みさの小劇場ウオッチ日記


公演期間 2012/12/13(木) ~ 2012/12/25(火)
会場 すみだパークスタジオ倉
脚本 サジキドウジ
演出 東憲司
料金 2,000円 ~ 3,500円
サイト http://www8.plala.or.jp/s-douji/27_oyo.html


『泥花』『オバケの太陽』に続く『泳ぐ機関車』は、ハジメ、千鶴、美代の最初の物語で、ハジメの視線から描いた、狂おしくも儚い少年時代と炭鉱の町が舞台。


筑豊のある町、石炭隆盛の頃。ハジメの命と引き換えるように、ハジメを生み落してすぐに亡くなった母・玉恵。玉恵の母である野毛綾華から資金を援助してもらい、小ヤマ炭鉱主になった玉恵の夫・辰介は炭鉱主としての理想を求め頑張るも、過去に炭坑内で一酸化炭素中毒が起因し首吊り自殺した一人の炭坑員とその残された家族が気がかりで常に心に傷を負っていた。


こうして辰介の子供である小学生の三好ハジメ。そして年頃になった姉二人の千鶴と美代を男手ひとつで立派に育てていたが、気がかりなのは気が弱くおとなしいハジメの事であった。辰介は炭鉱夫達にも慕われる頼もしい男であったが、炭鉱で落盤事故が起こり炭坑員17名の犠牲者が出ると、世間も、そして今まで辰介の恵を受けて甘い汁を吸っていた炭坑員らも、手のひらを返したように辰介を詰り罵倒するようになる。元々、三好家を囲んでいたのは荒くれで一癖も二癖もある炭鉱夫達なのだ。そんな折、17人の遺体を探し出すまでは山を閉鎖すると断言していた辰介は主としての経済も立ち行かなくなり、ついに破産してしまう。


この後の三好家は坂道を転げ落ちるように、辰介の失踪、三好家の残りの財産をあさる者達・・・と人間の浅ましさが展開される場面だ。こういった人間の裏も見せながら、一方でハジメが三好家にやってくる孤児を神様と呼んで慕いながら自分の夢を語るシーンも用意する。この孤児がダンボールで作った機関車に乗っていたことから、父親の理想である炭坑員との共存を掲げていたのを引き合いにハジメは「坑夫の人達の悲しみをポカポカにするために地下水に機関車を走らせて、その蒸気で地下水を温かくします。」と宣言するのだった。


終盤で失踪した父親と再会したハジメの心の動きと確信。そして父親の絶望、その父を支える瑞枝の悲しみが壮絶だった。この物語はすごく切ない。しかし、これから逞しく生きようとするハジメのこれからの人生の始まりでもあり、希望に向かって進む物語でもある。


水を使った舞台セット、音響、演出、どれも見事だ。そしてこの物語を回す役者の素晴らしい演技力に圧倒される。特に個人的に見応えがあったのが野毛綾華を演じた板垣桃子だ。とてつもなく素晴らしい女優だと思う。