みさの小劇場ウオッチ日記


公演の詳細はこっち→http://engekilife.com/play/23903/review


終演後のアンケートに今回の物語は『ケージ』(酒井が高校生時代の処女作)と似ている。なんて書いてしまったが、後から後悔する。帰り道でも電車の中でも、じっくりと考えたが、今回の物語はむしろ、「ドンキホーテ」に似てるんじゃないか?と考え直したからだ。


『ケージ』では、 現実を諦観し理想を夢見ない現代の若者と、 現実感の伴わぬ理想を胸に抱いた全共闘時代の若者との邂逅から、「現実とは理想とは」という若者が通らねばならない問題を追及した作品だった。今回の物語は、ある男が賭け事に勝って手に入れた一枚のチケットで「方舟」へ乗船することになった、いわば理想郷を求めて旅立つ男の幻想劇だ。そうだ、処女作の『ケージ』とは、まったく構成といい、質が違うと今更ながら思う。


ストーリーは船に乗り込んだ男の前に現れる道化や美少女、性別不祥の謎の少年、そして見果てぬ夢を語る革命の女、ニヒリズムで大衆を煽動する男など、登場人物のキャラクターは様々。それは大きな世界でもコロニーのような小さな集落でも似たように統一性がない。


彼らは新しい世界を求めて旅立ったはずだが、何を目的として、誰のために海原へと乗りだしたのかは解らない。解っているのは彼らが決して幸せそうに見えないことだった。そのうち男は道化師に第一の試練・同室の男達と仲良くやること、を与えられる。これは何も方舟の中の試練ではない。現実の世界だってこういった試練は多く、気がつかないうちにやってくる。


方舟という小さなコロニーの中でそのうち乗組員の全員を統一させたいと考える者、指導者として力量を発揮したい者、革命を押し出そうとする者など突出する輩が出てくる。いつの世も同じだ。世界が崩壊して、新しい世界が構築されようと、人間の営みも考えも思想も何も変わらず、また過去が繰り返されるのだ。やがて逃げ場のない船上で、思いもよらぬ対立が勃発していく。


方舟に乗った乗組員たちは序盤、自分達は特別な人間だから・・と誤解するも方舟は何処にも向かっていず、崩壊した世界からの救済でもなく、足元を見れば自分達は大地に居ただけというからくりだった。


結局薬局、幻想に追いすがっていただけの妄想劇だったが、全員の乗組員達の思想をあくまでも個人主義者として描写していた場面の滑稽さは絶大だった。特に理想を夢見て乗り込んだシャンスラードがミーナに恋して彼の心の全部をミーナに支配されていく場面は、まさにドンキホーテ!


演出が意外とこじんまりしちゃったけれど、脚本があまりにも素晴らしい。しかし、硬すぎる。これだけの脚本だから、登場人物全員をもっと道化させ演出でパラダイスに誤魔化したら素晴らしい舞台になると思う。いい舞台だったと今更ながらに感じる。これからの彼の成長も見守っていきたいと切に思う。


負けるな酒井!