みさの小劇場ウオッチ日記

公演期間 2012/10/29(月) ~ 2012/11/04(日)
会場 SPACE雑遊
演出 長谷トオル
料金 3,000円 ~ 6,500円
サイト http://umptemp.web.fc2.com/top.html

サロメとは…遠い遠い昔に王も恐れる預言者の首を、舞踏の褒美に求めた、お姫様の名前。この物語はサロメが求めた預言者、ヨハネの首を題材に日本神話を絡ませた物語だ。だからヘロデ王は、ここでは、赤鼻の天皇と呼ばれるよろう鐵(西山啓介)であり、王妃ヘロデヤがよろう鐵の律(西郷まどか)であり、サロメが律の連れ子・サキ(板津未来)だ。そしてヨハネがここではシュンカイ。サロメはオスカーワイルドの戯曲だが、今回の舞台に登場する寿安はヨハネのポルトガル語読みである。


そして劇中歌は島崎藤村の詩を用いた。これは海の向こうからやってきた文明に対する憧れと、恋愛を描くといった新しさに満ちた表現で、ここでは与太者の寿安(鈴木太一)が海の向こうからやってきて島に流れ着いた男を演じ、その男の持つ文明に対する憧れから恋愛に転じるのがサキだ。


一人の男・寿安が極東の、名もしれぬ島に流れついたときに物語は始まる。流れついた場所は「イザヨイの穴」と呼ばれ、漂着したが最後、そこからは決して出られないという。ひんやりと冷たい穴の中には、故人への思い出や、何世代もさかのぼる伝説など、さまざま時が刻まれ、そして寿安は伝説の男と同化してゆき、サロメの物語へと誘っていかれるのであった。


劇中、よろう鐵がアマノウズメと交わったことで神の血族になったと豪語し、ウズメの血が流れているよろう鐵の子を律の連れ子・サキに産ませるという血の継承は孤島に息づく因習の臭いもし、そして脈々と受け継がれた宿命的な使命もありで充分にミステリアスに楽しませてもらった。


アマノウズメは、天照大神が天岩戸に隠れて世界が暗闇になったとき、ウズメがうつぶせにした槽の上に乗り、背をそり胸乳をあらわにし、裳の紐を股に押したれて、低く腰を落して足を踏みとどろかし(『日本書紀』では千草を巻いた矛、『古事記』では笹葉を振り)、力強くエロティックな動作で踊って、八百万の神々を大笑いさせた。その笑いを不審に思った天照大神は戸を開け再び世界に光が戻った。という日本神話に登場する神だ。


そして寿安にはサンタクララ育児院で育ったという過去もあり、当時、足の悪い千鳥(森勢ちひろ)を連れてバス停に居たところ、車が突っ込んで来て千鳥は即死だったという。これらの出来事から、この島はきっと黄泉の国の島であり、「イザヨイの穴」は黄泉への入口だと考えて良いと思う。


そうすると、シュンカイの首を取ったウズメを起点にこの物語は何世代もさかのぼり、同じ事を繰り返され、愛を空回りさせながら永遠に続いているのである。まるでギュスターブ・モローの「出現」の絵画の中のサロメがビアズリーの絵画「サロメ」に感情移入するように・・。そしてサキはアサギマダラ蝶のように世代を超えて旅を続け人を、義理の父をも惑わせながら妖しの川開きの舞をウズメのように舞うのであった。


全体的にこの世の場所とは思えないセットと展開。神話好きには堪らない物語だった。サロメの戯曲はしっかりとぶれずに書き残し、日本神話のアマノウズメの魅惑的な物語を加筆し、どの世代になっても変わることなく物語は繰り返される。なんという壮大でファンタジーの強い舞台だったことか。サキを恋慕しているタラオ(櫻井詩音)の自害した血を浴びながら笑うサキはやはりサロメなのである。


強いて言えば、サキにもうちょっとエロがあったらなぁ・・なんて欲をいう。笑
ピアノの生演奏は「新譚サロメ」にぴったりで優雅な気分に浸れました。