夕食のとき、もねちんが
「今日ねー、学校の屋上に行ったんだよ」と言った。
「なんで?」
「ナナちゃんの飛行機に、みんなでバイバイって手を振ったの」

ああ!ナナちゃん!

ナナちゃん(仮名)は、もねちんが2年生に進級してすぐにやってきた
カナダからの転校生の女の子。
お父さんがカナダの人で、お母さんが日本人。
日本の暮らしを体験させたいから、ということで
1年間の期限付きでもねちんの小学校に転入してきたのです。
2年生は2クラスで、ナナちゃんはお隣のクラスだったのですが
女の子の人数がもともと少ない上に
2クラス合同で行う授業もあるので、
すぐにお友達になりました。
金髪で、色が白くて吸い込まれそうな目をしていて、
とてもかわいい女の子でした。

同じ時期、もねちんのクラスにも女の子の転校生が一人やってきました。
その子は、八重山の他の離島から来た子で、
なんとその子も名前が「ナナちゃん(仮名)」だったのです。
こちらのナナちゃんは、どちらかというとおてんばタイプで
どんな強い男の子とも互角に渡り合う度胸の持ち主です。

クラスの違うナナちゃんたちは、なんだかとっても気が合うみたいで
登下校もいつもいっしょでした。
私は、カナダのナナちゃんがいなくなってしまったら、
もう一人のナナちゃんはどんなに寂しがるだろうと
少し心配もしていました。

お別れの期日が近づくにつれ、
二人の絆はますます強くなったように感じられ
(もねちんの話などから察する事ができました)、
先日行われた校内持久走大会では、
この2人のナナちゃんが、なんと学年ワンツーフィニッシュだったんです。
最後にいい思い出ができてよかった。ほんとに。

ナナちゃん、昨日が最後の登校日だったそうです。
学年全体でお別れ会すればいいのになと思っていたのですが、それはなかったみたい。
でも、もねちんのクラスにもやってきて
「ありがとう、お世話になりました」って挨拶したんだって。
もねちんのクラスのナナちゃん、ずっと泣いてたって…。

今日の飛行機で石垣を離れたナナちゃん一家。
しばらく国内を旅してカナダに帰るそうです。

「あんたのクラスはともかく、2組だけでも空港にお見送りに行けないもんかね」
「んー、授業があるからねえ」
そうだよねえ、平日だもんねえ。学校は抜けられないよね…。
昨夜、そんな話をしながら、私もしんみりしていたんですよ。

そしたら。

普段はまったく使われない屋上に、
1組と2組、全員で上って
ナナちゃんの乗った飛行機に向かって
みんなで思いっきり手を振ったんだって。

「手すりがなくて、ちょっと怖かったよ、屋上」

先生たちも、よっぽど細心の注意を払ったに違いない。
そこまでして、実行してくれた事なんだ。

ナナちゃん、見えたかなぁ。みんなの手を振る姿。
(意識して見ようとすれば見える確率は高い)

屋上から下りて教室に戻ってから、
1年生の子が、落とし物のハンカチを届けに来たんだって。
それを受け取ったもねちんが、ハンカチ見てびっくりした。

カナダのナナちゃんの名前が書いてあったから。

「なんでだかわからないんだけど、もね、それ見て泣きそうだったんだ」

そのハンカチ、もねちんは2組の教室の後ろの棚に、そうっと置いて来たそうです。