みさの小劇場ウオッチ日記

公演期間 2013/02/19(火) ~ 2013/03/03(日)
会場 LIFT
脚演出 柳井祥緒
料金 1,000円 ~ 4,600円
サイト http://17cm.info/works.html


1980年、冬。岡山県の大摘村で7人が殺傷される事件が起こる。犯人として逮捕された桐原は罪を認め、死刑台に消えていった。そして35年後、2015年の冬。精神分析医 市川玲子(関根信一)が率いる犯罪研究会によるワークショップが開催される。テーマは大摘村7人殺傷事件。参加者は8人。フリーライター・新浜(藤原薫)、東京地検特捜部検事・三雲(浜野隆之)、弁護士・米村(小林祐真)、助産師・後藤(植木希実子)、中学校の社会科教師・向井(北川義彦)、東京都緑化技術センター研究員・七瀬(真田雅隆)、玲子の教え子の大学生・矢神(永松昌輝)、都庁食糧保全部職員・楠木(柳澤有毅)ら8人。


犯人や被害者を演じる「ロールプレイ・メソッド」という手法で、事件がなぜ起こったのかを理解するのが目的だったが、参加者の一人が「桐原は本当に犯人だったのか。」という疑問を口にしたことから、事件に隠された秘密と真実を追求していく本だった。


「津山三十人殺し」をモチーフにした作品で、大摘村で起こったおどろおどろしい殺人事件の犯人は、実は人為的に創作されたものであったことが輪郭として見えてくる。そして参加者たちが関係する親族の情景も絡ませながら、事件を解き明かす道程が実に巧妙。


こういった隔離された村での秘密は大勢の人間の連帯感を保つことに役立ち、特に秘密の内容が後ろめたいことであればあるほど、とてつもなく長い間、人々を結びつけていることが出来るのだ。桐原が殺人犯に仕立て上げられ、そして桐原自身も少年を庇って、村の罪を背負った背景が痛々しい。人間とはどうしてこうも金に目が眩んでしまうのか・・。


村全体が巻き起こしたふるさと補助金の不正を発端に、桐原の正義がアダとなり、桐原一人だけが皆から孤立してしまった事件だったが、大量の水に流され溺れるように、抵抗が出来なくなった桐原の精神と、向井の生徒のイジメ問題が絶妙にリンクして、考えさせられる舞台だった。


インドでは、極楽浄土はハスの花の形をしているとされる。生まれたばかりの釈迦が歩き出し、その足跡から咲いたのが、蓮。そして釈迦は、ハスの花の上に立ち、この世での第一声「天上天下唯我独尊」と、声を上げたと伝えられている。だから、ここで市川が参加者に作らせる蓮の花が、この物語に一層の意味合いを持たせるのだ。


物凄く説得力のある舞台だった。桐原が描いた蓮の花に抱かれる赤子の絵。蓮の花の花言葉は「清らかな心」だ。そして残された村人たちはこの大罪を決して忘れることはなく、村全体で引き起こした罪を背負って生きていたのだ。その後悔の念から書かれた日記がこの物語の核となる。


役者が素晴らしい。そしてそれ以上に本が素晴らしい。検事や役人が自らのプライドを保持する為に「犯人は桐原だ」と主張していた場面が面白い。そして個々のキャラクターに役者を重ね合わせるという劇中劇に捕りこまれた役者としての魂を見た気がした。鳥肌がたってゾクゾクした。この舞台に関わった一人一人を抱きしめてキスしたいくらいだった。