みさの小劇場ウオッチ日記


公演期間 2013/02/09(土) ~ 2013/02/10(日)
会場 サラヴァ東京
脚本 吉田小夏(青☆組)、On7(オンナナ)
演出 吉田小夏(青☆組)
料金 2,500円 ~ 3,000円
サイト http://ameblo.jp/on7onnana/


舞台の床に置かれた無数のキャンドル。やっぱり冬にはキャンドルが似合う。今回の物語は儚い炎の先に描かれる、マッチ売りの少女みたいな大人の絵本の世界観。吉田小夏の描く物語には危険な香りも特別なサスペンスもない。ごくごく普通の、どこの家庭でも経験するような他愛のない物語が多い。しかしワタクシ達はその普通さの中にひっそりと注ぎ込まれた小さな幸せを感じずにはいられない。だから、これほどまでに、ななこを愛おしく思うのだ。


今回の本は主人公・ななこの7歳から77歳までを綴ったもの。モチーフにした絵本は小沢正の「FAKE]、スーザン・パーレイの「わすれられないおくりもの」、マーガレット・ワイズ・ブラウンの「大切なこと」、アンデルセンの「人魚姫」だ。これらの絵本をななこの祖母、母、父、ななこの娘のももこを通して絶妙に入り込ませる。


7歳。幼少の頃のななこの祖母の墓参りのシーンから、この物語の本筋に入る。当時のななこの母親の美しい顔立ちから覘かれる寂しい表情の理由をこの頃は知らないななこ。

17歳。ななこが初めて好きになった同級生の七瀬との恋愛。18回のセックスをした後、突如、七瀬は自殺する。ななこは七瀬を忘れないと誓う。


その後、27歳でゴウダとの子を妊娠し結婚、ももこが生まれる。37歳では、ももこと母親との描写を表現し、47歳で親を見送り、そこで初めて母親が寂しそうにしていた理由を理解する。母と離婚した父はカメラマンだった。57歳で忘れっぽくなった自分の為に日記を書き始め趣味に勤しむ。67歳で日記は10年目となる。この頃になると物の言ってる事を理解し、やすずめの声が聞こえるようになる。(仙人の域に達するのだろうか・・。)しかし、夫の言ってることはさっぱり解らない。笑


77歳。夫に見送られ他界する。晩年の夫婦関係は、何処にでもあるような少し距離を置いた関係のように描かれ、妻は夫に愚痴をいうが、これに対して夫は弁解をしながらも無口。


ななこの一生はきっと人間が経験する一般的な一生とリンクすると思う。それでいて、生々しい思いは伝わってくるのだが、一方では実感として理解しがたい世界に踏み込んだようなもどかしさもあった。たぶん、それはモチーフとして導入された絵本によって、この世界観が織り成す音やセリフの一つ一つに非現実めいた空間が存在したからだ。そういった意味において、成功した舞台だったと思う。


吉田小夏の、熟年夫婦の一般的な様子の描き方が愛らしい。春の日の柔らかな陽射しに似た風景。