みさの小劇場ウオッチ日記


公演の詳細はこっち→http://engekilife.com/play/23052/review


このところ温度差が激しいためか、風邪をひいて喉はガラガラ、声まで変わっちゃったけれどホント観にいってよかった舞台。福岡の霊山と呼ばれる麓で幼少期を過ごした東憲司の本の殆どは福岡を舞台にした作品が多いが、今回も福岡。独特の福岡訛りである・・・「っち」と語尾に付けるセリフは聞いていて心地よい。


物語は天狗伝説を基に書かれたもの。達吉はトリモチ職人だったが息子の進介が6歳のときに女房の早苗は男と逃げてしまう。その後、男と別れた早苗は別の男と結婚し、ちゃっかり他人の妻の座に座っていたが、夫が死んだのを期に達吉の下に27年ぶりに戻ってきたのだった。達吉は早苗が居なくなってからというもの「早苗は神隠しにあった」とか「天狗に隠された」とかいって自分自身を慰めていた。


そんな折、息子の進介も妻の夏子に逃げられたといって達吉の家にやってくる。夏子も男と一緒に逃避行したらしいのだ。なんとも蛙の子は蛙だ。笑)  そして夏子自身も早苗と同じように男と別れる結果になるのだが・・。


そんな不調和音が漂う達吉家だったが明るい早苗の性格に押されるように人の良い達吉同様、進介も早苗の意のままに動かされていく。よくよく考えたら早苗みたいにいい加減で人生をなめきった女がちゃっかり元の鞘に収まるのはなんとも悔しいのだが、この物語は、早苗を悪者にはしていない。東の作品はいつも悪人は居ないのだ。


そんな3人の所へ、満がやってくる。彼女は天狗に会いたいという。そして隠されたいともいう。満は自分自身が生まれ変われるんじゃないかと一縷の望みを持ってこの地に訪れたのだった。何か深いワケがあるのかも知れないと悟った達吉と早苗は天狗は居ると大芝居を打ち、進介が呆れる中、達吉と早苗と満は毎日、山へ天狗探しに出かけるのである。この場面の情景がほのぼのとしていて実に穏やかである。天狗探しの傍ら3人は茸狩りや釣りに勤しむのだ。


更に本編に天狗が全国から集まってくるというセリフ、天狗祭りの情景などまさに大人の童話さながらのお話だ。観ていてワクワクしてしまう。一方でそんな家族に癒されながら人生を見つめなおす満。そして「私は誰からも愛されない。なにをやっても上手くいかんとです。」とのセリフに打たれる。


上手い。東はいつも最後にこういった人の心に染み入るセリフをもってくる。そして今回も独特なセット。大きな満月が浮き出る場面。美しく幸福に満ちた満月だ。その満月をバックに吐く達吉のセリフも素敵だ。脚本、演出、古典的な音響、衣装、構成・・、どれをとっても完璧だった。


そして秋の夜に相応しい舞台でもあった。