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月船さららを観たのは、2011年10月6日(木)~13日(木 )赤坂RED/THEATERにてmetro第4弾『引き際』以来。あの時の月船より今回の役どころである質素なフサエ(月船)がやけに色っぽく美しい。


舞台は、1930年代の神戸。無装飾のコンクリート製の巨大な建物の中は、蜂の巣のように、小さな部屋に分かれ、まるで刑務所のような様相であった国立海外移民収容所での一室が舞台。2日後に迫ったブラジルへの出航を待ち、移民局が課した条件である「家族」を構築するべく母親のフサエ、娘のオオギ(岡田あがさ)、息子のトカチ(岸本卓也)、そして父親のアキノリ(康喜弼)の4人は本当の家族ではないものの、「家族」になったのだった。


彼らは帰るべき故郷を失ったワケありの者たちだ。だからそれぞれの人生をかけてブラジルへ渡航するには「家族」になるしか道はなかったのである。移民として海を渡る4人の「向こう見ずな希望」や「日本を離れる不安」などが入り混じる会話劇だった。


ほの暗い照明がうらぶれた国立海外移民収容所の情景を見事に反映していたと思う。また4人のキャストのあまりにも秀逸な演技力に魅せられる。特に月船は流石。序盤で見せる、偽装家族としてのぎこちなさや怠惰感から、共に暮らすようになった2日間でのそれぞれの事情を知った終盤での人間の情の移り変わり。そして父親のアキノリが吐く「俺たち本当の家族にならないか」なセリフは共感できた。


一方で子供を失ったフサエが過去の懺悔に苦しみもがき後悔する場面での、アキノリの本音を垣間見るシーンは人間の本質を覗いたような展開だった。だから「こんな奴と行っちゃダメだ-!!」と思わず叫びそうになった!苦笑。


子供を失ったフサエに対し、チャブ屋(風俗)で働いていたオオギが身ごもる設定はどこか希望と絶望の競演のように感じられ、その見事な脚本に舌を巻かれる。


幕引きは4人が本当に船に乗り込んだのかを曖昧にしていたが、4人の素晴らしい演技力に魅せられた舞台であった。たぶん、このキャストだからこそセリフの一つ一つが、それなりの意味を持ち重い。