彼の結婚は、一目惚れだった。
少し個性的なくらいキリッとした顔立ちの美女、彼の家族は彼女の出自を気にして反対したが、彼にはそれは大した問題ではなかった。


彼は満足していた。
美人の奥さんに会社ではエリートコース、仕事さえしていれば家のことは彼女が完璧にこなしていた。


彼女は少し風変わりでもあった。家事をしている以外は、いつも本を読んでいた。
ある日、彼女が読書に没頭していて彼からの問いかけに応じなかった時、彼はカッとして彼女を怒鳴りつけた。


彼女は見たことのない激しく険のある顔で彼を睨みつけた。
その時初めて、彼は彼女のことを恐ろしいと思った。


そんな時、職場の上司に「ゴルフ場で奥さんを見た」と告げられた。
彼は彼女の行動範囲を知らなかった。家で従順に暮らしていると思っていた妻が何か得体の知れない生き物に思えてきた。


それから、彼は体に変調をきたしてきた。
順調だった仕事にミスが出て、初めて人生に焦りを感じた。


突然、彼女は彼に離婚を切り出した。
慰謝料はいらない、とにかく離婚してくれと言った。いつの間にか宅建の資格も取っていた。


彼は兄に連れられて精神科を訪ねた。
人生で初めての挫折だった。彼はどうしていいかわからなかった。


離婚してから、彼はかつての上司に聞いてみた。
上司はためらいながら言った。「奥さんはな、あそこではマノンと呼ばれていた」


彼はなんとなく納得してそれを聞いた。