おだやかに晴れた春の日差しが差し込む

朝の電車。

その年配の女性が乗り込んだとき

もう座席は空いていませんでした。

次の瞬間、彼女にいちばん近くの男性が

腰を浮かして「座りますか?」と

席を譲ろうとしました。

「次降りますから。ありがとう。」

女性は、次の駅で降りて行きぎわに

「ほんとうにありがとうね」と、

新しいガムの包みを

男性の手にそっと置いて

降りて行かれました。

男性は、私が電車を降りるまで

ずっとそのガムの包みを

握りしめたままでした。

ふたりの間にあたたかくともった灯は

乗り合わせた私たちの心にも

やさしい灯りをともしてくれました。

こうして偶然に出会った私たちは

ともされた灯りを受け取って

また誰かにすこしやさしくなることができるでしょう。

おだやかに、

波紋のように。

世界はやさしい幸せに満ちて行きます。