創作乱歩狂言 『押絵と旅する男2012』


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公演期間 2012/12/16(日) ~ 2012/12/16(日)
会場 あうるすぽっと
脚本 帆足正規
演出 茂山七五三
料金 1,000円 ~ 3,500円
サイト http://www.owlspot.jp/performance/121216.html


あうるすぽっと名張市・塩竈市・豊島区連携公演 豊島区制施行80周年記念事業 らしく開演前に市長、区長、そして乱歩の孫という方が舞台に立って挨拶していたが、これは必要ないよね。観劇前にこの挨拶、気持ちが落ちるわ。


日本の伝統芸能である能と狂言。幽玄な世界をあらわす能にくらべて、[笑い][おかしみ]をテーマにした明るい雰囲気を持つ狂言。今回は、日本を代表する怪奇譚美作家・江戸川乱歩の世界がコラボする新感覚狂言ステージ。


第一部は海外でもよく上演されている古典「棒縛」
主人が留守になると、太郎冠者と次郎冠者が酒蔵の酒を盗み飲みするので、次郎冠者を棒に、太郎冠者を後ろ手に縛って、主人は出かけます。しかし二人はこうなったら、いよいよ飲んでやろうと工夫を重ね、後手に縛られながらも酒を飲み続ける。この姿に思わず笑ってしまうという可笑しみの多い作品。こちらは本当に楽しかった。


第二部 押絵と旅する男2012

江戸川乱歩の原作は、こうだ。
魚津の浜から帰る汽車の中で、押絵とともに旅しており、景色を見せていた老紳士がいた。この老紳士はその押絵にまつわる奇妙な話を私に語りはじめた。明治の中頃、兄は浅草十二階「凌雲閣」の展望台に登り、遠眼鏡で美しい娘を見出した。その娘をようやく探しあててみると、彼女は覗きからくり屋の押絵の八百屋お七だった。


押絵の中の娘と分ってもあきらめ切れない兄は、遠眼鏡を逆にして自分を見てくれと頼む。言われたとおりにすると、兄の姿はみるみると小さくなり、押絵の中で娘と一緒に睦まじく坐っていた。私はからくり屋からその押絵を譲り受けて、こうして一緒に旅しているだと言う。


しかし、あれから30年も経った兄は確実に老齢化し白髪頭で老け込んだが、お七は昔の美しいままだ。押絵の中で寂しそうに微笑んでる兄は果たして幸せなのだろうか。


上記の原作を随分変えてしまっていた今回の作品は、兄自身が押絵を抱えて旅を続けるし、その途中で酒屋に酒代として押絵を置いてきてしまう。そして、やっぱり押絵が忘れられないと引き取りに伺い、酒屋の主人に遠眼鏡を逆にして自分を見てくれと頼んで押絵の中に入るといったてい。


「押絵と旅する男」は、乱歩の趣味嗜好がよく表れている作品で、魚津の浜の蜃気楼の導入部から、逢魔ケ刻の老紳士との出会いなど、読者を引き込んでゆく無理のない構成で読者を非日常の世界へと誘う。絵画の中に人物が入り込むストーリーとしては、浅草を舞台にノスタルジックにこの物語を彩り、独自の味わいを出すことに成功している。


乱歩の筆は、じつに的確な文章で過不足なく進むのである。老紳士の、ごく自然な語り口で非現実的で妖しい物語を続けてゆく、この奇妙なアンバランス感覚は絶妙だ。また、乱歩の作品にありがちなどんでん返しもなく、夢幻的な余韻を含んだ結末も好感が持てる。


「現し世は夢、夜の夢こそまこと」は乱歩の座右の銘だが、退屈な現実よりも夢や物語の中にこそ真に自分の求める世界があるというような意味あいだと思うが、その言葉がいちばん似合う作品でもある。乱歩自身が自分の作品のなかで気にいっている作品に挙げているのも頷けるが、その作品を変えてしまった今回の狂言舞台は薄っぺらで現実味がありすぎた。