みさの小劇場ウオッチ日記

公演期間 2012/12/15(土) ~ 2012/12/23(日)
会場 ART THEATER かもめ座
脚演出 滝一也
料金 2,500円 ~ 2,800円
サイト http://www.megaba.com/


個人的に滝の書く本が好きだ。だからそれがブラックであろうとホワイトであろうと、どっちでもいい。元々、滝の描く世界にはミステリーやサスペンスが満載で、毎回の如く、ワクワクして観てきた。本来なら、結婚したいくらいだ。そしてもっと傍で、逐一、どんな風に書き込んで登場人物を設定していくのか覗いていたいくらいだ。


【五邪鬼編】
マレーシア南部。拉致された繋がりのない五人の日本人。SONYの社員・藤崎(山上広志)、まりか(前川史帆)、観光目的の坂本(吉田瑞樹)、カメラマンの荒井(星祐樹)、ボランティア研修医の松田(杉本絵利香)だ。


序盤、彼らは壁も床も天井も黒一色の冷たい部屋で、窓もなく、固く閉ざされている重厚な扉一枚を見つめているだけだ。ほとんど会話をすることもなく ただ静寂な時間だけが過ぎていく。しかし暗黙の恐怖は音のない、そして光のない、静謐で漆黒の闇から、じわじわと押し寄せてくる。精神的な圧迫感に耐え切れなくなった時に、人は何かしら安心できる材料を探すものだ。5人は恐怖に慄きながらも自分たちが拉致された目的を探す。そうすることが、まるで安心を買ってるかのような心持になれるからだ。


そして拉致された目的だが、要求はない。世界の富豪たちが最後に生き残る鼠はどれかを、大金を賭けてギャンブルを楽しんでいる構図だ。だから拉致された5人はギャンブラーにとっては鼠同然だ。[五人が一人になった時に その一人が解放される]が、ゲームの内容だ。


5人は生き残る方法を模索するも、5人仲良く脱出する案と、殺し合う案に割れる。そして、このまま様子を見ようと結論づけるも、ゲームの主催者は傍観していない。5人の心をじわじわと揺さぶってくるのだ。その方法が、投函される一通ずつの手紙だ。


その手紙には、坂本の連れの身の安全を保障できない旨の内容が書かれてあった。不安に慄き恐怖の極限に達した坂本はナイフで松田を刺してしまう。こうして、彼らは互いの命を奪い合う結果になるのだった。人間の隠された本質に迫ったような物語だ。人間が恐怖に慄くと、まるで別の生き物のように見えてくる。


まりかの発する声は意図的な針を忍ばせるように言い、熟れすぎた果物を力任せに握りつぶそうとしているような残酷な気持ちが腹の底にあった。藤崎は始終、傲慢をかましていたが、時折みせる、すっと目を細める瞬間のアクドサ、上下の瞼が動いたのではなく上瞼だけが下ろされて細められていた。


凶暴だった坂本は一羽の黒い鳥の顔に見えた。他者を小突き回しながら、その尖った嘴で血肉を啜っているかのように見えたが羽は小刻みに震えていた。松田は一見、職業柄、正義的にみえたが無感情な、しかし静かに狂った鳥だった。そして一番、冷静沈着に見えた荒井は自分の命が危なくなると叫び、極限状態になって命乞いをして、自分だけが助かる方法を探るのだった。


人はみんなとても良く似ている。似ているから心配したり、憎んだり、助けたり、持て余すくらいの愛情を抱いたりする。この物語はむしろ人間を好きになる本だ。冷静な人間が崩れていくさまの描写は、やっぱり人間なんだな・・と妙に安心する。


前川史帆が殺される時の顔が美しい。どのキャストも演技派で目を楽しませてくれた。また、それぞれのキャラクターにピッタリの配役で、見応えも充分だった。特に星祐樹の人間らしい所作は絶妙だった。


ワタクシの観た回だが、まりかの父親の声が最初に入る場面に少し違和感があった。この場面で父親の声が??みたいな。間違えて声を流したのか確認をしたが、間違えてなかったらしい。この部分だけが今でも不思議。