みさの小劇場ウオッチ日記



公演期間 2013/03/27(水) ~ 2013/03/31(日)
会場 新国立劇場 小劇場 THE PIT
脚演出 松枝佳紀
料金 3,150円 ~ 5,250円
サイト http://alotf.com


舞台を中央に設置した対面型観客席の素舞台。3時間10分の大作だったが、凄く短く感じた。それは、その世界にどっぷりとのめり込んで観たという証なわけだが、最澄を軸に舞台化した作品はあまり類をみない気がする。そういった意味ではやはり、作家・松枝の才気を感じた舞台だった。また作品を作るに当たって、松枝は相当な資料を読み漁り、これを噛み砕いて要らない部分をそぎ落とし脚本化したと思うのだが、自分の知識に驕ることなく、観客に解り易く説明しようという意識が感じられて好感の持てる舞台であった。


物語は最澄が仏道と出会ってから、生涯を捧げるまでを時代背景とともに描く内容で、歴史的事件の動機や理由が分かりやすく、また、それぞれの側近達の悪意や善意で国家が揺さぶられる状況の映しも見事だった。ただ、薬子を始め、歴史で学んだ人物像と異なる印象の人物もおり、かなり脚色されている印象だったけれど、舞台は虚構なので、舞台全体の物語に違和感がなければ舞台としては優秀な作品だったと思う。


今回、特に秀逸な演技力を魅せて観客を感動させたのが、最澄役の遠藤雄弥。序盤の広野役と後の最澄としての表情に相反するものがあり、後半の苦悩に満ちた表情は実に素晴らしい演技力だった。そして、最澄とともに腐敗した時代を変えようとした朝鮮の血をひくヤマベ(後の桓武天皇)役の河合龍之介。河合は有名な役者なので、今更、褒める必要はないのだが、年間を通して河合の出演する作品を、そこそこ観ているワタクシは河合の実力を知っているので安心して観られた。とにかく、この二人のタッグが素晴らしい。


ここでの空海は完璧、脇役なのだが、茶髪にちゃらんぽらんな雰囲気の空海を観てるとあまりに史実と違いすぎて違和感がありまくり、個人的には坊主になって欲しかったのだが、松枝の演出は、表面に拘らなかったらしい。しかしながら、古風なワタクシとしては、「いや、やっぱり、坊主でしょ。」と言いたい。苦笑!


そして陽射を演じた本仮屋リイナが素晴らしい。顔だけでない実力満点の女優魂だった。実はこの陽射が発するセリフで何度、泣かされたことか・・。また、アテルイを演じた反原発アイドル藤波心も、良い演技をしていた。族長としての凜とした態度にも泣かされた。一方で歴史アイドルの小日向えりは物語のナビ役として、重要なポジションだったが、滑舌が悪く、嚙みも目立ち物語に観客が酔っている途中で現実に引き戻す役割を担ってしまったのが残念だった。この部分は、ナレーターでも良かったような気がする。


まあ、劇団としてはこれらのアイドルを起用することで、集客するという側面もあるのだとは思うけれど・・。また、行表役の荒戸源次郎はただのおっさんオーラが出まくり、芋を頬張るシーンも、セリフを放つ場面でも大そうな僧には見えず、やはり、ただのトボケタおっさんだった。(^^;)これはある意味、「事件」です。
 
演出面では、全員の衣装を白で統一し、観客席通路も存分に使いながら、物語の壮大さを演出し舞台全体を大きく見せていたところは素晴らしかったと思う。またこれだけのキャスト数でいかにも大人数を投影させたような仕掛けは見ていて圧巻だった。またコメディ的な要素も取り入れていたが、これは必要なく、むしろシリアス路線一編で仕上げた方がインパクトが強かったように思う。


それにしても、号泣した舞台だった。全体的な構成力といい、脚本といい、頑張った松枝の才気と根性にj感服させられた舞台だった。勿論、帰りは幸せに満たされて帰ったわさ!