「平手。そこ右曲がったらいるから気をつけて」
「はーい」
ボコッ ドカッ ボコッ
たくさん血が飛び交う、その中に紛れ私達は、拳を振りかざす。
気づいたらこの道を進んでいた。
いつからか抜け出せれなくなっていた。
あれは二年前、中学三年生の頃。
受験のストレス、親のストレス、もしくは生まれてきてから積み重なっていたストレス。何かは知らない。
全てが重なって、この状況が嫌だった。敷かれたレールの上を進む人生が嫌だった。
夜中に家を飛び出し、公園を歩き回り、不良に声をかけられれば男であれ女であれ、拳を振りかざしていた。
もともと運動神経が良かったのか、負けることなんてなかった。だからすごく快感で気持ちがよかった。
負けることのなかった私は調子に乗り、すぐに有名になった。
『調子乗っている強いヤツがいる』と。
その噂を聞いて、勝負を仕掛けてくるやつがたくさんいた。それでも私は負けることがなくてさらに調子に乗った。
そんな時に、この街で一番強いと言われているあの人が勝負を仕掛けてきた。
でも、私はそのとき一番強いと思っていたから、負けないと思っていたから、あの人をたくさんからかった。
「小さいくせに金髪って…調子乗りすぎじゃん」
その言葉が合図となり、戦いは始まった。
あの人がたくさん殴りかかってくるが、全て避ける。
そして、隙が見えた瞬間に右頬に拳を入れる…
ガシッ
隙ありと思い殴ろうとした右手を掴んでその腕をつかみ、私を投げ飛ばす。
「あっ…」
綺麗に倒れ込んだ私の上に跨り、「調子に乗ってんのはどっちだよ」そういい私を殴り続ける。
はぁっ…ぐはっ…頭がクラクラとする…視界がグラグラと歪み始め、あの人が睨みつけてる景色だけが見えてたけれど、もう何もかも見えなくなった。
目を覚ますと、知らない天井が目に入り、思わず上体を起こした。
すると、そこにいたのはさっきまで喧嘩していたあの金髪の人だった。
「あっ…起きたんだ」
「…どうして?」
「さすがにやりすぎたと思って」
なんでこんなに優しいんだ?素直にそう思った。
それから気づいたらずっと一緒にいるようになって、今ではお互いの背中を守り合う存在だ。
鈴本がいなかったら今の私はいないし、鈴本に助けられたからここまで来れている。
そんな私達はよくいろんな人から狙われる。この街の“最強タッグ”と呼ばれているから。
その“最強タッグ”っていう名前が嬉しかったりする。…なんて絶対言わないけど。
そんな今日は、鈴本の誕生日。
誕生日ぐらい、喧嘩をせずに安全に生活したいんだけどなぁ…。
まあそんな簡単にはいかないみたいだ。
喧嘩が終わり、今は鈴本の家に向かっている途中。
「鈴本おめでとう」
「んー?なにが?」
「誕生日じゃん」
「あっー!」
喧嘩をしている時とは打って変わって、日常では感情が豊かで、いつもいろいろな顔を見せてくれる。そんな鈴本が可愛くて見てて飽きない。
「ありがとう」
そう微笑む姿は、本当に喧嘩をしている“最強タッグ”の人なのか疑う。
いつもはなかなか言えない想いを、鈴本が誕生日だから言うことにした。
恥ずかしすぎて、顔が赤くなっている気がしたけれど、そんなことはどうでもいいぐらいに鈴本が大切だ。
言い終わると、鈴本も耳を赤くして、照れながら「ありがとう」と言ってくれた。
これからも鈴本の隣で、戦うのも守るのも私だけだし、鈴本の背中を守れるのも私しかいないでしょう?
いつか喧嘩をしない毎日が訪れるといいな、鈴本と2人でゆっくりした時間を過ごしたい。
終