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脚本・演出:西田大輔
いあいあ、西田、本当に素晴らしい快進撃です。舞台を観るというより西田大輔の快進撃を確認しているようなもの。思えば数年前、劇団AND ENDLESS公演を観に笹塚ファクトリーまで行ったのが嘘のよう。その後、「戦国BASARA」「銀河英雄伝説」等のヒットを飛ばし、今度はオーチャードホールでの公演。小劇団でこれほどのサクセスストーリーは類を見ない。

その恩恵で劇団AND ENDLESSの田中良子と佐久間祐人も出演したが、これがどうして堂々たる演技で河村隆一や諸星和己、鈴木亜美らを抑えてた。特に終盤で石原美智子(田中良子)が思い出を語るシーンなどは圧巻!そして意外だったのが大澄賢也(芥川龍之介役)の舞台を丸ごと飲み込んでやる的なド迫力だ。大澄は役者としても充分、イケルように思う。この日は鈴木亜美がカミまくり、何を言ってるのか解らない場面でも、落ち着いていた大澄がフォローするというさま。鈴木亜美は発声から勉強してほしい。演技もイマイチ。

で、今回の舞台はミュージカルというよりも音楽劇で、物語の合間に歌を導入するという構成。そして太宰治の名作・友のために走り続けるメロスの物語「走れメロス」を、太宰治自身の作家としての生きざまを描いたものだった。だから、「走れメロス」そのものを期待して観に行った観客は期待外れだったし、西田の作・演出なので、一筋縄ではいかないだろう・・と考えていた観客は面白く観られたのではないだろうか。

辻島衆二(諸星和己)は遅咲きの作家である。才能に恵まれながらも、機会に恵まれず、いわゆる流行作家とは無縁の生活を送ってきた。それでも「真の文学とは」の意思を貫き、ただ黙々と作品を書き続けていく。そして衆二は遂に、芥川賞の候補に入ったのだ。
学生時代に「親友」と共に親交のあった井伏鱒二(佐久間祐人)の下、一本の電話を待ち続けている衆二。

この電話の先にある未来が、信じつづけた自分の才能への賛歌になるのだ。そして一本の電話が井伏鱒二から鳴り響く。だが、それは朗報ではなく、悲しい呼び水を誘う電話であった。「太宰君が亡くなった。自殺だそうだ。・・・君は親友だったね」

太宰の想いを知るように、走り出す辻島。辻島は全てを知るために、太宰と作家たちの回想シーンで物語を紡いでいく。残された時間を、太宰に捧げる為に。まるでメロスのように太宰の為に走り続けていく。

回想シーンでの太宰らが飲む酒は本物の酒だったようで、こういった演出は西田特有のお茶目な部分だ。また太宰と芥川自身が漠然とした不安に襲われていた心情や孤独、生きるとは心を殺す事なのね・・など、二人が自殺に至った心持ちを描写していた。

ワタクシは常日頃から太宰と芥川は似ていると言ってきたが、よくよく考えたら作家という職業はアスリートのようなもので、書くために走り続ける、いわばメロスのようなものだ。そのストレスは相当なものだとも思う。

だからヒロポンや女に逃げるという精神構造、解るような気がするのだ。

ロック、クラシック、ジャズ、ハウス、オペラなど多彩なジャンルの劇中歌は、全て河村隆一の書き下ろしで、その声量は流石。河村は映画「ピカレスク人間失格」でも太宰治役を演じていたので今回が2度目だ。そして芥川文(國元なつき)の脇役ながら、しっとりとした安定感のある演技力に脱帽!

総括すると脇役の実力が目立つ結果に。苦笑!
そして劇中に導入されるダンスの振付監修は大澄賢也。これが実にいい。作家・太宰の交友関係をご存知の方は楽しめる。そして座席は確実に前の方がいい。2階バルコニー席がお勧め。

余談:それにしても長い。18:30開演、22:00終演。