりと笑う。

「おう!この際何でも聞いてやる!!」

「本当っ!?だったらね、やっぱり錬金術教えて!!」

「え?」

エドワードとアルフォンスは驚いたが、エリスは肩を震わせて笑いを堪える。

「見るだけでも勉強になるって言ってたけど、エドの錬金術って魔法みたいでスゴすぎて全然わかんないんだもん。だから、やっぱりちゃんと習いたいの。ね、お願い!」

「よりによって、そうきたか・・」

「どうするの、兄さん?」

「どうするって、そりゃあ・・・」

「錬金術が基本は、等価交換ーーよね?」

顔を見合わせて困惑する2人に、エリスが云った。諦めて教えたらと云いたいらしい。

「はぁ・・ったく、しょうがねえなぁ。わかったよ、教えてやるよ、錬金術」

「本当に!?」

眼を輝かせるアルモニに、エドワードは頷いて見せる。

「やった、やったあ!!ありがとう、エド!!」

「そのかわり、俺の指導は厳しいぞ」

「うん!あたしがんばる!」

跳ねるように歩くアルモニを微笑ましく思いながらも

「ーー兄さん、本当にいいの?」

「だって仕方ないだろ。それに、あんなに喜んでんだ。今更ダメとも言えねーよ」

「アルは反対なの?」

「そうじゃないけど・・」

「けど?」

「教授が反対している理由が気になるんだ・・」

温厚なヴィルヘルムが強固なまでに錬金術を禁止するのは、才能の問題だけなのだろうか。どうしても、それが引っ掛かっていた。
それを告げると

「なら、あなたたちが教えることで証明したら?アルモニの才能を」

と、エリスが事も無げに云った。